JINSがヘンテコな引っ越しをする理由
——前回、頭の中が「?」だらけで終わってしまいました。会社は成長していて社員数だって増えているのに、狭くなる。あれだけコミュニケーションを大切にしたオフィスから9フロアに分かれて、社内アクセスが悪くなる。しかも再開発予定エリアで取り壊しも決まっている。いったいどういうことでしょう?
広報いけっち ふふふ。困惑されるのもわかります。我々引っ越しチームもそうでしたから。
リーダー穴澤 この連載は、プロジェクトの進捗をリアルタイムでお伝えしていくんですよね? それは、てんやわんやが伝わってしまうだろうなあ(笑)。これから考えなきゃいけないこと、決めなきゃいけないことが山積みです。
リーダー穴澤 ここにいるメンバーはJINSの過去のオフィス移転に携わってきた人間ばかりですが、今回の引っ越しはこれまでとは勝手が違います。いずれ退去する予定のため、予算もぎゅっと絞られていますし。
人事Sam JINSがアイウエア業界に参入してこの20年、事業拡大して、人が増えて、手狭になって、引っ越しして……を繰り返してきました。毎回ぐんと広くなってきたし、クオリティにはこだわって、建物も内装もグレードアップしてきたんです。
システム洋二郎 JINSは商品づくりも研究開発もお店づくりも、すべてにおいて「最高のクオリティで」って方針ですからね。事業部や管理部が別の場所だった時期もあって合計9〜10回引っ越ししているけれど、狭くなるのはもちろん「クリエイティビティを失わず、徹底的にローコストで」なんて言われたのははじめてじゃないかな。
——それもすごい話ですね(笑)。あの……ベンチャー企業といえど、ほぼ2年に1回のお引っ越しって多くないですか?
リーダー穴澤 ははは。田中さん、子どものころ、メガネっていくらくらいのイメージでした?
——えっ!? ……最初につくったのが、たしか2万円弱だったかな。「高いっ!」とおどろいて、さらに母の遠近両用メガネは5万円だと聞いて仰天しました。
リーダー穴澤 そうですよね。そんなふうに、1本数万円がふつうだったメガネを数千円で販売しはじめたのがJINSなんです。さらに高品質の薄型非球面レンズ(歪みの少ない薄くて軽いレンズ)の追加料金をゼロ円にしたり、「JINS SCREEN」のような機能性アイウエアを開発し、視力の良い人にもメガネを届けたり。
——ただ価格を下げただけでなく、メガネの価値を上げてこられたんですね。
リーダー穴澤 はい。JINSは業界の挑戦者であり、先駆者でありつづけようとしてきました。非常識と言われながら挑戦しつづけてきたからこそ、ここまで成長できたんです。その成長スピードゆえに引っ越しも多くなった、と言えるでしょうね。
システム洋二郎 そうそう、ぼくが入社したのがまさにJINS元年で、社員数は30人でしたから。まさか100倍以上(*)になるとは思いもしなかったけど(笑)。
*……連結従業員数
設計はぎさん オフィスの契約更新をしたのも、事業部と管理部が一緒になってからはいまのところがはじめてじゃないかな? 広くて居心地はすごくいいですからねえ。交通アクセスもオフィス環境も最高です。
——そう! そこが気になるんです。なぜこんな素敵なオフィスを出て、あえて逆張りとも言える引っ越しに着手するのか。今回の引っ越しは「これからを決める」とおっしゃっていましたが、どういうことなのでしょう。
広報いけっち それについては、こちらのメールを見ていただけると伝わるかなと思います。新オフィスの設計をしてくださる建築家の髙濱史子さんに、創業社長である田中(仁)が送ったものです。
——はー、なるほど。田中社長は、飯田橋オフィスの恵まれた環境に強い危機感を感じていらっしゃるんですね。先ほどリーダーがおっしゃったように、業界の革命児として挑戦してきたハングリーさを取り戻そうよ、と。
広報いけっち まさに。もちろん、会社のビジョンやそれを達成するためのあるべき態度や行動指針は言語化して掲げていますし、田中からの「挑戦者であれ」という強いメッセージは日々びしびしと伝わってきます。
それでも、これだけ社員が増えると、全員が同じ気持ちで働いているかを確認するのはむずかしい。価値観も多様化していて当然だし、「安定した上場企業で働く」ことを重視する仲間がいること自体は不思議ではないのかも。
設計はぎさん 田中は、インテリジェントビルの最上階にある立派なオフィスが「大企業」の象徴になっている、と感じているんだと思います。次のビルはいまより狭くなったり古くなったりしますが、その象徴から抜け出すイメージなのかもしれません。
人事Sam 決して業績の問題とか、リモートワークが定着したから狭くしよう、といった意図ではないんですよね。社員全員が出社する可能性も想定していますし。
広報いけっち ええ。自分たちは挑戦者なんだという「ベンチャー魂」を取り戻すこと。これが、今回の引っ越しのゴールですね。
壊しながら、どうつくる?
——目指すところはよくわかりました。では、それを達成するため、具体的にはどんなオフィスをつくっていくんですか?
