少人数「コの字」スタイルで、いざ。

JINS創業者でCEOの田中さんから「全体の方向性はいい」とゴーサインをもらいつつも、「もっと自由なオフィスに」「型にはめすぎ」と鋭いフィードバックを受けた前回のプレゼン。具体的には、面積が大きく減ることにとらわれた結果、各フロアの役割を細かく定めすぎたことを指摘されたのでした。

今日は、そのフィードバックと「オフィスサウナ案」を受けて建築家の髙濱史子さんとプロジェクトメンバーで考え直した、第2案を掲げての再プレゼンです。

*前回のプレゼンの様子はこちら

また今回は、「大企業病だよ!」「(この並びだと)ざっくばらんに意見が言いづらい」と言われた反省を踏まえ、プレゼンの形式にも気を配りました。前に座った田中さんとずらり並んだプロジェクトメンバーが向き合うスタイルから、全員で模型を囲むコの字型に。

参加者もおよそ半数になり、会議室もコンパクトな場所をチョイス。その影響か、前回の緊張感に満ちた空気に比べるとずいぶんなごやかです。

13時ちょうど、田中さんが入室。髙濱さんのプレゼンがスタートしました。

「One Tree」でオフィスを貫く

プレゼンは、田中さんのフィードバックを踏まえたポイントの共有からはじまりました。

ひとつめが、既存のオフィス機能を当てはめすぎず、社員が自ら用途を見いだし使いこなしていく「原っぱとしてのオフィス」というあり方。ふたつめが、オフィスらしくない家具を使うなどの工夫で「オフィスの概念を壊す」という考え方。

これらの指針によって目指すのは、働く人が創造的になり、わくわくするオフィス空間です。

この視点をベースに、新しくフロアプランも組み直しました。前回からとくに大きく変更されたのが1階、2階、9階。

1階はカフェに加えて「プロジェクトスペース」を設け、アーティストに展示や企画、制作をしてもらう場所に。

2階は、ワンフロアをまるごと使った「原っぱ」の大会議室に。使い方は社員によって、また集まる人数や会議の種類によってさまざまに変化させることができます。

9階には6人用サウナとソロサウナに加え、フィットネスやヨガもできるスペースを用意。ゆったりくつろげるラウンジも作ります。

これらの変更に伴い、社外商談室やCEO室など多くの部屋がフロアを移動。また、専用部屋もほぼなくして作業場はオープンラボとして集約したので、各スペースの区切りは前回よりゆるやかで、開放的です。

そしてプレゼンは、前回示したグランドコンセプト「建築を解体し、アートとしてつくる」の具体的な内容に移ります。

オフィスに取り入れるアートを「作品コレクション」と「アーティストに制作してもらうコミッションワーク」、そして「髙濱史子建築設計事務所(+ft+)からの提案」の3つに分類。

この3つめの髙濱さんの事務所からの提案については、とある方向性を掲げました。

「One Tree『一つの木』」。

建物全体を1本の木に見立て、「壁としての、床としての、家具としての、階段としてのアート」をちりばめたオフィスをつくりあげていくのです。

髙濱さんは国内外のさまざまな参考資料を示しながら、「One Tree」のイメージをひとつひとつ共有していきました。

雲間を抜ける様子を表す、9階サウナ。視界を覆う雲が消え、青空へと抜け出た瞬間ぱっと目の前がクリアになるように、すっきりととのう場を目指します。

光合成を担う葉は、デスク。1本の丸太から切り出してオフィスらしくない家具にするだけでなく、一体感をうみ出す狙いもあります。

恵みの雨は、3階社外会議室。仕切りには雨を模したガラスを入れ、外部の方とのコミュニケーションがアイデアを育む雨のような存在となるように、という思いを表現。

全体の中心となる幹は、5〜8階の吹き抜け内階段。階段自体がアートであり、アート作品を飾る場所にもなります。

そしてすべてのはじまりである種は、2階「原っぱ」。造作家具として床に約200脚のベンチが格納され、使うときには手動で引き上げる仕様です。

ここで田中さんが「へえ、そんなことができるんだ!?  おもしろいねえ」と声を漏らします。髙濱さんは構造を説明しつつ、「以前、スイスの美術館で似たものを見かけたことがあって。比較的ローコストで作れると思います」とにっこり。

さらに執務スペースや個人ロッカー、デザイナーエリアといった各階のポイントを説明して、髙濱さんはおよそ20分にわたる再プレゼンを終えました。

さて、田中さんからのコメントは……?

