天神では登山もできる。そんな噂をこの足で検証!
天候に恵まれ、ポカポカと温かい天神の街。そんな絶好の行楽日和を満喫すべく、登山に向いました。「え、登山??」。そんな声が聞こえてきそうですが、実は天神のど真ん中に知る人ぞ知る低山があります。それが「アクロス福岡」(以下、アクロス)です。

アクロス福岡の外観。木々が生い茂るさまはまさに山のようです
アクロスは1995年に旧福岡県庁跡地に建設された公民複合施設。県庁移設にあたり、先立ってアクロスビルの南側に天神中央公園が整備されたことから、アクロスビルの建設には公園との調和が求められました。そこでビルを緑化する建設案が採用されました。そして生まれたのが、現在のまるで山のような建物なのです。
真横から見るとよくわかるのですが、建物は南から北へと上がっていく階段状になっています。この天神中央公園に面した南側が“アクロス山”という愛称で親しまれているステップガーデンです。
最上階の展望台までの距離はおよそ60メートル。入口はアクロスの南側、1階部分に2箇所設けてあります。いざ、登り出すと、すぐに「?」「!」という記号が頭に浮かぶはず。今、自分がどこにいるか分からなくなるんです。それくらいに、山。木々が生い茂り、水のせせらぎ、野鳥のさえずりが聞こえてくるんですから。

木々の間で羽を休める小鳥
「本当の山に見えるのは、公園との一体化を踏まえた屋上緑化計画の賜物ですね。およそ30年前の竣工時から現在の山のような姿になることを目指していましたから、山のような“見た目”だけを作り出すのではなく、本物の山となるような自然環境をゼロから構築していくことがなされてきました。山を作るという壮大な計画。SDGsはもちろん、エコという言葉も、その概念も定着していなかった時代だったこともあり、何をしようとしているのか分からないといった声をいただいたこともあったと聴いています」。そう教えてくれたのは、このアクロスの広報を担当している川野さん。
川野さんに聞いて最も驚いたのは、本物の山を作り上げるための、数々の創意工夫です。木を植える地面には人工土壌を採用。その土壌の上には、建築当初で76種、3万7000本が植栽されました。川野さんは「その後、樹木を補植したり、他にも野鳥や昆虫たちによって種子が運ばれたりしていきました。その結果、今では随分と種類が増え、200種類くらいになりました。木々についても外来樹や国内の遠方からではなく、九州圏内のものを選んでいます。そうすることで、ここが福岡の山により近づくと考えたからです」と笑顔を見せます。

雨が降れば、その雨水を回収し、濾過して地下に一旦貯蔵。この地下に貯まった水はスプリンクラーによって放水できる仕組みになっています。ただ、その機会はほぼない無いそうです。「山の木々にわざわざホースで水を与えませんよね。このアクロス山も、スプリンクラーは用意されてはいますが、自然がもたらす雨だけで成り立っているんですよ」という川野さん。その言葉を聞いて、30年かけて本当に山になったのだなと改めて実感しました。
山頂への道中、ところどころに太い木の枝で囲まれた円があります。木の輪の中では、このアクロス山にたまっていく落ち葉を集めて腐葉土を作っているそうです。「そろそろこのアクロス山にもカブトムシが自生しないかなと思っていまして。そのために実験的に試しているんです」。そう言って川野さんは積もる落ち葉に優しい眼差しを向けました。

そして、最上階の展望台に到着。眼下には桜が咲き誇り、そのピンクとの対比で天神中央公園の芝生がより一層、生き生きと輝いていました。福岡は空港と市街地の近接した街。そのため、建物に厳格な高さ制限が設けられています。この天神地区も、高いビルが建てられない決まりになっているのです。その決まりの恩恵を受け、このアクロス山の山頂からの眺めはとにかく視界が広い。北には博多湾の雄大な海を望み、南側には中央区から南区にかけての街並みが広がる360度のパノラマビューです。


すぐ真上を飛ぶ飛行機にはびっくりです
帰りの道のりでは吹き下ろしの風が心地よく、足取り軽く、麓に到着。すっかり気分もリフレッシュされました。こんなにお手軽な登山だったら、毎日でも楽しめそう。

