あたらしい働き方、2つのポイント
ハードとしてのオフィスの設計と、ソフトとしての働き方の設計を両輪に進めてきた引っ越しプロジェクト。「大企業病」を払拭し、ベンチャー魂を取り戻すための「JINSのあたらしい働き方」をどう提案するか、新オフィスに移るタイミングでの打ち出しを目指してプロジェクトメンバーたちは議論を重ねてきました。そのポイントは、大きく2つあります。
ひとつめが、「出社の頻度」。コロナ禍を経て、JINSにもリモートワークが定着しました。現在は部署ごとに方針を定め、とくにデジタル系の部署を中心に在宅ワークも取り入れています。

引っ越しプロジェクトチームが本社勤務社員に取ったアンケートから、さまざまな「働き方」の実情と課題が見えてきました。このアンケートからは、職種によって出社率に大きく差があることが読み取れます(2022年1月時点)
ただ、リアルで話すからこそ思いがけないアイデアが生まれることもあるし、「お任せ」にするとどうしても「来る人は来るし、来ない人は来ない」となってしまいがち。引っ越しを機に、あるべき働き方の指針を設けたいと考えました。
2つめが、「働く場所とルール」。いざオフィスに出社してもらったとして、ただデスクに縛り付けるのでは意味がありません。どこに、だれと座って、どんなふうにコミュニケーションを取ってもらうか? あるいは、いかに集中してもらうか?
アンケートでは、「オフィスでは共同×創造的な仕事がしたい」と答える声が多く見られました。とはいえアンケートを取ったのはコロナ禍まっただ中で、そのころより全体的に出社率は上がっています。オフィスでソロワークに取り組む時間も増えているでしょうから、バランスが大切だとプロジェクトメンバーは考えました。チーム仕事とソロワーク、いずれもクリエイティビティを刺激するような働き方の提案ができるかどうか、ルールの設定が腕の見せどころと言えるでしょう。

各階の役割がまとまって少し経った夏の終わり、この「出社の頻度」と「働く場所とルール」について、プロジェクトチームでまとめた案を組織づくりに関連する取締役や執行役員に共有し、問題がないかを確認する時間を設けました。JINSの役員はみなさん気さくで、ざっくばらんにお話しできる方々。いろいろな場面を見てきた彼らにチェックしてもらい、それを踏まえてCEOの田中さんへと提案することになっています。
「3つの働き方」ができるオフィス
リーダー穴澤「今日はお時間いただきありがとうございます。新オフィスでの働き方のご提案として、まずは6〜8階、執務スペースの図面をご覧ください」

リーダー穴澤「四角い机がずらりと並んでいますが、こちらの考え方についてお話しします。執務スペースにどれくらいの席数が必要か考えるうえで、我々は最近の出社率のデータを参考にしました。こちらの曜日別の出社率をグラフにしたもので、『平均6割、多い日(重要会議や部署ミーティングが集中している火曜日)で8割』となっています」

この数字をもとに、席数はメインの執務スペース(6〜8階)だけで「オフィスで働く人数の最大8割」を満たせる状態にする、とリーダーは説明。そのために机をできるだけ効率的に並べ、席数をしっかり確保しました。この机の4人席はそのまま使えば社員の6割が座れる計算です。6人で使えば社員の8割がカバーできるので、出社率と照らしてもじゅうぶんな席数です。
この案に対し、執行役員の荒川さん(管理部門統括・このプロジェクトの責任者)が社員目線の質問を投げかけます。
執行役員・荒川さん「4人席に6人座れば、とのことですが、ひとりあたり使える幅はどれくらい変わりますか? 狭すぎませんか?」
設計はぎさん「4人掛けだと1.2メートル、6人掛けに詰めると80センチメートルになりますが、『出社率8割』の日は週1なので許容範囲かなと。ちなみにいまの飯田橋オフィスはひとりあたり1メートルなので、4人掛けだとむしろ広々使えるはずです」
取締役・田中(亮)さん「なるほど。しかも、5階カフェや9階ラウンジを抜いた状態で8割満たせるんですね?」
広報いけっち「はい。なので実際は6〜8階が窮屈だと感じたらほかのフロアに移動する、というふうになるかなと思います。また、仮に100%出社してもビル内のどこかに必ず席はあります」

おふたりが了承すると、リーダーが重要なトピックについて話を展開します。以前、CEO田中さんから提案された「ラウンジのような空間で自由に働けないか」という問いについてです。
リーダー穴澤「これについては我々もよく議論したんですが……ラウンジのような空間はゆとりが必要になり席数が減るので、いまお話ししたとおり、田中さんには『執務スペースについては席数確保を優先したほうがよいのではないか』と回答するつもりです」
設計はぎさん「今回、個人で行う『デスクワーク(含むリモート会議)』、部署での『グループワーク』、リラックスしての『ラウンジワーク』の3つに活動をわけて考えました。6〜8階の執務スペースはデスクワークとグループワークの空間、カフェやライブラリはラウンジワークの空間として、自由に行き来できるよう促したいと思います。なので、全体がラウンジのような空間である必要はないかなと」