残る課題は、「1階」の使い方

田中「ありがとうございました。……はい、いいと思います!」

田中「まとまってきましたね。『One Tree』はいいコンセプトだし、2階のベンチもおもしろいんじゃないでしょうか。……社長室がある階、みんな来てくれなくてさみしいフロアにならないといいけども(笑)」

そんな言葉で笑いを誘う田中さん。そのままみんなで模型を囲み、細部の確認に移ります。サウナのサイズ、カフェのデザインなど「こうしたほうがいい」とフィードバックをもらったり、意見を交わしたり。

その中で、「ここがいちばん気になりますね」と田中さんがあるフロアを指さしました。

1階、リーダー案の荷さばき倉庫の手前に位置するカフェと、アーティストに開放するプロジェクトスペースです。

田中「ここ。なんだか、中途半端じゃないですか?」

そう言いながら、模型の前から壁に貼られた図面の前に移動します。

髙濱「プロジェクトスペースは、いろいろなクリエイターが発信できる場にしようと考えています。美術館が企画展をやるように、オフィスを退去するまでの3年間で変化しつづけ、社員や街の人のクリエイティビティを刺激する場にできればと」

田中「なるほど。ただ、それをやったとして外からお客さん、入ってきますかね。……店舗はカフェだけなんですか?」

人事Sam「はじめは、商談に来た方がメガネを買える場にするのもおもしろいかなと思ったんです。でも、そのためにスタッフを常駐させたり加工機を持ってきて待機するのも本末転倒ですし」

設計はぎさん「せっかくなら日常的にご近所さんとつながる場にしようと、カフェ案を採用しました。メガネに関しては、注目商品のみ展示したりシーズン毎のキービジュアルで見せたりできればなと」

そんなメンバーの説明にも、田中さんはむずかしい表情を崩しません。「前橋からパンを送ってもらって(編注・前橋にあるJINSが手がけるカフェ「エブリパン」)ベーカリーショップを兼ねる」「入り口の場所を変えて入りやすくする」といった案を交わしながらも、やはり1階全体のあり方が腑に落ちていない様子。

田中「うーん。とりあえず、プロジェクトスペースはナシかな。ここは再考してください」

席に戻りながら、みんなに語りかけます。

田中「無理にコミュニティに入り込もうとするんじゃなくて、ただ喜んでもらえればいいと思いますよ。神田の人たちは、どんなものをほしがってるのか? よく考えてみてください。すでにカフェがある街で、僕らがすべきことはなにか——これこそが、いつも僕が言っている『顧客志向』なんです」

それはおもしろい? みんながワクワクする?

1階についてはいったん脇に置き、9階サウナのスペックやコストについて話し合っていると、田中さんが閃いたように声をあげました。

田中「……サウナを1階に持ってきて事業にするのはどうでしょう? これだけコストがかかるなら、いっそビジネスにしてしまって」

「えーっ」と笑いが起きつつ、ざわつく室内。

広報いけっち「実はそれは一度、案に出たんです。社員だけが使う場所ではないとなると、規模のわりに運営面や衛生面でのハードルが高すぎると見送ったんですよね」

清和ビジネス(*)さん「社員向けサウナは曜日で男女をわける運用を考えていますが、一般のお客さんに向けるとなると、両方のサウナを作らなければなりません。受付も必要ですし、結構な広さになってしまいますね」
(*)……今回、一緒に引っ越しプロジェクトを進めているオフィスのスペシャリスト

広報いけっち「保健所の許可や営業時間などいろいろな問題が絡んでくるので、実現可能かどうかあらためて考えます。神田には有名なサウナもありますよね(編注・SaunaLab Kanda)。地域でよろこんでもらえる他のアイデアを検討しつつ、こちらもリサーチしてみましょうか」

田中「はい、そうしてください。なんにせよ、冒険したいですよね。おもしろいこと、したくない? いまは、儲からないうえにつまらないことをやろうとしてるんですよ

その強い言葉に再度笑いが起きつつも、どこか「はっ」とした様子のメンバーたち。「おもしろい」か、「儲かる」か、「儲かっておもしろい」か……これは難題です。

そのほかにも、丸太を切り出したテーブルの質、ファサード(外観)デザインのコスト、「ソロサウナにも水風呂は必須!」など議論は盛り上がり、気づけば終了の時刻をすっかり過ぎてしまいました。リーダーがあわてて切り上げると、田中さんは「よし」と立ち上がります。

田中「コンセプトはこれでいいと思います。あとは1階と、全体的なコストの管理ですね。髙濱さん、みんな、引きつづきよろしくお願いします」

みんな「はい!」

そう言って、別の会議室へと足早に向かったのでした。

みんなでああだこうだと「ざっくばらんに」意見を言い合い、方向性は定まった今回のプレゼン。この案をベースにさらにアイデアを磨き上げ、厳密にソロバンを弾いていく段階に入ります。

しかし問題なのが、1階の使い方。ほぼゼロから考えなければなりません。

地域の人によろこんでもらえる場所にするには何が必要なのでしょうか。そして……サウナ事業は、はたして現実のものとなるのでしょうか!?

〜次回へつづく〜