「いま、◯◯さんは何階にいるの……?」

これまでのプロジェクトの進行からもわかるように、JINSは、メンバー同士の対話(コミュニケーション)とスピード感を非常に大切にしている組織。

各人の意識はもちろんのことですが、これまでそこに一役買っていたのが、「話したい人にすぐに話しかけに行くことができるワンフロアのオフィス」でした。

・だれがどこで何をしているのか探しやすい
・歩いていけば、話ができる
・顔を合わせる機会が多く、コミュニケーションが増える

そんなところが、ワンフロアのメリットだったのです。

現在の東京本社オフィス。見渡せば話したい人を探すことができた

ところが、移転先の神田オフィスは9フロア。いろいろと不便が起こるかもしれません。そこで考えられた施策の一つが、部署ごとに週替わりで執務フロアを席替えする「部署ローテーション制度」。こうすることで、顔を合わせる人が固定化せず、コミュニケーション量はぐっと底上げされそうです。

ただ、それだけでは解決しないのが「いま、◯◯さんは何階にいるの……?」と即座に知ることができない、という問題。座席を離れ、打ち合わせをしていたりすれば、途端にだれがどこにいるのかわからなくなってしまいそうです。

広報いけっち「外線と内線を兼ねて、社員には一人一台スマートフォンが支給されているので、本来であればそこに電話やチャットすることで解決しそうなものなのですが、打ち合わせ中だったりするとついつい折り返しが遅くなってしまって。いまも、緊急度が非常に高いときは『あ、あそこにいる!』と駆け寄って、話をすることが多いんです」

タタタッと駆け寄れば話し合うことができるすばらしさ! しかし、これは見晴らしのいいワンフロアであったからこそ成立していたこと。
数ヶ月後、9フロアのオフィスに移ったあとの社員たちは、いったいどうなってしまうのでしょうか?

自分たちの手でできるんじゃないか……?

そこで、まず検討されたのが「各社員がオフィス内のどこにいるのかがわかる、外部システムを導入する」ということでした。理想は、

「いけっちは、5階にいるな」
「はぎさんは、6階で打ち合わせ中だな」

と即座に把握できること。

主に、この検討を進めていたのは、引っ越しプロジェクトのメンバーであり、新オフィスの「使い勝手の良い社内システムを考える」役割を担う、洋二郎さんです。

あらためましてこちらが洋二郎さん。JINSの従業員数がいまの100分の1の時代から、JINSのシステムを支えてきたメンバーです

システム洋二郎「外部のベンダーさんに提示した条件は4つありました。基本的なことではありますが、社員個人の負担は軽く、確実な方法で把握できるものにしたかったんです」

そのお願いの条件がこれら。

・館内にいる社員の位置情報を把握し、居場所が検索できること
・位置情報把握のための登録作業を、社員の負担にしないこと
・管理担当者の負荷ができるだけ少ないこと
・在館者数把握にも使えること

複数の会社と話し合いの場を持ち、洋二郎さんはじっくりと検討していました。

システム洋二郎「だけど、どこも専用端末を配布する必要があったりして、利便性の点で納得することができませんでした。それに、数分のタイムラグが発生してしまうこともわかり、精度という意味でも充分ではなくてどうしたものかと考え込んでしまったんです。どちらも我々にとってはこだわりたい部分でしたし、高額を支払うなら、その価値のあるソリューションを選びたかった」

そして検討の結果、やはり「新たなシステムの導入は辞めにしましょう」という判断に至ったといいます。
けれど、「じゃあ、ほんとうに社員の居場所を把握できなくていいの?」「コミュニケーションは円滑に回るの?」と自問したとき、洋二郎さんの答えは「やっぱりそのシステムは必要だ」というものでした。

システム洋二郎「覚悟を決めて内製することにしたんですよ。チームのスタッフがその作業を担うと申し出てくれたので、その決断をすることができました。というのも、神田で新しく導入しようとしているネットワークの構成でデータが取得できるんじゃないか? ということに気づいたんです」

活用するのは、なんと各フロアに設置するWi-Fiのアクセスポイント。各社員のスマートフォンが、どのフロアの電波を捕まえているか……というデータを取得することによって、「だれがどこにいるか」の把握をすることができそうだ、と気づいたのです。

システム洋二郎「それを、どう見やすいようなものにするのか。表示器の検討や画面デザインの工夫はこれから考えなければいけません。そこは腕の見せ所ですが、この方法であれば、コストをかけずに安全に自分たちでつくることができると踏みました。自分のスマートフォンで検索する、あるいはフロアにある大きなモニターで確認するなど、見せ方はいろいろあると思います。開発メンバーの工数がどのぐらい捻出できるかにもよりますが、良いものができれば、今後、ほかの場所のオフィスでも発展的に活用できるように考えたいと思っています」

一つの課題に対し、それを解決するだけでなく、さらにそれ以上の価値を持った施策を考え、選び取る。この引っ越しプロジェクトでは、各メンバーのそんな姿勢がどんなときも顕著にあらわれているのでした。

お金さえかければ、できること。

そして、さらに大きなチャレンジがもう一つ。

先ほど「新しく神田で導入しようとしているネットワークの構成」という言葉が洋二郎さんから出ていました。ここにもどうやら、力を注いでいるようです。
現在の飯田橋オフィスのインターネット環境について、社員のみなさんに聞いてみても、「アクセスが集中すれば多少重くなることはあるけれど、大きな不便は感じない」といいます。

では、どうして新しい構成を導入しようとしているのでしょうか?

