テレビではあり得ない「聴く」体験

堀井 『街録ch〜あなたの人生、教えてください〜』、拝見しました。三谷さんが街なかでインタビューして、出演者は数十分ひたすらしゃべる。ナレーションも入らない。そんなインタビュー番組を見るのははじめてで……すごくおもしろかったです。

三谷 ありがとうございます。元極道からかつて大炎上した人まで、アナウンサーがふつうにインタビューするような人たちではないでしょうしね(笑)。

堀井 それもあるんですが、なんでしょう。みなさん存分に「自分のこと」を吐き出していて、その話を聴いているこちらまでなぜか気持ちよくなったんです。不思議な魅力に巻き込まれてしまいました。

でも、三谷さんは以前、テレビ業界にいらっしゃったんですよね。「市井人の語りだけを何十分も流す」なんてテレビではあり得ないというか、ものすごくチャレンジングだなと思ったんですが。

三谷 テレビって、20分聴いて15秒使う世界ですからね。『街録ch』は1時間ちょっと話を聴いて、話の重複などをカットして、だいたい40〜50分にまとめています。

堀井 じゃあ、ほとんど使うんですね! それは最初から方針を決めて?

三谷 いえ、やりながらです。初期の頃はもう少し編集していたんですが、僕がカットするか迷った箇所にコメントがついたりして。長くても視聴維持率は意外と変わらないし、悩む時間も減らせる。いまはよっぽどムダじゃないかぎり、相手の言葉はぜんぶ使おうという方針です。

堀井 長さ制限のないメディアならではの作り方ですね。ナレーションを入れないのはなぜですか? テレビのドキュメンタリー番組のように。

三谷 うちのチャンネルでナレーションを使うと、見ている人に「これ、ホントにこの人が言ったことなの?」って思われる気がするんですよ。「印象操作されてないか?」みたいな。だから、本人の言葉だけでいいと思っています。

「友だちとの別れ際30分」を目指して

堀井 それにしてもみなさん、とても「素」の状態で話しているように見えました。その人の「素」が見えるというか。こうして実際お会いすると三谷さんってまったく威圧感がなくて、まんまといろいろお話ししたくなっているのですが(笑)、現場でも意識して雰囲気づくりをされているのでしょうか。

三谷 そうですね。「友だちと遊んで別れるところだったけど、信号のところでしゃべってて気づいたら30分経ってた」ってこと、あるじゃないですか。あれくらいの雰囲気にできたらいいなと思っていて。だから質問を書いた紙なんかは用意しません。

堀井 取材感が出てしまわないように。下調べもあまりしないんですか?

三谷 『街録ch』って自薦・他薦パターンと僕からオファーするパターンがあるんですが、自薦・他薦の一般の人は調べようがないのでTwitter のプロフィールだけ見ていって話を聴きます。でも後者のパターンは、最低限の情報は入れていきますね。著名な方だと、トピックを選んでおかないといただいた時間内におさまらないので。それでも質問票なんかは用意しませんが。

堀井 「素」の話を聴くためにも、流れを決めすぎないことが大切ということですね。

三谷 そうそう。そもそも自分の話をするって、人間の強い欲求だと思うんですよ。だから、ただただ相手の欲求に従うような感覚というか。とくに、話す快感を感じてくれてるなって表情になって、決壊したようにわーっと言葉が出てくるときはひたすら聴きます。聴くというか、うなずくくらいのもんですね。

堀井 相づちだけ打って、邪魔しない。

三谷 はい。収録をガヤガヤした街で行なうのも大きいと思います。個室だと自分の声がはね返るから、「聴かれてる」ことに意識が向いてかしこまっちゃうんですよ。にぎやかな環境のおかげで「つい話してしまう」のはあるかなと。とはいえ、動画を作った後はかならず本人チェックに出します。しゃべりすぎたところは消すので遠慮なく言ってくださいって。

堀井 そうなんですね! そういう細かい配慮が三谷さんへの信頼と、心置きなく話すことへの安心感につながるのかもしれませんね。

思いもよらない言葉を聴くために

堀井 「流れ」の話で言うと、話を聴きながら、最後どこに着地させるかといったプランも考えないのでしょうか?

