「メガネを本質からデザインする」をコンセプトに、世界的なデザイナーたちとの対話を通じて価値あるメガネを提案する『JINS Design Project』。
2017年からはじめたこのプロジェクトの第6弾でJINSが迎えたのは、デザインで名高い歴史あるイタリア企業・カッシーナ社のアートディレクターとしても活躍するパトリシア・ウルキオラ氏です。
今や、デザイン界のキープレイヤーとしても注目を集める存在のパトリシア氏との出会いは、遡ること約4年前。まずJINSが投げかけたのは、「“現代のエレガンス”について、どう考えるか?」ということでした。
その問いに対し、彼女が答えてくれたのは「未来のことを考えて行動すること」。
そして協業にあたり彼女が一貫してこだわったのは、「サステナブル」であることでした。
パトリシア氏らしい「美しい発色」とJINSが考える「クオリティ」を両立させ、その上で環境に最大限配慮したサステナブルなものづくりへの挑戦が求められました。
この欲張りな挑戦に応えることができるのは、どのような素材か——。
JINSの「素材さがしの旅」がはじまったのです。
はじまった素材さがし
最初の打ち合わせが行われたのは、2019年のこと。当時、本格的にサステナブルを意識した商品づくりの実績は、まだJINSにはありませんでした。先駆けとして行われている世界各国のアパレルや飲料などのものづくりの事例も参考にしながら、「この素材を使ってみるのはどうか」「この手法を試してみるのはどうか」と膨大な数のアイデアを出し合うところからのスタートです。
素材開発の経緯をよく知る、調達グループの渡邉に話を聞きました。
「最初にパトリシア氏と直接お会いした日のことは、よく覚えています。お客さまに届けたい価値について、わたしたちにとても情熱的に語ってくれ、期待に応える素材開発を行いたいと強く感じました。
また、以降のコミュニケーションにおいても印象的だったのは、何かを断念するとき、常に『じゃあ、これは?』と代替案をすぐに打ち出してくれたことです。どれも難易度は高いものでしたが(笑)、それほど、実現したいことが明確で、また“未来のことを考えて行動すること=サステナブルであること”への想いも一貫していたのだと思います」。
自然由来の素材「麦芽の使用」や、メガネを製造する中で出る「端材の再利用」など、さまざま候補を挙げ、検討を繰り返す日々。コストや納期だけではなく、たくさんのロット数の制作が叶うのか?……、その他にも考慮すべき点が山のようにありました。
すべての事象はトレードオフでも
中でも、「端材」を使用した制作案は有力な候補として残っていました。配合割合の検証を重ねて耐久性や柔軟性をクリアし、また「メガネの材料を余すことなく、新しいメガネ作りに活かす」ということは、「未来のために行動すること」というコンセプトにとてもふさわしいと考えたのです。
しかし、メガネの端材の色味はさまざま。それらを混ぜ合わせ、完成させることのできるカラーには、どうしてもムラが混じり、個体差が出てしまいます。また、黒やグレー、暗いカーキなどダークなものに限られてしまい、パトリシア氏の作品の魅力である鮮やかでハッとするような色遣いを再現することが難しかったのでした。
渡邉は言います。
「その色ムラを“お楽しみカラー”のような発想でご提供する方針もJINS Design Projectチームと考えました。けれど、やはり個体差があるようでは、JINSが大切にしている“クオリティ”を、クリアできているとは言えないと判断しました。
そして、パトリシア氏とものづくりができる貴重な機会ですから、サステナブルな素材を選びながらも、JINSの求めるクオリティとパトリシア氏にしかできないものづくりの魅力、そのどちらもを損なわず、掛け合わせられる製品にしよう、とチームで高い目標を掲げることにしたのです。
すべての事象はトレードオフです。何を選んで何を諦めるかシビアに判断しなくてはいけません。しかし、どうしても譲れないポイントについて両立させる方法を考え抜くこともまた大切です。もちろんその中にも細かな優先順位を持ちながらですが、社内の各セクションへのヒアリングを重ね、あるべき姿をチームで模索し続けました」
さらに候補を絞り、金型に流し込んで作る射出成型でフォルムを製作することはできるのか、求められるディティールをしっかりと表現できるのか、その検討にも大変な時間がかかりました。
そして1年以上の期間を経て、ようやく「これだ」とたどり着いたのが、従来使用されてきた化石原料由来のポリアミド素材よりも温室効果ガス排出量の少ない、植物由来の油(ひまし油)の成分を約半分含んだバイオ素材を使う、という選択だったのです。
つなげられていく未来のために。
今回のシリーズ商品名であり、コンセプトである『HILO』はパトリシア氏が生まれ育ったスペインのことばで(現地ではイロと読む)、「糸」を意味します。さらに、一本の糸、連なる線、ある流れによってつなげられていくもの……未来に向けて意識や行動が行われていることを、象徴することばでもあります。
実は、最終的に選択した素材は、既にメガネとして使われた実績があるものです。けれども、『HILO JINS × Patricia Urquiola』では、細かい部分まで美しい色を塗り分ける技術を磨き、一本の糸のようになめらかなフォルムになるよう型に細かい調整を行うなど、多くのチャレンジをしました。結果、サステナブルであることはもちろん、繊細なデザイン性と強度を兼ね備えた、「LAYERS」と「FLUID」という2種類の美しいメガネを完成させることができました。このバイオ素材を使用する、という選択は正しかったのです。
「サステナブルを実現するために」と強度や細かいディテールなどいくつかの要素を諦めてしまうのではなく、環境に最大限に配慮したうえで、長く気に入り愛用してもらうことができるクオリティのものを作る。これも「持続可能なメガネのあり方」のひとつです。
そして、大事なことは譲らない——。今回の挑戦はJINSにとって大きな財産となりました。
多くの方に手にとっていただくことはもちろん、このメガネが、ひとつひとつの行動の先につながっている未来について、考えるきっかけになってくれればうれしく思います。
パトリシアからのメッセージ
パトリシア氏が、動画でメッセージを届けてくれました!
氏の考える「人間の顔」と「メガネ」の関係。そして、今回のデザインに込めた思いについてエネルギッシュに語ってくれています。ぜひご覧ください。