システム洋二郎ずばり、いまのは高いんですよ(笑)。実際、飯田橋オフィスのネットワーク環境は安定的に稼働していて、ほぼ理想的な状態にあるんです。つまり、みんなその通信速度に慣れてしまっているわけですね。だからこそ、その速度を神田への移転で落とすわけにはいきません。我々システム担当者にも意地がありますから。『神田のオフィスに移ってから、速度が落ちたね』なんてことは絶対に言われたくないわけです(笑)。

だけど、同じ構成でかつ満足な速度で構築しようとすると莫大なコストがかかります。もちろん作業としては一番楽なので、現状のやり方のままお金だけかけて拡大する方法もありますが、今回のプロジェクトの予算の状況を見ていると、それは正解ではないだろう、と。そこで新しい方法を模索することにしたんです」

そして、「これまで使用していた、専用線でのネットワーク構成を全部取っ払い、一般の高速インターネット回線を複数本ひいて会社で利用できるネットワーク構成にできないか」と考えたのでした。

過去は捨てて脱皮できる組織に

現状使用しているのは、2006年に前橋から東京に出てきて本社をつくったときに利用し始めたネットワーク構成だといいます。

システム洋二郎「企業としてはとても一般的なものを、ベンダーさんに任せて構築してもらいました。それを少しずつ拡張させながらずっと使いつづけてきましたが、ここで一旦すべて廃止。捨ててしまうことを決断したんです」

オフィスで使用するネットワークは、「ただインターネットにつながるだけ」のものでは成立しません。社員全員が、必要に応じた社内環境にアクセスできるよう、つながっていなければいけないのです。

とくにJINSは、国外にもものづくりや店舗・倉庫などさまざまな拠点を持ち、日本においては469店舗(2023年1月末時点)でアイウエアを販売しています。そのため、どこにいても売上情報などの社内システムにスムーズにアクセスできる必要があるのでした。

これまでは、この大きな規模でそれらを行うためには、オフィス専用の特殊なネットワークが必要だと考えられてきました。

システム洋二郎「ところがいまはいろんなソリューションがあります。今回思い切って、PCに一つのソフトを入れることですべてをつなぐことができる新しい仕組みを導入することにしたんです。とても安全な仕組みです。

ただ、これを導入するのであれば、従来の構成で組んだものを1箇所でも残しておくことは難しいんですよ。残してしまうと、従来のものと新しいものを両方稼働させなければいけません。それは、コスト効率を考慮すると避けなければいけない。部分的に採用している企業はいくつもあるかもしれませんが、『全社でこの仕組みのみを使う』というのはかなりチャレンジなことなんです。だけど、必要に応じて、時代に応じて、我々は脱皮していかないといけませんからね。勇気と手間の必要なことですが、そちらを選んだということなんです」

そしてなんと、5ヶ月以上の期間をかけて、従来の構成ものをひとつずつ潰していき、支障がでないところまで完了しているのがいまの状況だといいます。
これには、引っ越しプロジェクトのメンバーたちも「そんなことをやってくれてたんですね!」「知りませんでした……」と驚きの声をあげることになりました。

システム洋二郎「初めてのことなので、いろいろと不便や問題が出てくるかもしれませんが、アイデア次第で乗り切れることばかりでしょうから。一つひとつ解決しようと思っています。『お金をいくらかけてもいいよ』と言われていたら、絶対にこんな挑戦はできませんでした。それって、我々としてはつまらないんですよね。制約があるからこそ考える。最高の解決策を試すことができる。おもしろい仕事をもらえたなと思って喜んでいるんですよ

必要に応じて、これまで組み上げてきたものを捨てる覚悟を持つこと。
それも、常に前を向いて前進をつづけるJINSが大切にしているマインドの一つです。そして、「より良く生まれ変わるための、大胆な脱皮」は、まさにこの引っ越しプロジェクトそのものを指しているようでもありました。

まさかの移転延期……?!一時的に東京本社が消滅……?と、プロジェクト開始以降、最大の難局を迎えているメンバーたちですが、だからこそ、洋二郎さんのあまりに頼もしい言葉は、大きく胸打つものだったかもしれません。

さてさて、ついに次回はそんな延期になった移転のスケジュールと、いよいよ迎える社内説明会の様子をお届けする予定です! いったいいま、引っ越しプロジェクト内では、何が起きているのでしょうか? 更新をおたのしみに……!


~次回へつづく~