三谷 そうですね。『街録ch』は「いま何をしているか」「どんな風に生きてきたか」、そして最後に「これから何をしたいか」を聴くんです。いろいろあっても、これから頑張ろうとしてるってわかれば応援してもらえるかなって。でも、それだけ。「未来についてもっと詳しく」とか「思ってたのと違うから言い直してください」といった指示は一切出さないです。

堀井 相手の、ほんとうの言葉に委ねるんですね。テレビだと、コンパクトに要点を伝えたいときなど「こうしゃべってほしい」と若干のコントロールを入れることがどうしてもありますが……。

三谷 テレビは「強い言葉」が必要ですからね。打ち合わせのときに内容を聞いておいて、こういう言い方に変えてくださいとお願いしたり。ただ、そうすると作り手が想像したものにしかならないじゃないですか。それを相手に委ねると「えっ、そんな言葉出てくるんですか!?」ってことがある。とても自分じゃ創作できないような言葉にたどり着けたときは、うれしいですね。

堀井 その感覚はわかります。そこにたどり着くためには、何が必要でしょうか。

三谷 うーん、なんだろう。話を無理に引き出そうとしないとか、いろいろありますけど……やっぱりいちばんは「長くしゃべってもらうこと」じゃないですかね。

堀井 時間なんですね。じっくり話を聴いたからこそ引き出せたな、と感じたエピソードはありますか?

三谷 ああー、それでいうと「メンヘラテクノロジー」という会社を立ち上げた女子大学院生かな。当時流行っていたクラブハウスで出会って、やってることはおもしろいしトークも軽快だからオファーしたんです。

ところが、いざ会うと思いのほかキレが悪い(笑)。話すこともあんまり用意してなかったのかな。でも話を聴いていくと、彼女が起業した理由が「彼氏が好きすぎるから」で。

堀井 好きすぎて、起業???

三谷 はい。彼氏が、とある会社の経営者で。自分をほっぽって社員旅行に行くのが許せない。どうすれば一緒に行けるか考えた。彼の会社の役員になればいいと気づいた。でも実績がないと無理だと言われた。じゃあまずは起業しよう、と。

堀井 はーっ、すごい情熱……(笑)。

三谷 そういう子だから彼氏とケンカするたびに周りに相談しまくって、もはや応じてくれる人がいなくなってたんですね。「だれでもいい、500円払うから30分話を聴いてほしい!」と思ったとき、そうだ自分でやろうっていまのサービスを立ち上げたそうです。

とまあ、そういう話はありつつも、あまり盛り上がりのないまま進んでいって。いろんな話を振って粘って50分くらい経ったくらいで僕が、彼氏と結婚したいか訊いたんですよ。そしたら「結婚は不安、簡単に離婚できるから」って言う。じゃあどうすれば安心できるんだろうと思ったら……「彼の会社を買収できたら」。

堀井 わあ。おもしろい。

三谷 「結婚より買収」、すごい言葉じゃないですか? この言葉は、50分粘ったおかげで聴けたんです。

堀井 うんうん。ほんとうに、そうですね。

三谷 最初は、そこまでたどり着ける気がしなかったですもん。ネット上のコミュニケーションは得意だけど、対面は苦手みたいで。でも、ちょっとずつほぐれた結果その言葉を聴けたから、粘ってよかったなと思いましたね。

堀井 そういうとき、途中の「あまり盛り上がらなかった」部分も動画には残すんですか?

三谷 結論だけだとネタっぽくなっちゃいますから。ちゃんと彼女の歩みや考え方が伝わってるから、「なるほどなあ」と思える。テレビだったら、50分を3分にして「激ヤバメンヘラ女」みたいな感じにまとめるかもしれませんが(笑)。

「あなたにだからこそ」の関係を

堀井 『街録ch』は著名人もたくさん出演されています。印象的だったインタビューはありますか?

三谷 たくさんありますが、ひとつが中田敦彦さんですね。中田さんとはほぼ同時期にテレビ業界を離れていたし、いつか彼が運営する『YouTube大学』みたいなチャンネルになれたらなあって憧れていたんです。だから、登録者数が100万人を突破したタイミングで出演をオファーしました。長いメールを書いて。

堀井 それで出てくださったと。熱意が伝わったんですね。

三谷 しかもね、そのとき、中田さんが松本人志さんとひと悶着があったときの話をしてくれたんですよ。ほかの番組では訊かれてもはぐらかしていたし、自分のチャンネルでも語っていなかったのに、僕の番組では話してくれた。

堀井 すごい! なぜ話してくださったんでしょう?

