
娘のような存在であり、大切なアドバイザーのひとり
山崎 初めてお会いしたのは、私が大学生の頃ですよね?
堀井 そう。確か私の家だったような……。怜奈ちゃんがウチの娘の親友ってことは知ってて、会ってみると意思がはっきりしてて、会話も理路整然としてるし、大学1年生とは思えないくらい達観してた。
山崎 その時から私、何か変わりました?
堀井 本当に成長した! すごく悩んでた時期も見てたから、嬉しいです。だから今日は授業参観みたいな気分(笑)。

山崎 初めて帯でラジオ番組*をやることになった時も、相談させてもらいましたよね。本当にありがたかったです。(*TOKYOFM『山崎怜奈の誰かに話したかったこと』)
堀井 赤坂のカフェでね。でも、あの時も悩んだり迷ったりしている感じではなくて、ただ「経験者の話を聴きたいです」ってスタンスだった。
山崎 そうですね。「やるしかない」っていう気持ちでしたけど、色んな話を聞いたうえでのぞみたかったんです。帯の番組をやるのは初めてだし、今後自分がどんな壁にぶつかるのか、ある程度想像しておきたくて。
知らない世界に突撃していくのは怖かったんですけど、堀井さんにお話を聞けたことで安心して飛び込めました。おかげさまで番組が始まってから何か起こっても「あ、これ堀井さんが言ってたやつだ!」って思えるからすごいありがたい。
堀井 初回はハラハラしながら聴いてた(笑)。でも半年ぐらい経って聴いたら、ものすごく上手になってたね。ゲストのリードの仕方や、質問の内容もそうだし、トークのまとめ方なんか素晴らしかったです。
山崎 ありがとうございます。本当にお母さんみたい(笑)。
堀井 娘みたいだと思うこともあるけど、最近は怜奈ちゃんから学ぶことも多いですよ。だから、同志であり支え合える味方ができたなって思ってます。私の中で大切なアドバイザーの1人です。
山崎 嬉しい。そういえば独立した時期、ほぼ同じですよね。私が「グループ卒業するんです」って話したら「あら! 私も会社辞めるのよ」みたいな話をしたことを覚えてます。
堀井 うんうん。
山崎 ラジオを始める時もそうだったけど、仕事の悩みを直接プロに聞けることが本当にありがたいんです。堀井さんが近くにいてくれる、いつでも話を聴いてもらえるというだけで安心感があります。

端的に、会話が広がるような質問で、相手が伝えたいことを引き出す
堀井 怜奈ちゃんのラジオってすごく聴き心地が良いよね。質問内容も端的だし、常に頭の中が整理されてる感じがする。ゲストと会話する時に心がけていることはありますか?
山崎 たくさんあるんですけど……大きく心がけていることは3つあって、1つはコンパクトな質問にすることです。質問が長すぎると自分が何言ってるか忘れちゃうので、そこは気をつけてます。
2つ目は「イエス」と「ノー」の2択にならないような質問をすること。「どう思った?」とか「どんなふうに?」みたいな聴き方にすることで情景も浮かんでくるし、話も広がりやすいので。
3つ目は、誘導尋問をしないということです。私が求めてる答えじゃなくて、相手が話したいこと・伝えたいことを引き出したいと思ってます。

堀井 偉い! そこまで考えてるなんて流石です。私がゲスト出演した時に思ったんだけど、怜奈ちゃんは潔いよね。何を捨てて、何を活かすか全部瞬時に判断できてるから言葉に淀みがない。話し始める時にも「あのー」とか「えーっと」みたいなつなぎ言葉がないから、聴いてて気持ち良いんだと思います。周りから褒められることも多いんじゃない?
山崎 ありがたいことに、最近は「それが良い!」って言ってもらうことが多くなりました。でも昔はコンプレックスだったんです。すごい恐縮なんですけど、比較的スラスラと言葉が出てくる方で。強気に思われたり可愛げがないって言われたりして……。
堀井 でも、その聡明さ・潔さがあるからこそ、怜奈ちゃんのラジオが上手く行ってるんだろうなと思います。
山崎 「質問を端的に」っていうワードで思い出したんですけど、ゲストと私の喋る量は9:1くらいになってほしいと思っています。ゲストにたくさん喋ってほしい。だから、会話のラリーを続けていくうちに向こうが乗ってくると「よしよしよし」って思ってます。
堀井 「よしよしよし」、分かる! 相手が気持ちよく話してくれると嬉しいよね。話を聴く時に答えを急いだり、こちらから導く必要はそんなになくて。結局は“最後まで邪魔せず聞く”ことが大事なのかなと思っています。

