キャッチボールじゃない会話
——『奇奇怪怪明解事典』は、いつもテーマを決めて話をされていますよね。あれは、事前にトークの筋書きのようなものを想定して収録に臨んでいるんですか?
TaiTan:話の筋というよりも、まずタイトルから考えているんですよ。
——え、タイトルからですか?
TaiTan:先にタイトルを決めて、それを肉付けできるような項目を2、3個だけ用意してから収録をしています。ただ、用意はするけど実際の話はすべて即興なので、お腹いっぱいになったら、消費しきれないまま終わってしまうこともありますね。なんなら、タイトルは先に決めていたのに、その話はほとんど触れていなくて、釣り見出しみたいになることもあります(笑)。
——面白い組み立て方ですね! タイトルから先に決めるというスタイルは、どのようにして生まれたのでしょうか?
TaiTan:話の入り口を決めてあげたほうが、聴く側もゴールが見えやすいんじゃないかなと思って。適当に喋って、なんとなく総論としてはこういうことだよねっていうよりは、ある程度の着地ラインだけは決めておいたほうがクオリティのコントロールもしやすいですし。そういうところから、だんだんと今のような作り方になっていきました。

——一応の着地点は想定しておきつつ、即興のやりとりのなかで予期せぬゴールに辿り着くこともあると。それは一緒にパーソナリティをされている玉置さんの反応によって、話の行き先がどんどん変わっていくってことですか?
TaiTan:そうですね。基本的には周啓くんのリアクションがあって、それに僕がまた枝をくっつけていくみたいな感じです。
——脱線したと思ったら、ぐるっと回って元の話に繋がるみたいなこともよくありますよね。おふたりの会話を聴いていると、受け答えの瞬発力に圧倒されます。TaiTanさんから見た、聴き手としての玉置さんのすごさってどういうところだと思われますか?
TaiTan:どうなんでしょうね。この前、令和ロマンのおふたりと話していたんですけど、ツッコミのケムリさんという方が「(玉置さんの)ツッコミはめっちゃくちゃ速いし、上手ですよね」って言ってました。そういう客観評価があって、僕も同意しますみたいな感じですね。そういう角度で身内のことを褒めるのは癪なので、あくまでも客観的な評価があって、僕も同意しているくらいの。
——あくまで客観的に(笑)。
TaiTan:僕の目線から言うと、どんな暴投でも捕球できるキャッチャーというよりは、めちゃくちゃ軌道が逸れたところに投げ込まれたとしてもバットに当てられる人みたいな感じですね。打ち返せる人。僕らの会話ってキャッチボールじゃないんですよ。投げて打って、打たれた球をまた捕っては投げてみたいな、そういうイメージなんですよね。

パスを出した先で、ハプニングが起きてほしい
——『奇奇怪怪明解事典』のトークをする上で意識していることがあれば教えてください。
TaiTan:僕はよく「情報と情感の間をいきたい」という話をしています。芸人さんのラジオって情感性が非常に高くて、ノリみたいなところがコンテンツの肝になっていると思うんです。かたや、情報系の番組では、情報の正確さやモノを見る角度がコンテンツの肝になっていると思ってて。僕らはそのちょうど中間あたりを狙いたいんですよ。
芸人さんみたいに雑談だけでやり切ろうという気概もなければ、情報の確かさや持ち帰れる部分にだけ重きを置くのでもなく、ちょうどその間。すべての情報が混ざってるようなニュアンスを出すっていうのは、とても気をつけているところですね
——そういう位置を狙おうと思ったのは、なぜだったのでしょう?
TaiTan:まぁ、僕がそういうものを求めていたという感じですかね。知的な欲求も満たされながら、生理的にも気持ちいいみたいな。宇多丸さんや爆笑問題さん、菊地成孔さんなど、今まで聴いてきた好きなラジオのいいところを全部混ぜ込んでみたらどうなるかなって考えてみて、それをやるための方法論のひとつが情報と情感の間をいくってことでした。

