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至れり尽くせりじゃないから、考える

引っ越しプロジェクトメンバー(写真左から)人事さいちゃん、人事Sam、設計はぎさん、リーダー穴澤、広報いけっち。そして、リモート参加のシステム洋二郎。いよいよ具体的なかたちにしていく段階に入ったからか、みんなどこか楽しそう。

2月のとある日。引っ越しプロジェクトメンバーが飯田橋オフィスに集まり、新ビルのフロアの割り振りと図面を表示したiPadを囲んでいた。

ここでの意見を参考に建築家の髙濱史子さん(髙濱史子建築設計事務所)が設計案の方針をかため、田中CEOへのプレゼンがおこなわれる。


広報いけっち みなさん、ばっちり目は通してきましたか? まずはフロアの割り振りから決めていきましょう。

人事Sam あらためて見ると、9フロアってなかなか細かくわかれますねえ。

設計はぎさん いまのオフィスの執務スペースはワンフロアですから、余計にそう思いますよね。PMさん(プロジェクトマネジメントの会社)がつくってくださったこの図を見ると、さらに1階ごとのコンパクトさがわかりますよ(笑)。

 

人事Sam  ほんとだ! でもこの前、ある社員から「次は9フロアになるんでしょ?」って言われたんです。うなずいたら、「広くなるんだよね」って……。
 
一同 えええええーーー! 
 
設計はぎさん つ、伝わってない(笑)。もしかしてそういう人、多いのかな……? 
 
リーダー穴澤 ははは。ちゃんとした図面ができたら、また部署ごとにしっかり伝えていきましょう。さ、まずは外部の方がどこまで入れるのか、セキュリティレベルの確認からですね。
 
引っ越しチームにとって大問題である、「半分強の広さになる」。

まだまだ周知が足りていないことに衝撃を受けつつ、気を取り直してiPadをのぞき込んだ。企業秘密や顧客情報、そして社員を守るセキュリティは、現在の飯田橋オフィスでも重視したポイントだ。

 
人事さいちゃん この案だと1階が店舗、2階が社外商談室やプレスルーム、3階が社外の人も来ることがある大会議室やスタジオ(疑似店舗)ですね。ここらへんの配置はそのままでいいと思いました。

設計はぎさん ですね。ってことは高セキュリティゾーンは4階以上で、ここで切り替えが必要……と。ばっちりです。
 
広報いけっち あ、待ってください。セキュリティでいうと、いまは万が一入館証を忘れてもビルの総合受付で来客用カードを貸してもらえますが、次のビルではどうします? あと、最終退勤の人が鍵を閉めるとき、自分が最後だってどうやって把握するんでしょう。
 
システム洋二郎 その点については、必要な機能が見えてきたら詰めていきますよ。コストを考慮しつつ(笑)。

広報いけっち お願いします。1棟まるごと借りるだけあって、自社ビルのようなオフィス運用になりますよね。いままでビル側にやってもらっていたことを自分たちでどう工夫していくか、課題もこれからいろいろ出てきそうですね……!

「削る」だけじゃなく「変える」

リーダー穴澤 では、具体的な割り振りについて。ぼくはまず、1階に「荷さばきスペース」が必要だと思いました。

広報いけっち というと?
 
リーダー穴澤 荷物を受けとったり出したりする場所ですね。次のビルは搬入用エレベーターがないうえに、エレベーター自体も2基しかありません。これを業者の方も使うと渋滞が起こるでしょうから。
 
広報いけっち ああ、なるほど! 業者さんもやりやすいでしょうし、さすが、引っ越し経験最多組の穴澤さん。
 
設計はぎさん わたしは、管理本部と事業部が4階と8階に離れているのが気になりました。行き来が多いですし、くっつけましょう。
 
広報いけっち  あと、社内会議室を執務フロアの各階に設けるか、1フロアにまとめるかって話もありましたよね。各階にあると一見便利そうだけど、打ち合わせが連続したときに「次は9階、その次は7階」とフロアをまたいだ移動が続くと大変かも。各階に1on1できるスペースをいくつか設けつつ、会議室はこのまま1フロアにまとめますか。
 
設計はぎさん うんうん。(こうした議論が続き)……こんな感じかな?

 

設計はぎさん なんだかパズルみたいですね、見るからにぎゅうぎゅうだし(笑)。「半分強」だし仕方ないんですが……あ、「謎部屋」の調査、どうでした?
 