リスナーを惹きつける「大縄跳び理論」
山崎 私、安住紳一郎さんのラジオ*がすごく好きなんです。間の取り方、空気感の作り方、共感力も傾聴力も、本当に驚異的で。面白いうえに、勉強にもなりますし。(*TBSラジオ『安住紳一郎の日曜天国』)
堀井 安住さんは、リスナーを徹底的に意識してる。プロだよね。
山崎 そうですね。
堀井 彼は全部、人に聴かせるための作品として仕上げてるんですよ。
山崎 そう! たまに毒づく時も絶妙に中和しつつ、ちゃんと言うことは言うし、その言葉のチョイスもすごい。とりわけ、すごいと思うのは「間」の取り方なんです。話の途中で沈黙の時間がけっこうあるんですけど、それが心地良い。
堀井 それね! あるスタッフさんは「大縄跳び理論」って言ってたなあ。「間」をとることでリスナーが会話にのめりこみやすくなるんだ、って。ガンガン話すと、入る隙間がなくなっちゃう。いっぽう、大縄を大きく回すように「間」をとることで、リスナーが相槌をうったり、考えたりする余白が生まれるんだと。
ラジオ番組は一定時間無音が続くと放送事故になっちゃうんだよね。だから「黙る」ってこわいことなんだけど、安住さんは放送事故と思わせないギリギリのラインでそれをやってる。
山崎 そうそう。リスナーが相づちを打ちながら聴ける、絶妙な「間」だと思います。
堀井 誘い水みたいだよね。バーって止め処なく話されると無意識に「私には関係のない話だ」って思っちゃうこともあるじゃない? でも、「え? 今の沈黙なに?」って思わせることで、リスナーが集中して聴くようになるから。
山崎 私もラジオでは「間」の取り方を気にするようにしてます。テレビの場合は逆ですね。テロップが出ることを意識して、短い言葉で矢継ぎ早に話さなきゃいけない……とかあるので、メディアによって意識は違いますけど。
堀井 普段の会話でも気をつけてるの?
山崎 全く気にしてないです(笑)。堀井さんは気をつけてるんですか?
堀井 私も普段は本当に気にしてない(笑)。心を許してる人と話す時は、とにかく言いたいことだけ言う!って時もあるよね。ジェーン・スーさんと話すときはそうだなあ。
山崎 ありますよねー。私の場合、堀井さんの娘さんと話すとそうなります。
堀井 何回か目撃してます。会話のラリーが早くて、圧倒された(笑)。

柔らかさは残しつつ、自分の意見を言える人でありたい
山崎 堀井さんや安住さんに共通して思うことがあって、お二人とも会話に上品さがありますよね。毒を吐く時も「フフフ」って笑いながら芯をとらえたコメントをされていて。
堀井 私それよく言われるの! 「ニコニコしながら毒吐くよね」って。自分では毒を吐いてるつもりなんてないのに。
山崎 以前、番組に佐久間宣行さんが来てくださったことがあって。「もっと毒を出せるようになるといいね」って言われたんです。福山雅治さんにも同じようなことを言ってもらって(笑)。どう思いますか?

堀井 ふたりの気持ちもわかる。ただ、今はお昼の番組だから、毒を出しすぎる必要もないんじゃないかな。怜奈ちゃんは頭がいいから、毒を出すと的を射すぎちゃいそうだし。
一方で毒を含んだ、まっとうな意見を言うことで成り立つ仕事もある。だから、いずれそっちの道に進みたいと思った時のために、その毒は大事にとっておくと良いんじゃないかな。もしかすると、怜奈ちゃんは報道とか、自分の意見をしっかり言える場所が合ってるのかもしれないし。
山崎 そんな秘伝のタレみたいに毒を(笑)。たしかにディスカッションする番組とかはすごく楽しいですね。専門家の方にお話しを聞いたりしながら、自分の意見をどう伝えるかとか、どう質問しようとか考えてるとテンション上がるんです。ただ、これ言うとキツくなるかな?って思う時は、なるべく笑顔を交えて、マイルドにするように気をつけてます。
堀井 怜奈ちゃんみたいに、自分の意見を明快に伝えることができるっていうのは才能だと思いますよ。
山崎 自覚はないんですけどね。なんとなく周りの人と比べると、少しだけ上手なのかもという評価をしてもらえてるのかなって思います。求められるからには応えたいですし。でも、強気なキャラにはなりたくないんで、柔らかさは残しつつ、自分の意見は言える人でありたいですね。

モットーは「固執しない、期待しない」
山崎 そういえばこの前、ナレーションの仕事があったんですよ。
堀井 そうなんだ!
山崎 その時、堀井さんに教えてもらった原稿の読み方がすごく活きたんです。ご指導いただいたのは、確か5年くらい前だと思うんですけど。
堀井 怜奈ちゃんの悪い癖を、根こそぎとったよね。