——TaiTanさんが玉置さんの話を聴いているときに「それって、つまりこういうこと?」と要約するような受け答えをすることがあるなと思ったんですけど、そこにはリスナーにわかりやすく伝えようという意識があるんですか?
TaiTan:いや、単純に僕が解答を急いでいるだけです(笑)。喋ってる間、僕はあまりリスナーのほうを向いてません。自分が生理的に気持ちいいと思える感覚、めちゃくちゃ笑うとか閃くという瞬間だけが大事で、リスナーを意識して話を上手くコントロールするってことはほとんどないですね。
あるとしたら、編集段階で話が長いところを削るくらいで、喋っているときは自分が気持ちいいってことを一番大事にしています。それがクオリティを上げるポイントかなと思うので。
——『奇奇怪怪明解事典』がスタートしてもうすぐ3年になりますが、今でもふたりのお喋りには新鮮な楽しさがありますか?
TaiTan:基本はめちゃくちゃ楽しいですね。ちょっと前からTBSラジオで『脳盗』という番組も始まったんですけど、そっちは僕が完パケさせる方向の番組なんですよ。 自分で話題を持ってきて、話の流れがあまりズレないようにしつつ、25分の尺に収めるっていう。サッカーで言えば、僕がずっとドリブルしてシュートまで持って行くみたいなスタイルなんです。だけど、『奇奇怪怪明解事典』はパスを出し合うことの楽しさを優先していて、どっちも違う楽しさがありますね。
——相手にパスを出すときには、ゴールを決めやすいセンタリングを上げるみたいな意識はあるんですか?
TaiTan:僕らはプロの話者ではないので、芸人的な形式に則ることは難しくて。「この軌道でボールを上げれば左足で打てる」みたいなのはないですね。どちらかと言うと、僕がとんでもないボールを蹴って、それを周啓くんが肘で(バレーの)アタックするみたいなハプニングが起こってほしくて。それはお互いに思ってるんじゃないですかね。
——あぁ、その喩えはすごくしっくりきました。
TaiTan:何て言うんですかね、「そもそもPodcastをやってることなんてくだらないよね」みたいな気持ちが根底にはあるんですよ。お互いに言葉を紡いで、喧々諤々やってるという行為そのものが、楽しいんだけどくだらなさもあるよねって。そういうトーンはすごく大事にしてます。「たかだか雑談じゃないか」っていう。
時々、「番組を聴いて人生が変わりました」みたいに言ってもらうことがあるんですよ。もちろん面白い話ができるように努めてはいるので、そういう反応をもらうことは全然いいんですけど、自分たちとしては「俺らがやってることは、単に喋ってるだけのコンテンツだ」という意識ではいますね。

話しやすさ・話しにくさを分けるリズムの相性
——会話がどんなふうに積み上がるかは、聴き手の姿勢によっても変わってくると思います。「相槌」というものが持つ意味合いについて、TaiTanさんはどのように考えていらっしゃいますか?
TaiTan:相槌っていうのは、楽譜における打点みたいなものかもしれないですね。僕がメロディーを奏でているときに、周啓くんが四つ打ちのタンタンタンタンみたいなリズムを入れてくれることで、はじめてノレるみたいな。会話における相槌は、そういう役割を果たしてくれてるんじゃないですかね。僕がひとりでべらべら喋っていても、気持ちいいコンテンツにはならないと思うので。
——TaiTanさんが聴き手側に立ったときに意識していることはありますか?
TaiTan:僕は聴き手になるのが下手なんですよ。だから、さっきの話にもあった「話を要約する」っていう出口しか用意してあげられなくて。そこについては、周啓くんもフラストレーションを感じてるかもしれないですね。
彼のほうは割と寄り添ってくれるタイプかなと思います。ただまぁ、それもあんまり行儀のいい話ではないですね。結局は、お互いに相手の話を聴いてないだけだったりするので。
——そうなんですか(笑)。
TaiTan:僕は周啓くんの話が長いなと思って、終わらせるために強引にまとめに入ったりするし。彼は彼で、僕の話が長いなって思いつつも、止めるのが面倒くさいから頷いてるみたいなことは多いんじゃないですかね。
だから、相槌の技術で相手を気持ちよくしてあげようっていう意識はお互いにないかな。結果として周啓くんの相槌が僕を喋りやすくしてくれることはあったとしても、彼がそれを意識してるわけではないような気がします。

