うどん発祥の地は博多!? 承天寺でうどん文化に触れる

福岡のご当地グルメといえば、もつ鍋、豚骨ラーメン、水炊きなどが昔から有名ですが、この10年くらいで急速に注目を集めたご当地グルメがあります。それが「博多うどん」です。今では豚骨ラーメンに負けないくらい、その知名度はアップ。地元住民はもちろん、観光客からも人気を集めています。

そんな博多うどんに縁があるスポットが、JR博多駅から徒歩およそ10分の距離にある「承天寺」。
承天寺を開山した聖一国師は1235年に中国(当時の宋)へ渡航し、禅の教えを修めてきました。ただ、その禅の教えのほかにも、宋からさまざまな文化を持ち帰ってきたといわれています。

承天寺の入口。周囲は承天寺通りとして整備されています

そのひとつが「大宋諸山図」に記されている「水磨の図」です。これは麦などの穀物を粉に挽くための水車製粉工場の設計図で、歯車と水車の連動についての描写にはじまり、歯車の径といったディテール、そして2階建てにして効率良く粉をふるい落とす工夫まで、詳細な図が記されていました。そのおかげで、博多の街に粉食の文化がもたらされました。この聖一国師の功績を讃え、境内には「饂飩蕎麦発祥之地の碑(うどんそばはっしょうのちのいしぶみ)」も建てられているんです。

「饂飩蕎麦発祥之地の碑」。石碑の手前には麦が植えられているという徹底ぶり

「饂飩蕎麦発祥之地の碑」という文字をよく見てみると、「蕎麦」という2文字が入っていることに気が付いた人も多いのでは。聖一国師の宋への渡航を支え、この承天寺の建立にも力を尽くした博多の貿易商・謝国明という人物がいます。その謝国明が飢饉になった年の瀬に、地元の住民たちにそばがきを振る舞ったところ、翌年、彼らに福がもたらされました。そんなエピソードに由来し、博多では年の瀬に食べる蕎麦が「運そば」と呼ばれるようになりました。これが今日の年越し蕎麦のルーツとも言われています。

春から夏にかけては境内を鮮やかな緑が彩ります

うどんやそばという言葉がこうも続いてくると、「博多うどんが食べたくなった」という人も多いのではないでしょうか。そんな方は、ぜひ博多エリアをぶらりと散策してみてください。博多うどんの聖地ということもあり、この博多エリアには博多うどんで最も長い歴史を誇る老舗を筆頭に、多くのうどん店が集中しています。博多うどんの特徴とされる「やわらかい麺」「透明なつゆ」を存分に満喫できますよ。

承天寺通りの入口に設けられた「博多千年門」。門のすぐ横に博多うどんの人気店もあります

中には、伝来当時のうどんを再現した一杯を提供する店があったり、博多うどんの原型とされる、あらかじめ麺を茹でておく“茹で置き”スタイルのうどん麺に透明のつゆを合わせた昔ながらの一杯を守る店もあったり、うどん好きにはたまらない食べ歩きが楽しめます。
ぜひ承天寺を訪ねたあとはうどん行脚に繰り出してみてくださいね。

聖一国師と謝国明の絆によって建立された承天寺。写真提供:福岡市

【承天寺】
福岡市博多区博多駅前1-29-9
TEL:092-431-3570
参拝時間:9:00〜16:30

博多を一望できる昭和レトロな穴場タワー

福岡に住んでいると、他県者からよく「福岡は暮らしやすそうですね」と言われます。その大きな要因の一つが、交通アクセスの良さ。電車、船、飛行機、どれをとっても便利がよく、乗り換えもスムーズです。
そんな福岡、実は交通の要所が全て博多エリアにあります。陸だったらJR博多駅、海だったら博多港、空だったら福岡空港です。
博多港にあるこの「博多ポートタワー」は、そんな博多の魅力をその目で感じられるスポットです。

博多港に佇むポートタワー。周囲には「ベイサイドプレイス博多」という複合商業施設もあります

タワーの完成は昭和39年。以来、博多港のシンボルとして地元住民に愛されてきました。その設計に携わったのが内藤多仲さん。日本が誇る東京タワー、通天閣(2代目)を設計した人物なのです。2020年からはタワーが季節ごとにライトアップされるようになりました。