【アクロス福岡】
福岡市中央区天神1-1-1
TEL:092-725-9111
営業時間:ステップガーデン9:00〜18:00(11〜2月は17:00まで)
※屋上展望台は土日祝日の10:00〜16:00のみ開園
定休日:12/31〜1/2、他、雨天及び足元が悪い場合には利用できません
天神エリアのど真ん中でクールにクルーズ体験!
軽登山で爽やかな汗を流し、夕食までにもまだ時間が早いということで、もう一つ、天神で非日常を体験することにしました。やってきたのは博多から中洲にかけて水上バスを運航している「那珂川リバークルーズ」です。
受付兼乗り場は「福博であい橋」のすぐそばにあります。近年、この乗り場がある界隈は「HARENO GARDEN(ハレノ・ガーデン) EAST&WEST」と呼称。天神再開発の流れを受け、整備されています。レストランやカフェ、ベーカリーなどが次々と産声をあげているんです。そんな話題のスポットでクルーズ船までの待ち時間を過ごすのも楽しいですよ。

この「那珂川リバークルーズ」では、大きく2つのコースが用意されています。
1つが「中洲クルーズコース」。福博であい橋から出発し、はじめにキャナルシティ博多がある中洲方面へと進み、その後、博多湾方面に向かって、スタート地点へと戻る那珂川の遊覧コースです。昼から夜まで運航しているので、時間帯によっては中洲に連なる屋台の様子が楽しめます。
もう一つが「博多湾クルーズ」。こちらは夕方から夜にかけてのみ出航します。向かう先は福岡タワーや福岡PayPayドームがある西方面。福岡市のベイエリアを優雅にクルーズするサンセット&夜景コースです。
今回、取材班が予約したのは前者の「中洲クルーズコース」。ドラマチックな景色を求め、夕暮れ時を狙ってみました。
時刻は17:45。一行を乗せたクルーズ船は南へと進み出します。まず感動したのが、歩道を歩く人たちが手を振ってくれること。「手を振ってもらうくらいで大袈裟な」と思いませんでした? それが、本当に嬉しいんです。実際に体験しないと伝わらない感覚なんですが、これはもう、「握手だな」って思いました。それくらい、人と人との触れ合いを、手を振り合うという行為に感じたんです。

そんな感動に浸っているうちに、船は屋台の前を通過し、その後はキャナルシティ博多の付近でUターン。福博であい橋を通り過ぎ、天神のど真ん中を突き抜けて博多湾を目指します。
このクルーズ船の魅力の一つに、普段、見ることのできない角度、目線から街並を眺められる点があります。例えば博多ポートタワー。その竣工は1964年。実はその設計は東京タワーや名古屋テレビ塔、2代目通天閣なども手がけた内藤多仲さんなのです。船上からタワーの全容を観察すると、素晴らしい造形美であることがよくわかります。

建築でいえば、福岡市赤煉瓦文化館も見所の一つです。こちらは明治時代に活躍した建築家・辰野金吾さんと片岡安さんによる設計で1909年に竣工。レトロな赤レンガが目を引く外壁は、19世紀末のイギリス様式です。

博多湾の折り返しポイントに着く頃にはすっかり空は夕暮れ模様。トワイライトの幻想的な光景が眼前に広がります。このクルーズ船では受付で販売している生ビールなどのドリンクが飲めます。こんな景色が待っているんだったら、ビールを買っておくべきだったと猛省。そうこうしていると、船が再び動き出し、スタート地点へと戻っていきます。

およそ30分の船旅。決して長い時間ではありませんが、人情に触れ、名建築に触れ、そして潮風に触れ、ものすごい充実感でした。観光の人たちはもちろん、地元っ子にも心から勧めたいクルーズ体験です。

夜景が望める夜のクルーズもまたロマンチック
中洲クルーズ30分(1名) ¥1,000
【那珂川リバークルーズ】
福岡県福岡市中央区西中洲6-3-1(受付場所・乗り場)
TEL:080-5215-6555
営業時間:運航時間、予約については以下の公式webサイトを参照
https://river-cruise.jp/
福岡をもっと面白くする新感覚の屋台文化に、ハマる!
太陽もすっかり姿を隠し、街に明かりが灯ります。すっかりお腹も空いたので、屋台に繰り出してみました。屋台というと、なんだか観光のイメージが強いかもしれませんが、全然そんなことはなく、多くの屋台が支えられているのは、つまり地元の人たちが通っているからなわけで、もし福岡県民で屋台に行ったことがないという人にこそ、ぜひ一度、行ってみてほしい!と切に願っています。
と、勢いのままに屋台をレコメンドしましたが、屋台だからといって、どこでもオススメというわけではありません。イチオシが「Telas&mico(テラスとミコー)屋台」です。福岡市・春吉にある同名のレストランバーが本店。屋台では申請者が店主として店に立たないといけない決まりになっているため、この屋台の開業以来、店主・久保田さんは旧天神ロフトビル前で腕を振るっています。