——TaiTanさんは玉置さん以外にも、いろんな方とお話する機会があると思います。そういうなかで、人によって話しやすさ・話しにくさを感じることはありますか?
TaiTan:ありますねー。あれは本当に不思議だなと思うんですけど、初対面でもわかっちゃうじゃないですか。この人とは上手く話せないっていうのが。
以前、『どもる体』(医学書院 )という本の著者である伊藤亜紗さんと、情報学研究者のドミニク・チェンさんと、「言葉と吃音」というテーマでお話しさせていただいたことがあったんですよ。というのも、もともと僕は軽度の吃音持ちで、伊藤さんやドミニクさんもそういう傾向があると。その話のなかで「会話していてどもる相手とどもらない相手がいる」という話題になったんですよ。Aさんと話しているときにはすごくスムーズに言葉が出てくるのに、Bさんが相手だと何も言葉が出てこないみたいな。それって、本当に不思議な話ですよねって。
——それは何によって変わるんですかね。
TaiTan:伊藤さんは「会話はキャッチボールではなく玉入れだ」ということを言われているんですよ。いろんな情報の持ち玉があって、それをポンポン投げ合って空間に溜めていくことが会話という行為の総体だみたいな話なんですけど。そういう感覚は、僕もすごく持ってて。
その理論で言うと、玉を投げ合っているときにリズムのズレを感じると、投げるのを遠慮しちゃったりするじゃないですか。その一瞬の躊躇が身体全体の緊縮を生んでしまって、言葉が出なくなるのかなと。だから、「話しにくさ」をわかりやすい言葉で言うと、リズムが合わないってことなんだと思います。

——リズムという点から考えると、オンラインとオフラインによっても話しやすさの違いは感じますか?
TaiTan:それはもちろんありますね。オンラインだと自分が立つピッチャーマウンドがセンターの位置にあるみたいな感覚になります。キャッチャーまでがあまりに遠くて言葉が届かないっていう。
——声が重ならないように、お互いに話し終わるのを待ってから次の言葉を投げかけるというタイムラグが生じるからなんですかね。テンポの良い掛け合いになりにくい。
TaiTan:トランシーバーと同じだと思うんですよ。「〇〇です、どうぞ」みたいな。だから、情報だけ交換している感じになりますよね。
『奇奇怪怪明解事典』も最初にオンラインでやってた頃は、イマイチ自分が思うノリ感になりませんでした。周啓くんを家に呼んで、対面でやるようになってからはよくなったと思います。