広報いけっち まだまだ細部は未定ですが、コンセプトの原案は決まっています。「壊しながら、つくる」です。
——壊しながら、つくる。
設計はぎさん いまあるものを壊しながら、でも生かしながら、あたらしいものをつくり出すイメージですね。ピカピカのものをゼロからつくるんじゃなくて。
広報いけっち リーダーが交渉してくれて、原状回復せずに退去できる契約を結べたんです。なので、コストをおさえつつも、クリエイティビティを失うことなく思いきり手を入れていきたいと考えています。たとえば、みんなで壁を壊したり塗装したり。
——おお、たのしそう!
設計はぎさん あとはフロアごとにテーマを設けようとか、靴を脱いであがるフロアをつくろうとか。とはいえ現時点で決まっていることはあまりなくて(笑)、とにかくアイデアを出し合っている段階です。
人事さいちゃん 「壊しながら、つくる」は建物だけじゃなく、働き方もそのひとつです。リモートワークが定着したいま、働き方を考え直そうとする気運も高まっています。ここであらためてJINSらしい働き方をつくりたいですね。
広報いけっち これは社長の田中が言っていたことですが、「リモートでもうまくやれている」と思えたとしても、それはあらかじめ決められた自分の仕事をやっているだけ。「閉じているんだよ」って。
——人と関わらないから作業は進むけれど、それ以上のなにかは起こらないってことですね。
設計はぎさん そうですね。アイデアやイノべーションは雑談からひらめきを得てうまれたりするものですから、リモート環境を整えつつも、オフィスという「場」があることは大切だと思います。
人事さいちゃん 一方で、次のオフィスは9フロアに分かれてしまう。放っておけばコミュニケーションは「閉じる」でしょうし、部署ごとの溝も深くなるかもしれません。そこはこのチーム全員が危惧しているし、工夫しなきゃいけないところですね。
設計はぎさん 正直なところ、「みんな会社に来てくれるかな……」って不安もあるんですよ。強制出社にはしたくないので、「来たくなる」オフィスや働き方を提案できるかにかかっているなあと思います。
——まさに「考えなきゃいけないこと、決めなきゃいけないことが山積み」ですね……!
「前橋」を盛り上げたい。
広報いけっち じつはこのプロジェクトにはもうひとつ、「前橋本社に繋げる」という裏ミッションもあるんです。
——JINSは前橋うまれですよね。もう一度地元に戻るということですか?
広報いけっち 正確に言うと、いまも前橋本社はあるんです。ただ、役割がごく限定的で。まず、2023年にサテライトオフィスを完成させ、ゆくゆくは本社機能を東京と前橋に完全に分散させる予定です。
——完全に分散! ひとつに集めたほうが効率はよさそうですが。
広報いけっち いちばんおおきいのは、災害時も事業を継続できるようにするという経営判断です。
リーダー穴澤 偶然というか幸いというか、群馬県は日本で有数の地盤が安定している土地ですからね。ちなみにぼくと洋二郎さんとSamは、いまも前橋在住なんですよ。
システム洋二郎 なのでぼくたちが、その新オフィスづくりも進めています。
——ええっ! 前橋から東京に通っていらっしゃる……?
人事Sam はい、2時間かけて(笑)。もちろん毎日ではないですけどね。前橋本社時代に入社した人間は、生活拠点を残したままの人も少なくないんです。
前橋サテライトオフィスができたら現地採用もおこないますし、いま東京勤務の人にも前橋勤務希望者を募る予定です。それ以外の人も、「今週は前橋で仕事しようかな」と選択できるようにできれば、とか。災害対策になるだけじゃなく、あたらしい働き方を提案できそうだなと期待しています。
広報いけっち 田中は地元・前橋の活性化に大きな情熱を持っています。もともとは起業家支援の分野で活動していたのが、いまやスーパーシティ構想に関わるメンバーの一人でもあるくらい(笑)。実際、いろいろな企業がサテライトオフィスを前橋につくりはじめているんですよ。
——それは知らなかったです。前橋、「きてる」んですね。
人事Sam そんな勢いのある前橋を体験してもらい、移住したいと思う社員を増やしていければいいなと思っています。もちろん、強制はしませんよ!
ごくふつうのビルを変革の象徴に!
——お話をうかがっていると、今回の引っ越しでも「挑戦」を楽しまれているように感じるんです。みなさんが「うちって大企業病だな」と感じることはあるんですか?
設計はぎさん うーん。ついこの前、田中が「仕事でワクワクしてる?」って投げかけてきたんですが、たしかに今はワクワク感を持って仕事をしている人がどれくらいいるのか見えにくい部分はあって。今回の引っ越しでベンチャー魂を取り戻して、あの一体感が戻ってきたらいいなと。
広報いけっち 「昔は楽しかったよね」なんて言い出したら、おしまいですもんね。
システム洋二郎 とはいえ、別に「あのころ」に戻りたいわけではないんです。狭い事務所にいたころに戻ろうよ、ではない。いまのJINSだからうみだせるベンチャー感みたいなものがあるはずです。
リーダー穴澤 これから、どんどん壊しながらどんどんつくり直していく1年間になるでしょう。ぱっと見るとなんの変哲もないビルを、変革の象徴にしたいですね。我々の試行錯誤や四苦八苦も含めて(笑)、見守っていただければうれしいです。
〜次回へつづく〜