「謎部屋」とは、プロジェクトメンバーがその役割や使途を知らない飯田橋オフィスの「秘境」のこと。

部門に紐づく専用居室がいくつもあることが判明したため、残すかなくすか判断するため人事のSamとさいちゃんがヒアリングを進めていた。


人事Sam 削れるスペースもちらほら見つかったんですが、なにより働き方や仕事のやり方を見直すいいきっかけになりそうです。「このスペースなくせませんか?」って聞くとまずだいたい「ムリ」って即答されるし、伝え方をまちがえると嫌な顔もされてしまうんですが(笑)、「こんな工夫はできませんか」と提案すると真剣に考えてくれて。

人事さいちゃん そうそう。「隔離された部屋じゃないと作業できない」って主張してた部署も、執務スペースに出ることを検討してくれたり。ぼくたちも知らないことが多くて、各部署への理解が深まりました。レンズ品管室にある機械の作動音がいかにうるさいかとか(笑)。
 
設計はぎさん いいですね! 面積をただ減らすんじゃなくて、あたらしい働き方を設計に落とし込んでいきましょう。

204人の声からオフィスの姿を考える

フロアの割り振りが決まったところで図面にそれを反映し、さらに髙濱さんへのリクエストを書き込んでいくメンバーたち。

1フロアずつ、1部屋ずつチェックしていく地道な作業は、数日かけておこなわれた。

 

設計はぎさん なるべく空間を有効活用するために、共用部との境界の壁を極力減らしてオープンな空間にしたいですね。既存階段へアクセスしやすくするためにも。
 
この作業には、本社勤務社員を対象に取った「働き方の現状と希望」や「新オフィスへの要望」のアンケート調査を参考にした。

回答率は、予想をはるかに超えるおよそ7割、204名。任意の自由記述にも力を込めて答える人がとても多かったという。


人事Sam たとえば、「出社頻度は現状3割、理想も3割」。ここから執務スペースに必要な席数を決めていけそうですね。
 
人事さいちゃん そうですね。……でも、思いがけずたくさんの人が出社した日とか、全員出社の日はどう対応しましょうか。

設計はぎさん そもそも、移転後も「出社3割」でいいのか悩ましくないですか? これからのJINSの働き方として、もしかしたら5割を目指すべきかもしれないし。
  
リーダー穴澤 うーん。いずれにせよ飯田橋レベル(*)には用意できないからなあ。とりあえず「3割」をベースにして、カフェや「Think Lab」(集中スペース)の席を加えれば全員座れるように調整する。3割でいいのかどうかは、働き方とともに引き続き考えていきましょう。
(*)……完全フリーアドレス制で、社員数を満たす執務席数を設けている

設計はぎさん わかりました。そういえば「Think Lab」はなくさないでって声もありましたね。コロナ禍以降あんまり使われてないなと思っていたので、意外でした。 

人事Sam コミュニケーションの場であるカフェもです。「全員分の個人ロッカーがほしい」といったすべての希望を汲むことはできないけど、みんながオフィスになにを望んでいるかがわかったのはよかったですね。

アンケートはほかにも、「8割の人が『組織の壁を越えることは重要だと思う』」一方で、勤続年数1年以内だと「『社員の顔と名前がほとんど一致しない』が9割(!)を占める」など、コミュニケーションをうながす仕組みの必要性をはっきりと示していた。

システム洋二郎  新オフィスでは、誰が出社しているかがわかるようにできたらいいよね。「あの人がいる、直接相談に行こう」って行動につながるんじゃないかな。 

広報いけっち そのシステムはほしいですね。社員同士といえども、用もないのに突然話しかけて名前から聞くのはハードルが高いですし。……わかってはいましたが、大から小まで考えることが尽きませんね!(笑)

実現なるか? 悲願の吹き抜け内階段

こうして、席数からウォーターサーバーを置く位置、「2つのリラクゼーションルームの広さをそろえる」といった細かい修正、会議室のカギの取りつけまで、みんなから飛び出す意見を1階から9階まですべて書き込んだ資料が、長い時間をかけて完成した。

リーダー穴澤 それにしても……この吹き抜けの内階段、実現したいなあ。

設計はぎさん ですねえ。コミュニケーション上の理想は5階から9階までのぶち抜きですが、現実的には5階と6階かな。
 
リーダー穴澤 引っ越しのたびに持ち上がっては「退去時に天井と床を元に戻すコストが高すぎる」と断念してきた内階段案ですからね。
 
設計はぎさん 髙濱さんは、この階段をアートにしたいって説明されてました。既存の階段を「閉じたアートチューブ」、吹き抜け内階段を「開かれたアートチューブ」にして、この対比もコンセプトのひとつにできるかもって。コスト問題はつきまといますが、実現の可能性を模索するためにも、ぜひこの線でご提案いただきましょう!
 
広報いけっち うん、いい感じにまとまりましたね! 事業部と管理部が行き来しやすくなりましたし、専用部屋が必要なデザイナーやカスタマーサポート部門も事業部フロアにあるから交流しやすい。社内会議室とカフェを吹き抜け内階段でつなぐことで、会議の前後でそのままコミュニケーションが取れそう。

リーダー穴澤 よし。これを髙濱さんに共有し、検討してもらいましょう。田中さんへのプレゼンが楽しみですね。

 

晴れ晴れとした表情の引っ越しプロジェクトメンバーたち。スケジュールどおりの進捗で、「ばたばた」ではあるものの「てんやわんや」となっていないのはうれしい誤算だ。

 

とはいえ、創業者でもある田中CEOは「ほんとうにいいと思えるもの」への妥協が一切ない。社員のアイデアをひっくり返すことだってある。多少は「何か」あるだろうなと思ってはいたけれど……。

緊張感と「まさか」に満ちたプレゼンとメンバーの様子は、次回お届けします。