興味を源泉にしたオーセンティックなヒアリングスタイル
——『奇奇怪怪明解事典』を始めるまで、おふたりは数えるほどしか会ったことがなかったそうですね。そこからどんどん関係性が深まっていく様子も、番組の面白さのひとつだなと思います。「聴く」とか「話す」という行為は、人間関係を築く上で重要な意味を持っていると思うのですが、その辺りはどう感じていらっしゃいますか?
TaiTan:うーん。ちょっと回答になるかわからないんですけど、このあいだちょうど周啓くんと「モテ」についての推察をしてたんですよ。そこで出たのが「他者から見たときのイメージと、自分が持ってるアイデンティティがズレてない人がモテてるんじゃないか」という仮説で。例えば、自分ではめちゃくちゃ仕事ができると思っているけど、他人からはむしろ鈍臭いと思われていたりすると、そのギャップで人としての魅力が損なわれるんじゃないかなと。
僕と周啓くんは、その作業をずっとやってるのかもしれないと思ったんです。要は、僕が思っているTaiTanという人間のパーソナリティと、周啓くんが持っていたTaiTanに対するイメージがあって、それを擦り合わせているっていうか。「TaiTanという人間は、強面で、弁が立って、頑固」くらいの解像度だったものが、会話を重ねるにつれて粒度が細くなり、微妙なニュアンスまで汲み取れるようになっていく。聴いたり、話したりすることには、そういう効果があるのかもしれないですね。
——なるほど。自分のことを伝えたり、相手のことを理解する上で、言葉というものが有効な道具になるってことなんですね。
TaiTan:言葉そのものというよりかは、発話の仕方やコミュニケーションの傾向、キャラクター性といったものまで、すべてを含めたやりとりだと思います。

——先ほど、「聴き手になることが苦手」というお話がありましたが、「この人は人の話を聴くのが上手いな」と思う方はいらっしゃいますか?
TaiTan:それで言うと、『ハイパーハードボイルドグルメリポート』の上出遼平さんですかね。僕、メディアの方とか編集の方とか、いろんな方と絡むことがあるんですけど、聴くのを生業にしている人と話していると、たまに「求められているものを提供しなきゃ」みたいな気持ちになることがあるんですよ。話の軌道が見えちゃうというか。
そこに人の話をコンテンツにする傲慢さみたいなのを感じることがあって、気が引けちゃったりするんですよね。ヒアリングショーみたいだなと思って。
——消費されるみたいな感覚なんですかね。
TaiTan:だけど、上出さんってヌッと現れて、ボソッと聴いてくるんですよ。相手のことをコンテンツにしてやろうと思っていない感じが、すごく気持ちよくて。純粋な興味で聴いてる感じがするんですよね。
誰にでも興味のない相手と喋らなきゃいけないときってあるじゃないですか。でも、相手に礼節を欠いてはいけないから、なんとなく話を聴いたりしますよね。でも、そういうのってやっぱり相手にバレるんですよ。「お互い仕事ですもんね」みたいな。その感じがないのが、上出さんだと思います。
——自分で興味のある場所に行っているから、そういう姿勢で話を聴けるのかもしれないですね。
TaiTan:そうですね。自分で興味がないことも面白おかしくするのが、メディアの方々の仕事なのかもしれないですけど、それってショーになるじゃないですか。そうではなく、個人として本当に興味のあることを聴くっていう、オーセンティックなヒアリングスタイルの人はやっぱり面白いなと思います。

TaiTan:今の話をしながら思ったんですけど、僕は「興味がないのに聴く・話す」ってことにフラストレーションがめっちゃあるのかもしれないです。そういう時間をなくすためにPodcastをやっているのかなと思いました。本当に聴きたいことしか聴きたくないし、本当に喋りたいこと以外は喋りたくないから。
僕らの番組には「この本を紹介してください」みたいな連絡をいただくこともあるのですが、基本的には受けないようにしてて。読んだとしても、面白くなかったら番組の中では触れないようにしてます。そういうことを1回でもやっちゃったら、過去の発言のオーセンティシティが失われてしまうと思うので。
——積み重ねてきた信頼が一瞬で崩れてしまう可能性があると。
TaiTan:さっき話した「リスナーのほうを向いてない」っていうのも、そういう意味です。僕が面白いと思うこと以外は面白くないんですよ。僕から発信されるものって、僕が面白いと思うから面白いのであって、そうじゃなかったら嘘になると思います。
『奇奇怪怪明解事典』は、僕と周啓くんの人格そのものなので、嘘をついたらもうコンテンツにはなりません。だから、ちゃんと自分たちの興味を大事にしたいと思ってます。

協力:『奇奇怪怪明解事典』、『脳盗』