今年はじめての猛暑日を記録した、土曜日の午後。強い日差しが照りつける中、子どもたちは汗だくになりながら、元気いっぱいに駆けまわっています。
ここは、東京都世田谷区にある羽根木プレーパーク。プレーパークとは、「自分の責任で自由に遊ぶ」をモットーに、子どもたちがのびのびと自分のやりたいことを楽しめる屋外遊び場です。
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プレーパークの広さはテニスコート2面分ほど。山を切り開いたような凸凹の斜面に、大型遊具がいくつも並んでいます。誰でも自由に遊ぶことができるので、この日もたくさんの子どもたちでにぎわっていました。

「わたしもやりたい!」と飛び入りで参加してくれた子も。当初の予定よりも多い、15名でワークショップがスタートしました
「はーい、みんなちょっとお話聞いてください!」声を張り上げたのは、プレーパークせたがやのスタッフ、まっく(竹中和美)さん。まずはワークショップの概要について、簡単に説明してくれます。
まっく「実は、メガネのJINSさんから新しいプレーカーをもらうことになりました! プレーカーっていうのは、車にいろんな遊び道具を載せて、公園や空き地に遊びに行く車のことです。今日は、その新しいプレーカーに載せる看板をつくります。この看板を広場に置いて、遊びに来たお友だちに『今日はプレーカーが来てるよ!』ってことをお知らせする目印にしたいなと思っています」

ここからワークショップを進行してくれるのは、KUMIKI PROJECT(クミキプロジェクト)の白濱匠太郎さんです。KUMIKI PROJECTはお店やオフィスなどさまざまな空間を、参加者とともにつくるワークショップを企画・開催している集団。その中から今日は匠太郎さん・ひかるさんが来てくれました。
「看板づくり」と題したワークショップですが、木を組み立てるわけではありません。子どもたちに担当してもらうのは色付けです。イラストがデザインされたマーキングフィルムを貼った板に、スポンジを使って着色していきます。ペンキが乾いた後にフィルムをはがすと絵柄が現れる、ステンシルの技法を採用しました。

匠太郎「みんなずっと気になっていたと思うけど、今日はここに塗料、絵の具をたくさん用意しました。これからあの看板に、布を巻いた専用のスポンジで、みんなの好きな色を塗ってもらいます。看板の絵を見て、『自分だったら何色にするかな?』『お友だちだったらどんな色にしたいかな?』とみんなで考えながらやっていけたらうれしいです」

ペンキは通常の水性塗料。専用スポンジは通常のスポンジを大きめの立方体に切り出し、綿100%のウエスという布でくるんだもの。刷毛で塗るよりもステンシル技法のほうが、子どもたちの力でも扱いやすいうえ、ペンキが木に染み込みづらくなってきれいな仕上がりになるそう
「今日はどれだけ汚してもいいって言われてるー!」「俺もさっき着替えてきた!」とすでにペンキへのわくわくが止まらない子どもたち。その様子に「待ちきれないみたいだから」と笑いながら、匠太郎さんがさっそくスポンジを配ります。
匠太郎「ひとつ気をつけてほしいことがあります。ペンキの色は混ざってしまうとどんどん濁ってしまいます。1、2色なら大丈夫だけど、たくさんの色を混ぜるとまっくろけになっちゃうから、1回使ったスポンジは、なるべく違う色に浸けないようにしてください」
色を塗る看板は2枚。好きな色のペンキをひとつ選んだ子どもたちは、2つのチームに分かれることになりました。看板には事前に、プレせたさんと相談しながら匠太郎さんが描いたデザインを元にした黒いマーキングフィルムが貼ってあります。

マーキングフィルムは、看板や車両、窓ガラスなどに貼ることができる粘着剤付きシートのこと。その中でも簡単にはがせる仕様のものを用意しました
さあ、いよいよワークショップの本番です。まずは匠太郎さんとひかるさんがお手本を実演。
ひかる「絵の具はいっぱいつけなくていいから、端っこだけをちょんちょんとつけます。それを看板の木の部分にポンポンッとつけていきます。これだけ! みんな、できそうですか? じゃあ、役割分担しながらやっていきましょう!」
お手本の真似をして、子どもたちもペンキが入ったカップにスポンジをぺちゃり。そして、おそるおそる看板をタッチ。ポン、ポン、ポン。ゆっくりと、目の前の木目を自分のペンキで染めはじめました。


