「今日は、いただきたいと思っています」

飯田橋オフィスの広々とした会議室。壁には、一面に資料がずらりと貼り付けられています。「おつかれさまです!」と現れた田中さん。
議論が活性化するよう、会議はそのままスタンディングで行われました。

まずは、リーダーの穴澤さんからこの場の議題と、「今日はゴーサインをいただきたいと思っています」との宣言が! そう、みんな気持ちはひとつ。現オフィスの退去期限までに新オフィスを完成させるためは、もう後がない、崖っぷちなのです。「わかりました」と静かに答える田中さんの目にも、メンバーとそのプランへの期待の高さがうかがえます。

さっそく議題へ。ひとつめは、今回からプロジェクトチームにジョインした、人事で社員への発信を担うインナーブランディング(以下、IB)担当のごっちんによる「新オフィスでの『働き方』についての提案」です。

じつは、これまで9ヶ月間チームメンバーとしてプロジェクトを一緒に進めてきてくれた人事さいちゃんが別業務で多忙になってしまい、残念ながらチームを去ることに。

さいちゃん……。

そして今回で設計方針が決まれば、ここから先は社員を巻き込みながらあたらしい働き方を浸透させていく次の段階に入っていくため、プロジェクトリーダーをバトンタッチすべく、新たにIBごっちんが合流したのでした。

まずは「働き方についてのおおきな指針」を田中さんに共有します。あくまで、実際の“レイアウト”は、この働き方を実現するためのもの。焦らず、前提の認識からすり合わせていきます。

作業をやめて「みんなが集う場所」に

IBごっちん「社員のみんなには、このオフィスでどんな働き方をしてほしいのか、このオフィスをどう使ってほしいのか、それを新オフィスのレイアウトの概要を伝える前に、しっかりと伝えていかなければいけないと思っているんです」

たしかに、とちいさく頷く田中さん。

IBごっちん「新オフィスは、社員が行きたくなる『みんなが集う場所』を目指します。立地はいまより不便になりますし、面積も狭くなる、席数も減る。いまと同じやり方をしてもしょうがないので、一人で行う“作業”は基本的にやめてもらいます! オフィスにいるときは、人と人が顔を突き合わせて、アイデアやひらめきを生み出せる時間にしてもらいたいんです」

大胆な提案ですが、世の中の「あたらしい、あたりまえ」をJINSがこれからも創り出していくためには、働く自分たちこそが誰よりもワクワクしている必要がある——このメッセージには、そんな想いが込められています。

田中「一人では働かないオフィス、いいですね! 具体的な働き方は、部署ごとに検討が必要でしょうからCO(チーフオフィサー)と相談してください。全体のメッセージとしてはいいと思います」

田中さんからも共感の言葉が。幸先のいい滑り出しに、ごっちんからもほっと安堵の笑みがこぼれます。

「(一人作業での)仕事をしないオフィス」。まったくあたらしい「場」を作り出すと同時に、これまでとはまるでちがうあらたな働き方を生み出そうとしていることが、あらためてよく伝わってきます。これを実現するための細かいことをいくつか確認したところで、ごっちんの出番は終了。

四角から丸へ生まれ変わる?

そしていよいよ、懸案事項となっていた6〜8階の「執務スペース」のレイアウトについてです。

前回のフィードバックを受け、じゅうぶんな席数を確保しながらデザインで快適を生み出そうと、髙濱さんは2つのプランを用意してきました。

髙濱「まずひとつめは、『Organic Comfort(オーガニックコンフォート)』というプランです。田中さんからの『有機的でやわらかい形がいい』というご意見と、長谷川さんからご指摘いただいた快適性に関わる考え方を吸収して反映してみました。5階のカフェはハイカウンターを延長して広げて作業がしやすいように、6階はグループワークができるよう曲線的なデザインのテーブルを並べています」

フロアごとにレイアウトがおおきく異なるユニークなプラン。ですが、髙濱さんは「ただ、」と話をつづけます。

髙濱「ただ、席数の考え方や形状などについてあらためてじっくり考え直してみたんです。有機的な線は残しながらも、より実用的でスタッフ同士が相互に関係しあうことはできないだろうか。そう悩んだ末にたどり着いたのがもうひとつの、この『Organic Interactive(オーガニックインタラクティブ)』というプランです」

