「あなたに興味があります」と愛を伝える
——堀井美香さんが「聴き上手といえば」と一番に挙げたのが、鈴木おさむさんのお名前でした。鈴木さんのラジオは、ご自身もゲストの方も、素の状態でお話しされている印象を受けます。
鈴木:ラジオの仕事ではこれまで2000人以上のゲストの方々とお話ししてきましたし、放送作家って取材する機会が結構あるんです。さらに僕は人と話すことが異常に好きで、プライベートでも長年たくさんの人と話してきました。そうした中で、自然と聴く力が身についてきたのかもしれません。
——話を聴くうえで、何か心がけていることはありますか?
鈴木:とにかく相手に気持ちよくなってもらうことですね。ああ、今日は話して楽しかったな、面白かったな、と感じてもらえれば勝ちだと思っています。ラジオでも、リスナーよりゲストの気持ちを優先しちゃっているかも(笑)。目の前にいる人が今日、何を言われたら一番嬉しいかということは常に意識しています。
たとえば、ラジオって自身が関わった作品の宣伝のために来てくれる人が多いんです。僕も宣伝する立場になるのでわかるんですけど、そうして現場にいったとき、作品をちゃんと観てくれているホストって実は少なくて。
作品をしっかり読むなり観るなりして、ゲストが作品を通して何を伝えたいのかを考える。あらすじをただ言うんじゃなくて、読み解いて、自分なりの感想を相手に伝えるんです。「私はあなたに興味があります」と愛を伝える手段で、ある種のラブレターだと思っています。これは徹底していますね。
——話を聴く前に、まず好意を伝えるんですね。
鈴木:いきなり質問から入っても、答えづらいことってあるじゃないですか。「年収いくらですか」とか、僕は嫌いな質問だから言わないですけど(笑)、信頼していない相手に対しては絶対に教えようとは思いませんよね。まずは話しがいのあるやつだと思ってもらうためのプロセスを、ものすごく大事にしています。
——相手と信頼関係を築けなければ、話を聴くステージには上がれないわけですね。感想を伝えること以外に意識していることはありますか?
鈴木:「無理しない・させない」ことですね。たとえば話の「間」。質問をしたとき、うーんって考えてくれる人いるじゃないですか。間があくのが怖くて、ついつい追加で質問したくなる人もいると思うんですけど、僕はその「間」も重要な情報だと思っています。その人が作り出す時間、全てに意味があるわけです。間ができるのは真剣に考えてくれている証拠。だからそこで追加の質問をする必要はなくて、ただ待つだけでいいんです。
質問する前に、自分の身を削る
——沈黙が怖くて何か話さなきゃ!と思ってしまいがちですが、焦らなくていいんですね。他には何かありますか?
鈴木:そうですね……。「バカだな」と思われることかな。
——え!「バカだな」と思われていいんですか!
鈴木:信頼を得られるかって結局、心を許してもらえるかどうかだと思うんです。その人に、くだらない人だな、バカだなって思われるくらいがちょうどいい気がします。だからこそ、自分の話はたくさんしますね。お酒にまつわる失敗話とか、失恋した話とか……。自分の身を削ることも大事なんですよ。自分の話をさらけ出さないと、相手も「ここだけの話」はしてくれない。初めましての人でも、人に言えないような話、今までどこにも話してこなかった話を引き出せているのは、そういう心がけのたまものかなと思っていますね。
——たしかに質問されてばっかりだと、なんで自分ばっかり……という気持ちになってしまうかもしれません。
鈴木:“自分事”と“他人事”って全然違っていて、相手の話が自分事であるほうが共感しやすいと思うんです。歳を重ねて、嬉しいことも悲しいことも、いろんな経験をしてきた分、共感できることが増えました。自分たちが経験して初めて自分事になります。その辛さ、苦しみを本当の意味で理解できるようになった。共感することって話を聴くうえで非常に大事だと思います。
好奇心という才能が、最大の武器
——自分事=経験のストックが増えることで、共感を持って話を聴けるようになるということですね。相手に聴きたいことは事前に考えているんですか?