広報いけっち「ラウンジで働くって、楽しそうだしおしゃれなんですが、仕事をするために設計されているわけではない椅子やソファでずっと働くのは身体的にはきびしくて(笑)。やはり拠点として自分の席があって、そこからあちこち自由に移動するのがいいんじゃないかと考えています」
人事Sam「5階や9階にゆとりのあるラウンジワークスペースを提供するためにも、先ほどご説明したように執務スペースは机を詰め込むかたちになりました。なので6〜8階だけ見ると一般的なオフィスに見えるかもしれませんが、9フロア全体で見るとバラエティに富んでいるのでご安心ください! 状況や気分に合わせて、ぴったりのワークスタイルが選べる。みんながハッピーに働けるよう考えました」
広報いけっち「机自体も、建築家の髙濱さんが制作してくださったベニヤと単管パイプを組み合わせたオリジナルのもので、ザ・オフィス家具には見えず、雰囲気はよいかなと」
部署ごとのローテーションで、対話を促したい
続いて、はぎさんから執務スペースの運用について説明です。提案は、コミュニケーションを活発にするための「部署ごとの週替わり席替え」! はぎさんからその言葉を聞いて、役員陣も「へえ」と興味深そう。
設計はぎさん「いまのオフィスは各部署のエリアが固定されたグループアドレスですが、新オフィスでは週替わりでグループの拠点を変えていこうと思っています。隣り合う部署も毎週変えていく。ふだんはあまりコミュニケーションを取らない部署同士が近くに座る週もあります。隣り合う部署が変わると毎週新鮮ですし、ワンフロアが狭くなったことで偶発的な会話が生まれやすくなるんじゃないかと。
いまのオフィスはワンフロアが広すぎて、隣り合う部署とでさえ『同じ空間にいる』意識が薄いのではと感じています。実際、コミュニケーションについてアンケートを取ったところ、関係性では『他部署間』が、内容では『雑談』が足りていないという結果が出ています。また、8割が『組織横断は重要』だと考えているけれど、『組織の壁を超えるのはむずかしい』と感じている人もそれなりにいる。これらの課題を克服するためにも、やる価値はあると判断しました」

広報いけっち「このローテーションのアイデアは、飯田橋に移る前にいた原宿のオフィスからもらいました。社員が増えて執務スペースに入りきらなくなったとき、ひとつの打ち合わせ部屋をファンクションルームと称して開放して、週替わりでむりやり2部署ずつ押し込んだんです(笑)。苦肉の策でしたが、小耳にはさんだことが仕事に活きたり、他部署理解が深まったり、なによりそこで交わす雑談がおもしろくって!」

2011〜2014年が原宿オフィス。急成長期の組織を思いがけず支えたのが、2013年ごろから始めた「部署ローテーション」だった
プロジェクトメンバーもお気に入りの「部署ローテーション案」。取締役・執行役員のみなさんも、「いいですね」とうなずきます。
執行役員・荒川さん「アイデアはおもしろいですね。問題は、具体的にどう運用していくのかですね。何を見れば自分の座る場所がわかるのか、どうローテーションをまわしていくか。そこが見えると働くイメージがさらに湧きやすくなると思います」
取締役・田中(亮)さん「全体的な考え方は問題ないし、楽しみです。荒川さんと同じ意見だけど、あとは運用が具体的に見えるといいんじゃないかな。社長に話すときも、そこをしっかり見せたほうが納得してもらいやすいと思います」
リーダー穴澤「はい、そこは今後システム部とも議論していきます」
ここで、執行役員の小林さん(人材開発部門統括)から「出社頻度」に対するコメントが。
執行役員・小林さん「この席数については、現状の出社状況をベースに考えたんですよね?」
設計はぎさん「そうです。今後の出社頻度については、基本的にみんなに『目安として週3日』を掲げてはどうかと考えています。強制はしたくないので、あくまで指針として」
執行役員・小林さん「なるほど。ただ、現在は『なんであの部署はいつも出社していないんだ』といった声が聞こえてきたりと、出社に対する意識のすり合わせがあまりできていない状態です。新オフィスでは『全部署週3出社』を目安に考えているようですが、ほんとうにそのアナウンスで問題ないのか、執行役員の中でも話したほうがいいなと感じました」
広報いけっち「出社頻度については、ぜひ議論していただきたいです! たとえばわたしのいるPR部門は社外で仕事をすることも多いのですが、『いつもいないよね』って思われたり『社内にいない=仕事をしていない』と誤解されるのも寂しいので。部署ごとにコミュニケーションの必要頻度も異なると思いますし、田中さんが掲げている生産性3倍(*)を実現できる働き方の解を、役員間でもすり合わせていただけるとありがたいなと思います」
(*……この打ち合わせの少し前、社長朝礼でCEOの田中さんが今後の方針として「いまの3倍働く組織」と掲げ、会社に緊張が走った。現在、その数字を達成するためにどう働くべきか各部署でさまざまな議論を重ねている)
執行役員・小林さん「はい、わかりました。僕からも、以上です」

こうして役員たちからアドバイスとお墨付きをもらい、短いながら充実した打ち合わせになりました。
「執務スペースの考え方とレイアウト」「部署ローテーション」「週3出社目安」。アンケート結果を並べ、ヒアリングを重ねながらプロジェクトチームで詰めてきた「働き方」について、ひとまず役員陣からはゴーサインが出たかたちです。次はこれらの方向性を、 CEOの田中さんとすり合わせていきます。
……そう、「すり合わせ」のつもり、だったのですが……!?
~次回へつづく~