タワー入口の真下から見たポートタワー

タワーは高さ100メートル。地上70メートル地点に展望室が備えてあります。海沿いに建つだけあり、とりわけ海側の眺めは抜群です。時折、飛行機が大きな姿で眼前を横切っていき、海上を大小の船が行き交います。
もちろん、陸側の眺望も見逃せません。このタワーから空港にかけては、飛行機の往来があるため、建物の建設において厳格な高さ制限が設けてあります。そのような理由から、視界を遮るような建物がなく、遥か彼方まで見渡せるような奥行きのある眺めが楽しめます。目の前の都市高速道路にも車が絶え間なく往来。陸海空にわたり、福岡が交通の要所であることを実感できました。

海側の様子。能古島や志賀島が見渡せます

東区方面の眺め。遠くに福岡アイランドシティも見えました

特に平日は混み合っていないので、のんびりできますよ

海、そして陸へとつながる360度のパノラマが独り占めできるのに、入場は無料。気前が良すぎるなと、訪れるたびに思ってしまいます。しかも毎度、そこまで来場者も多くなく、まさに穴場スポットなのです。

タワーの1階にある「博多港ベイサイドミュージアム」では、博多港にまつわる展示も鑑賞できますよ。ぜひ博多の知識を深めてください。

「博多港ベイサイドミュージアム」ではパネルや模型などで博多港の歴史、豆知識を紹介しています

【博多ポートタワー】
福岡市博多区築港本町14-1
TEL:092-291-0573
営業時間:10:00~17:00(最終入館16:40)
定休日:水曜(水曜が祝日の場合、翌平日)、年末年始(12月29日〜1月3日)

わざわざ通う理由がある博多郊外の名物酒屋へ

最近、お酒を買ったのはどこですか。昔は近くの酒屋で買うという人が大多数だったのかもしれませんが、今ではスーパー、あるいはコンビニ、お酒のディスカウントショップで買っているという人のほうが多いように思います。それだけお酒がいろいろな場所で買えるようになったということです。

JR博多駅から電車で2駅先にあるJR笹原駅。その駅舎から10分ほど歩くと辿り着くのが「とどろき酒店 三筑本店」です。博多エリアの中心地から離れた住宅街にあるにも関わらず、わざわざ遠方からやって来るという人も多く、その知名度は全国区。昨今のそんな酒事情にも振り回されない、「ここに来る理由」のある酒屋です。

まるで美術館やギャラリーのような佇まいの「とどろき酒店 三筑本店」。福岡市・白金には姉妹店「とどろき酒店 薬院stand!」があります

随所に曲線を取り入れた空間デザインが気持ちを高揚させます

創業は1973年。現在は2代目、轟木渡さんが代表を務めています。初代の頃から一貫しているのは、人ありきで酒を選ぶこと。店長の安陪さんの言葉を借りるなら「その酒蔵の酒を売るということは、その造り手の人生を預かること。家族だと思って付き合います」という思いが根底にあります。

店長の安陪成章さん。代表・轟木渡さんとともに長きに渡ってとどろき酒店の暖簾を守ってきた情熱の人

人で選ぶからこそ、流行りやトレンドは意識しないという安陪さん。「自分たちが好きになれるものだけを置きたいんです。もちろん味が良いということも大切ですが、最後は人。その造り手に共感できるか。人として気持ちよく付き合っていきたいんです」と言葉に力を込めます。

大切な家族だと思える蔵元だからこそ、その子供ともいえるお酒の見せ方にも工夫を凝らします

創業以来、日本酒に力を入れてきましたが、近年は自然派ワインの販売、そしてその普及にも注力。2021年には、ついに自社のワイナリー部門「ストゥディオゴーゴー」まで立ち上げました。これから福岡県・朝倉市の醸造場から全国へと、朝倉の土地が育んだワインを発信していきます。

福岡でナチュラルワインを取扱い始めた酒屋の先駆けとしても知られています

2020年に徒歩圏内で移転リニューアルを果たした新店舗は酒屋のイメージを覆す現代的な佇まい。建築家・干田正浩さんが弥生時代の遺構・三筑遺跡に着想を得たという、温かくも洗練された空気が流れる店内には、お酒の販売のみならず、お酒や食にちなんだ書籍や酒器、カトラリーも販売しています。

開放的な吹き抜けも印象的な三筑本店。今後、お酒にまつわるイベントもこのスペースで企画中です

取材という形での訪問でしたが、そんな仕事を抜きにして、お酒の魅力を熱く語ってくれた安陪さん。これまで身の回りで「ここに通うようになって、ますますお酒が好きになった」という声を数多く聞いてきたのは、安陪さんや同じように情熱を持って携わっているスタッフさんたちの日々のコミュニケーションの積み重なりなんだと実感しました。
酒づくりは人。そして酒屋もまた人でした。