鈴木:いえ、事前に用意するより、その場の流れで話を聴いています。僕、自分に何の才能があるかというと、好奇心だと思っているんです。どんな人にも、強い興味を持てる。
だから、誰に対しても聴きたいことが必ず出てくる。次々と質問してしまいます。そうやって話を聴いていくと、世の中に「普通の人」なんて存在しないんだとわかりますね。みんなそれぞれに面白いんです。
——好奇心のままに、相手に質問するんですね。
鈴木:ただし、相手が聴かれて嫌な気持ちにならないか、失礼にあたらないかは注意しています。ラジオだと、曲を流す間に生まれる時間はとても大事なんです。あの時間に雑談をして、相手が不愉快になりそうな話題や、逆に盛り上がるネタがどこにあるか、表情や空気感から探ります。
子供の話とか恋愛の話とか、デリケートな話題には特に気をつけています。個人的には、デリカシーがない人にも憧れるんですけどね(笑)。ズバズバいくけど愛嬌がある人っているじゃないですか。そういう人がする突飛な質問も、面白い。けれど僕はそういうタイプじゃない。だからこそ、聴けていることがたくさんあると思います。
——配慮してもらえると、話す側は安心できますね。
鈴木:ありきたりな質問をするときにも、「もう何万回もこの質問されていると思うんですけど」って前置きするとかね。これだけでも受ける印象って全然違いますよ。要するに、あなたのことをこちらは分かっていますよって示すことが大事なわけです。
同じことを何万回も答えているって知っていますよ、こういう内容って答えづらいとは思うんですけど聴いても大丈夫ですか、というふうに。そうすると、質問しなくても自然と向こうが他のところでは話していない情報を加えてくれることがあるんです。相手の気持ちを重んじることは、とにかく大事ですね。
話を聴くことが“プレゼン”になる
——常に自分より相手なんですね。
鈴木:僕、この世界に入ったのが19歳のときで、周りには大人しかいなかったんです。当時は誰も、自分に対して興味なんて持ってくれなくて。どうやったら自分に興味を持ってもらえるのか、ずっと必死に考えて、出した答えがまずはとにかく人の話を聴くことでした。
自分の話をいくらしたところで、大した経験もないし、面白くもないから、聴いてもらえないんですよね。たくさんの大人たちに混じって話を聴いていくなかで、相手を気持ちよくさせて話を聴きだすことだったり、自分をさらけ出すことだったり、話を聴く技術を学べたんだと思います。僕にとって、話を聴くことは“プレゼン”なんですよ。
——“プレゼン”ですか。
鈴木:21歳のとき、番組スタッフや関係者が集まる飲み会に誘ってもらったんです。そのメンバーの中に僕のことを「おもしろい」と可愛がってくれていたおじさんがいて。その人が僕に、飲み会に、某大女優のヘアヌード写真集を買って持ってくるよう言ったんです。
ヘアヌード写真集は当時大ブームで、その方がリクエストした写真集は大蛇と大女優が一緒に映っているなかなか強烈な作品。「ああ、話題の作品を見てみたいんだな」くらいに思っていて、買って行くつもりではあったんですけど、その頃仕事に追われすぎていたから、「写真集くらい、まあいいや」と思って結局買っていかなかったんです。そしたら頼まれているのを知っていたディレクターにブチギレられてしまって。
——ええ、そんなに写真集が欲しかったんですかね(笑)。
鈴木:いや、違うんです。そのディレクターに「お前さ、あの人が本当に写真集を見たいから買ってこいって言ったと思ったの?」って言われて。「10人以上いる飲み会で、下っ端のお前が話すチャンスなんて普通ないわけじゃん。でも、お前が写真集を買ってきて面白くプレゼンすることで、お前の時間が作れると思ったから言ってくれたんだよ。なのに、お前はその気持ちを無駄にした。俺はそこに腹が立つ」と。もう本当にハッとしましたよ。
——チャンスを与えてくれていたんですね。
鈴木:あの事件は、一番の後悔であり、今の自分にとって“背骨”になっています。どんなことも、チャンスなんです。「これはプレゼンの時間ですよ」なんて教えてもらえることってありません。だから、話を聴く時間も僕にとっては重要なプレゼン。誰から、どんな話を、どう聞くか。話を聴くことは、僕という人を知ってもらうための時間でもあるんです。
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取材場所となったのは、ポップアートが数多く並ぶ鈴木さんの仕事場。多くの人の目を引く軽やかさを持つ一方で、力強いメッセージを内包するそれらのグラフィックは、「放送作家 鈴木おさむ」のお仕事ぶりと重なって見えました。
取材陣のPCに貼られた力士のステッカーに気づき、「相撲お好きなんですか?」と逆取材がはじまるなど、「ぼくの才能は好奇心なんです」という言葉に違わぬ貪欲な姿勢、目の前の人にリスペクトを持ちサービス精神を発揮されるお姿。それに圧倒される……というよりは元気づけられたような気持ちで事務所をあとにしました。
わたしたちJINSも、日々の好奇心をないがしろにせず、興味を行動にうつして参ります。次のイノベーションは、そうして日々を送った先で見つけた、ほんの小さなものからはじまるのではないでしょうか。