三谷 じつは僕、ずっと「登録者数100万人超えたらインタビューしたい」って中田さんにアピールしてたんです。それを有言実行でちゃんと達成したし、おそらく近い動機でテレビ業界を飛び出したYouTuberの後輩だし、ここだったらしゃべってもいいかと思ってもらえたのかな、と。真相はわからないんですけどね。

堀井 「この人にだったら」ということですね。

三谷 じつはそれ、中田さんと千原ジュニアさんの間でもあったんですよ。ジュニアさんについてお笑いファンが長年気になってることがあるんですが、僕がインタビューしたときはそれを聴く雰囲気にならなかったんです。でも中田さんはジュニアさんとの対談で、その話を振った。ジュニアさんもそれに応えていた。

堀井 ああ。お互いのリスペクトがあったからこそ、「語れた」し「聴けた」。

三谷 はい、だから成立したんじゃないかなと思います。僕にはまだそれができなかったな、しょうがないなって。

堀井 両方とも、すごく素敵なエピソードだと思います。この人になら話してもいいかも。この人になら聴いてほしい。——そんなふうに思われる関係になれたら、うれしいですよね。

「ただ聴いてくれる人」になる

堀井 『街録ch』はまさにオーラルヒストリーですね。これがデータとして集まっていること自体に意味があるというか、風俗史になりうる素材だなと思いました。これからもぜひ続けていただきたいですが……ちなみに、三谷さん以外の人が聴き手になる可能性もありますか?

三谷 どうでしょうね。僕がヨボヨボになって、「受け継ぎたい」って言ってくれる人が現れたら考えるかもしれませんけど……いろんな人が出てる分、僕が聴き手であることがこのチャンネル唯一の一貫性だとも思っていて。

堀井 たしかに。しかもみなさん、三谷さんに聴いてほしいんですよね。クラスにこういう人いました、黙ってぜんぶ受け止めてくれる人(笑)。

三谷 あ、僕まさにそういうタイプでした。女子の関係っておもしろいじゃないですか。3人で仲良くしてるけど、真ん中の子がいなくなるとこの2人ってそうでもないな、とか。まあただの野次馬なんですが、それを「なんで?」って言いながらサイゼリヤで3時間ぐらい聴く男子でしたね。

堀井 いまとおんなじ!(笑) でも、お説教もしないし否定もしない、ただ聴いてくれる人の存在はとても貴重ですよね。

三谷 それで言うとときどき道端で占いしてる人、いるじゃないですか。じつはテレビディレクター時代、友達や会社の人には相談できない悩みがあったとき、2000円払えば聴いてもらえるのか……と行ってみたことがあるんです。

堀井 へええ。ちょっと意外です。

三谷 別に占われたくもないし結果もまったく覚えてないけど、すごいスッキリした記憶があって。何の関係性もないからしゃべれちゃうんだろうなって。

堀井 「聴く」にはそういう側面もありますよね。関係が近すぎると、また違う心の準備が必要で。最近は「話を聴くビジネス」も盛んだと耳にしたことがありますが、距離感がありがたいのかもしれません。

三谷 そうですね。わかる気がします。

堀井 それはきっと、三谷さんがされていることそのものなんだと思います。——ほんとうに、今日はありがとうございました。三谷さんの「聴く」は私がインタビューで重ねてきた「聴く」とところどころ同じで、でも違うところもあって、とても興味深かったです。

たとえば「無理に話を聴き出さない」「できるだけ話しやすい場を意識する」といったスタンスは同じでも、既存のメディアではどうしても流れや着地点を意識しながらお話を伺うことも多くて。ほかのことを一切考えず、相手の話に耳を委ねる。こちらの意図を反映させない。「すべて」を受け入れるような聴き方はなかなかマネできないこともあり、素敵だなと思いました。

三谷 こちらこそ、ありがとうございます。参考になることがあったのかは不明ですが(笑)。

堀井 いえいえ。ほんとうに、「聴く」についてひとつ視界が開けた気がします。

* * *

インタビュー会場であるJINS本社に到着するなり、「めっちゃおしゃれっすね!」とほがらかに、しかし心を込めて褒めてくださった三谷さん。

登録者数100万人超の凄腕YouTuber、かつ、さまざまな「山あり谷あり」の人生を臆さず聴いてきたという前情報からやや気負っていたスタッフ陣でしたが、緊張は一瞬にしてほどけてしまいました。

実際、三谷さんのお話には、ただ自分が「聴こう」とするだけでなく、いかに「話したい」と思ってもらえるか、場づくりや信頼関係も大切だという学びがたくさん。スタッフみんな、「有言実行」とも言える姿に深く納得したのでした。

インタビュー中、堀井さんも「この人になら話してもいいかも。この人になら聴いてほしい。——そんなふうに思われる関係になれたら」とおっしゃっていました。そうした関係を築くのは簡単なことではありませんし、ときに長い時間を要するかもしれません。

それでもJINSは、お客さまや取引先のみなさんにそんなふうに思ってもらえるよう、尽力していきたい。おふたりの言葉を聴きながら、決意を新たにしました。