安陪さんイチオシの蔵元、王祿酒造(写真左)と山の壽酒造(写真右)の一本

【とどろき酒店 三筑本店】
住所:福岡県福岡市博多区三筑2-2-31
TEL:092-571-6304
営業時間:11:00〜19:00、土日祝は10:00〜18:00
定休日:月曜
https://todoroki-saketen.com

博多の締めなら孤高の麺酒場一択

博多エリアの締めにふさわしいのは、住吉にある「つどい」一択でした。博多、ひいては福岡には、本当に数え切れないくらい、素晴らしい飲食店があります。その中で、「つどい」を推すのは、唯一無二の世界観があるからです。

住吉の路地裏に「夜の匂い」と書かれたピンクの提灯を見つけたら、そこが「つどい」

店主のギュウさんは福岡市・長浜で「つどい」を開業。その後、薬院へと移転し、さらに2018年に現在の場所へ店を移してきました。
三度、場所は変わりましたが、その空気感は一貫してアングラで、ディープ。店内に置かれたちょっとしたオブジェ一つとっても、ギュウさんの世界観が凝縮しています。ハマる人にはハマる。そんな麺酒場なのです。

店主のギュウさん。この世界観を作り上げたセンスの塊のような兄貴です

メニューも振り切れています。初めてメニュー表を見ると、なんのことだかわからないものばかり。汁なしのアレ、ソレ、四次元そば、パリピ、夜の匂い───まるで暗号のようです。これもまた、「つどい」の魅力の一つ。
昨今、情報に満ち溢れた世の中で、聞かないと分からない、店主との対話によって初めて内容がわかるという流れは、なんだか古き良き時代の粋な掛け合いを思わせます。

アレやソレなど、本当に初見ではどんな食べ物なのか、いや、食べ物なのかすら分からないそそるメニューばかり

蛇足かもしれませんが、何も記述しないわけにもいかないので、少しだけメニューのご紹介を。「汁なしのアレ」は、日本人のほとんどが知っているであろう有名な某カップ麺「U●O」を旨味調味料を使わずに再現したオマージュ作品。「ソレ」はラーメン用の中華麺をそうめんのように食べる汁なしタイプの麺です。博多では“ラーソーメン”という名で親しまれている一品を「つどい」流にアレンジ。特製の辣油、塩などが添えられ、なんと一杯で5通りの食べ方が楽しめます。締めにはもちろん、酒のアテにもベストマッチです。

こちらが「ソレ」(800円)。ライ麦を混ぜ込んだ特注麺が魅せる一杯です

麺酒場ということもあり、麺だけを食べに来店しても良いのですが、やはりお酒を飲んでこそ、「つどい」の真骨頂に触れられるように思います。

いかにも怪しげなカクテル「夜の匂い」(600円)。どんなカクテルなのかは、ぜひギュウさんに聞いてみて

店内はうなぎの寝床のように縦長の造りになっていて、客席はカウンター席のみ。屋台のような空気感もお気に入りのポイントです。「ソレ一杯、締めに!」「匂いを追加で」「パリピ、1皿〜」といった暗号のような言葉が飛び交う“つどいワールド”を楽しんでみてくださいね。

客席にはところどころにデザイナーズチェアも採用されています。このバランス感覚に惚れるんですよね

なお、店の入口ではギュウさんが買い付けてきた骨董品、カセットテープなどを販売しています。昭和を感じる絶妙なセレクトに、思わず頬が緩んでしまうこと請け合いです。

オリジナルTシャツ、ステッカーはお土産に大人気

令和レトロという言葉があるなら、この店に冠したい。この記事を読んでピンと来た方は、間違いなく「つどい」と波長が合っているはず。この週末、夜の匂いに誘われてみるのも良いかもしれません。

毎日に刺激が足りないと感じている人もぜひ足を運んでみて

福岡を訪れる人は滞在中、必ず一度は足を踏み入れるであろう博多エリア。そんな博多エリアでは、博多うどんのカルチャーに触れてみたり、圧倒的な個性を誇る麺酒場を訪ねたり、福岡の酒文化を担う名物酒販店に足をのばしたり、まさに、“食の都・福岡”を満喫できるスポットセレクトになりました。次回は個性派ショップが集まる薬院・平尾編をお届けします!

【つどい】
福岡市博多区住吉5-20-3
TEL:なし
営業時間:21:00~翌1:00 (LO24:30)
定休日:日曜、その他不定休あり