そう言って、デスクの写真を見せる髙濱さん。これは簡単に分解もできるというオリジナルのデザインで、以前、田中さんから「“壊しながら作る”を体現していて、おもしろいですね!」とポジティブな反応をもらっていたもの。

髙濱「しかし実際に作ってみると、思っていた以上に角ばった印象でした。そこで、もっとワクワクとできるものにアップデートできないかと、半円を両端につけることを考えました。こうすることで、むき出しだった単管バリケードの印象が弱まり、より有機的なイメージになると思います」

さらに、うわ板のデザインでゆらぎを表現した波型バージョンの提案も

オフィス全体を通して、角ばったものはなるべくなくし、丸みややわらかさを取り入れていきたいという髙濱さん。設計はぎさんも言葉を添えます。

設計はぎさん「いまのオフィスがソリッドな“四角”のイメージなので、その対比として新オフィスでは“丸”を上手く活用した、やわらかなイメージを目指したいと思っています」

これには田中さんも「時代に合っている気がするし、とてもいいですね」とにっこり。
そして、このデスクを活用したプランの説明へと移ります。

髙濱「この単管バリケードテーブルを活用して、吹き抜けの周りには5階・6階ともにグループワーク用のテーブルを配置します。それ以外にはソファベンチを配置。植栽のグリーンを見ながら座ってもらいます」

壁を目の前に黙々と作業をするのではなく、みんながそれぞれ植栽のグリーンに向かって仕事をするスペースは、JINSが目指す「あたらしいオフィス」にまさにぴったり。「うん、うん」と田中さんも頷きますが、同時にひとつの懸念が生まれたようです。

田中「ソファで働くときって、素材によってはものすごくお尻や腰が疲れるじゃないですか。そのへんは大丈夫なんですかね?」

たしかに、コミュニケーションが活性化する場だからこそ、気がつけば長時間経っていた……なんてこともあるかもしれません。 カフェや自宅のソファで、腰が悲鳴を上げてしまった経験をそれぞれが思い浮かべます。

田中「オフィス内で積極的に“動いてほしい”という意図があったとしても、使い心地の悪い椅子があれば、それは使われない椅子になるんだよね」

田中さんからの鋭い指摘に「うーん」と考えるメンバー。そんなことが起きれば、出社した人の席数も足りなくなってしまうでしょう。
しかし、そこへ髙濱さんも提案を重ねるのでした。

髙濱「なるほど。そうなることを踏まえてこのスペースを失くしたり他の席を増やすよりも、ソファベンチの座り心地そのものを追求したほうがいいように思いました。同じような単管テーブルの席を増やしても、働き方の幅がなくなってしまいますしね」

田中「そうですね、心配事はそのぐらいなので安心しました。そのほかは、全体的にすごくいいと思いますよ!」

9ヶ月を経て、みんなの視座や提案の仕方が、あきらかに変わってきています。

「あたらしいオフィスって感じがするよ」

田中さんの反応に、胸を撫で下ろすプロジェクトメンバーと髙濱さん。

田中「うん、全体的にすごくあたらしいよね。あたらしいオフィスって感じがする。良いと思います!」

安堵と喜びで、気づけば会議室はたくさんの笑顔であふれ、あちらこちらで「よかった」「よかった……」との声が漏れます。

設計はぎさん「背水の陣で臨んだので……はあ、よかったです……」

おおきな課題であった6〜8階の執務スペースのレイアウトが決まり、誰よりもほっとしている様子のはぎさん。今回はじめて田中さんに共有した「新オフィスでの働き方」についても承諾を得られ、ひとまずの達成感を噛みしめながら、みんなで互いにちいさな拍手を送り合いました。

ゼロから計画を始め、汗をかき、ここまで9ヶ月間走りつづけてきたメンバーたち。おおきく前進し、さあいよいよ次は「社員説明会」で社員たちに移転と次のオフィスについて、はじめて話をする場を設けます。

……と、思ったのですが。

状況が一変。じつはこの裏側で、事件が起きていました。まさかの移転が延期に……?! そして、一時的に東京本社オフィスが存在しなくなってしまう? 次回更新をお待ちください!

〜つづく〜