「お友だちと色を交換してもいいからねー!」「いろんな色を使ってみましょう」「絵の中で色が混ざってもいいよ!」など大人たちからのアドバイスが飛び交う中、意外にも子どもたちは言葉少なな様子です。それはひんやりしたペンキの感触と、カラフルな色で埋まっていく看板に夢中になっているからなのでしょう。ペタッペタッペタッ。タンタンタンタンッ。まるで陣取り合戦をするかのように、子どもたちは黙々と板をタッチし続けています。

「はーいストップ! 1回看板から離れて、みんなで見てみようか!」ひかるさんの声も、子どもたちの耳にはまったく届いていないよう。みんな何度もペンキを塗り重ねていました
ほんの15分ほどで、板全体が色とりどりのペンキで塗り尽くされました。木の部分だけでなく、黒いフィルムの上も境なく埋められ、もう元の絵柄がまったく思い出せないほどです。

「これってどうなるの?」誰かがつぶやくと、ひとりの男の子が得意気に答えます。「俺知ってるー! 最初の黒いのをはがしたら絵がでてくるんだよ!」
そう、このペンキが乾いたら黒いマーキングフィルムをはがして、デザインをうかびあがらせるのです。「どんな風になってるんだろうね」「ぜんぜん予想できない!」と、子どもたちからも、周りで見守る保護者さんからも、期待の声があがりました。


ペンキを乾かしている間、自然と子どもたちはパーク内へ散り散りに。10分後「集合ー!! はがすってよー!」とスタッフさんたちが大声でパーク全体に呼びかけると、子どもたちはすぐに再集合してくれました
ペンキが乾いたら、看板づくりもいよいよ最終段階。匠太郎さんが最後の作業について説明します。
匠太郎「次は、この黒いフィルムを上から下に向かってはがしていきます。黒いフィルムは伸びるので、少し力がいるはずです。下の板を誰かが押さえておくといいかもしれません。黒いフィルムはちぎれても大丈夫。ゆっくりはがしてください」
説明を聞き終わると同時に、子どもたちはフィルムを引っ張りはじめました。あちこちで「せーのっ!」というかけ声が聞こえます。力を合わせながら、はがすスピードを競うように熱中している様子。一気に作業が進んでいきます。


下絵が見えなくなるほどまんべんなくペンキが塗られていたため、細かな部分のフィルムを探すのに大苦戦。小学生のお兄さんお姉さんたちが最後まで必死になって探してくれました
「はがせた!」
「まだあるー?」
「目とか鼻もあるよ!」
「絵がでてきたー!」
「この辺にまだありそう!」
次第に看板のデザインがあらわになってきました。作業をのぞき込む保護者さんたちから「すごーい!」「きれい!」と歓声があがります。

「よーし! 完成です!」
匠太郎さんがそう言って2枚の看板を立てると、大きな拍手がわきました。子どもたちも「色がいっぱいある!」「色が混ざっててきれいだね」「かわいい!」と出来映えにご満悦です。
看板には、プレーパークせたがやさんのロゴに加え、太陽や草花、車、遊び道具など、
プレーカー活動のシンボルがふんだんに描かれています。そこに、子どもたちのステンシルによって、絵柄にとらわれない美しいグラデーションの着色がなされました。
カラフルで芸術的、エネルギッシュなデザインは、プレーカーの多彩で楽しいイメージを表しているようです。この日、このメンバーでしかできなかった、オリジナリティーあふれる作品が完成しました。

よく見ると、子どもたちの靴跡・足跡付きです。これも子どもたちがワークショップに夢中になっていた証。「足跡もこのまま閉じ込めます。いい味ですよね」と匠太郎さん
最後はみんなで記念撮影です。「できたよー!」というかけ声でパシャリ。看板は、このあとKUMIKI PROJECTさんに仕上げのニス塗りや組み立てをしてもらい、プレーカーのお披露目会に合わせて完成品が届けられる予定です。

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これまで、JINSは近視進行抑制の観点から、外遊びがもたらす影響に着目し、このプロジェクトを進めてきました。でも今回、実際に子どもたちが遊ぶ様子を見て感じたことは、外遊びのすばらしさだけではありません。
裸足で走りまわったり、水をかけ合ったり。ペンキだらけになりながら、大きな声で笑い合って遊ぶ子どもたち。その笑顔と目の輝きを見て、子どもたち自身がこんなにも外遊びを求めているんだと気づかされたのです。
みんなが大好きな、この楽しい時間をお手伝いしたい。もっとたくさんの子どもたちに経験してほしい。そんな思いが膨らんで、ますますこのプロジェクトに気合いが入りました。新しいプレーカーのお披露目まであとすこし。寄贈の準備もラストスパートです。
〜つづく〜