山崎 そう! 語尾が上がっちゃうとことか。変な癖がついてたんですよね。それに、自分の声を聞くのが、すごく嫌だったんです……なんか鼻につくというか。
堀井 今はどうなんですか?
山崎 今でも嫌ですよ。むずがゆさがあります。でも、固執するのをやめたんです。反省しすぎたり、研究しすぎても時間が勿体無いと思って。そこに時間を使うより、新しいものを吸収したいって思うようになりました。
堀井 なるほどなー。ラジオでの端的な質問もそうだけど、あなたって、必要なものとそうじゃないものを判断する、選び取る力がすごいよね。尊敬しちゃう。
山崎 固執しない、はモットーなんで。固執も、期待もしない。失敗しても「自分なんて、所詮そんなもん」って思ってるところがあります。だからこそ上手くいった時は余計に嬉しい。
人に対しても期待してないと、良いことしてもらった時に「意外と良い人じゃん」って思えるじゃないですか? 期待を下回っただけで「裏切られた」と感じるのは、私が勝手に作ったハードルを超えてくれなかったという、自分のエゴだと思うから。

堀井 本当にすごいね……。人生何周目なの?(笑)
山崎 あまり、良くないことなのかもしれないですけど……。
堀井 歳を重ねてもなかなか独り立ち出来なかったり、何かに依存してたりする人も多いけど、怜奈ちゃんはすでに自分で自分の面倒を見られてますよね。なんか、もう最強じゃない?
山崎 そうですか?
堀井 いい状態っていうか……一番いい空気感だと思う。ストレスのないやり方だし。私は、みんなに合わせるとか、みんなが同じじゃなきゃダメっていう価値観で生きてきたけど、怜奈ちゃんは違う。ちゃんとドライなところを持ってるから。人として冷たいとかいうわけではなくて、人との距離感の取り方が本当に上手。周りと自分を比べることもないでしょ?
山崎 人に言われた幸せは信じてないですね。あなたはあなた、私は私。
堀井 ほらね(笑)。

山崎怜奈が憧れる、堀井美香の「愛され力」
山崎 なんか最近、周りの同年代で自分の人生に焦ってる人が多いんです。
堀井 怜奈ちゃんは全然焦ってないよね。
山崎 十台後半から21歳くらいまでは割と焦燥感があって、悩むことも多かったんですけど、そこを脱してからはなくなりました。年齢を重ねるごとに、無の境地に向かってる感じがします。今はなんの欲望もないし、これといった目標もなくて。

堀井 いいスタイルですよね。周りと比べることなく、ちゃんと自立してるってことだと思う。
山崎 でも、もうちょっと焦った方が良いかなと思うこともあるんです。焦ってた方が馬力だせるじゃないですか?
堀井 でもきっと、焦る対象がないんでしょうね。
山崎 そうなんです。他人にも、社会にも、自分にも焦ってない。なるようになる、と思ってるんです。でも、それで大丈夫なのかな……。
堀井 それでいいじゃない。

山崎 堀井さんは、焦ったことありますか?
堀井 焦ったこと……ない(笑)。
山崎 じゃあ大丈夫だ! 焦んなくても、こんな人間味のあるいい人になれるなら。私、もっと可愛げを持てとか、甘え上手になれとか言われることがあるんですけど、できないんですよね。本当は自転車でスイーって進める所を自分の足で歩いちゃったりするんです。もっと楽しまなきゃいけないとは分かってるんですけど……。
堀井 ウチの娘も似たような性格だよね(笑)。
山崎 「テヘ」ってとぼけられないんですよ。その反射神経がないから、無駄にメンタルが強くなっちゃう。それに比べて、堀井さんは可愛い空気感・愛され力を持ってますよね。すごく憧れてます。会話する時もジッと目を見てくれるし、すごく頷いてくれたりするところとか大好きで、私も真似したいなと思っています。

堀井 嬉しい!
山崎 これからも、いろんな仕事にチャレンジしていきたい。その中で悩むこともあると思うんですけど、そんなときはぜひ、色々お話聞かせてください。私、ずっとついていくので。
堀井 そうだね。同じようなお仕事させてもらうことも多くなってきてるし、悩みも共有できるしね。お互い支え合っていきましょう。

* * *
何があっても無償の愛を注ぎ続ける親と子のようでもあり、同じ戦場で戦い続ける戦友のようでもある2人の間に、強固な信頼関係を感じる対談となりました。
どれだけ歳が離れていても、互いに尊敬し、学び合う。そして、相手の話をじっくりと傾聴し、肯定する。そんな姿勢でいるからこそ、お二人の番組には強い支持が集まるのでしょう。
さて、堀井編集長の任期もあとわずか。最後に特集を振り返る記事をお届けして、結びとなります。最後の1本まで、どうぞお楽しみに。