ここで提供されているのは、いわゆる屋台料理とは一線を画す品々。多国籍料理がベースのメニューです。久保田さんは福岡出身で、20代で福岡市・舞鶴に行列のできるカフェを開業。カフェを閉めた後、パリやロンドンといった海外の星付きレストランで調理技術を養ってきました。特に最も長く滞在したロンドンでの経験が、今の久保田さんの軸になっています。

「本店ではフィッシュ&チップスや寿司ロールといったロンドン仕込みの料理を提供しています。一方この屋台は厨房スペースが限られているので、本店のエッセンスを散りばめた料理を用意しています」と教えてくれました。

鉄串三種セット(左からマッシュルーム串、華味鳥のタンドリーチキン串、福岡産真鯛と季節野菜串)1200円

ブルスケッタ三種盛り(手前・自家製明太バター、左奥・バングラディッシュスパイスのラムキーマ、右奥・糸島野菜のラタトゥイユ)1300円
前菜には自家製明太バターや糸島野菜のラタトゥイユ、バングラディッシュのスパイスを使ったラムキーマなどを乗せたブルスケッタ、本店の名物になっているアンチョビキャベツなどがラインナップ。タンドリーチキン、真鯛と野菜といった見た目にも華やかな焼き鳥ならぬ鉄串料理も押さえておきたい一品です。
メインには福岡県産の糸島豚を使った手作りソーセージのグリル、同じく福岡県産の雷山豚の朴葉焼きを用意。その内容はどれも屋台料理のイメージを覆すものばかりです。
久保田さんが懇意にしている作家、アーティストの作品たちも食事を引き立てます。壁に描かれた画家・沖賢一さんによるカリグラフィー、木工作家・nishimokko(ニシモッコ)さんが手掛けたお皿、イラストレーター・ダテユウイチさんによるオリジナルコーヒーパックなど、至るところにカルチャー感高めの演出がなされているのです。

もちろん、屋台自体も圧倒的な存在感。赤い屋根、ターコイズブルーのボディというパッと目を引くルックスです。「屋台は店舗設計から家具のオーダーまで請け負っている一級建築事務所『ラントマン』にゼロからオーダーしました。最終的に思いやこだわりを全て盛り込んだので、普通に新車が一台買えそうなくらいの費用は掛かったんですが、全く後悔はしていません」と、ちょっと涙目で笑う久保田さん。毎日動かすという点から、振動にも強く、構造がシンプルで組み立てやすく、できるだけ軽量化も図りたいという理想を可能な限り実現したそう。

Telas&micoさんの屋台はなんとグッドデザイン賞を受賞している
「6月には新たに福岡市の公募から選ばれた屋台が13軒、誕生するんですよ。今まで長浜エリアは1軒だけだったんですが、長浜にも屋台が連なるようになります。ぼくの屋台みたいに、個性的な屋台も登場すると聞いているので、ぜひ屋台をハシゴしてみてほしいですね」
久保田さんはそう言いつつ、どんどん入ってくるオーダーを手際良くさばいていきました。
天神エリアの一等地、その路上でアウトドア気分に浸りながらハイカラな屋台で多国籍料理をつまみに、一杯引っ掛ける。こんなウキウキする体験を、観光客だけのものにするなんてもったいない! 地元の人こそ、ぜひ通ってほしいな。
鉄串三種セット ¥1,200
ブルスケッタ三種盛り ¥1,300
【Telas&mico屋台】
福岡市中央区渡辺通4-9 バス停「天神南」横
TEL:092-731-4917
営業時間:18:45~24:00
定休日:日曜、月曜(荒天時)
https://telas-mico.com/
今日の気分は、黒? それとも白?
天神・中洲エリアで大都会でのアクティビティや新感覚屋台体験を満喫したら、コーヒータイムでもいかがでしょう。4月28日、JINSが立ち上げたコーヒーショップ「ONCA COFFEE ミーナ天神店」(以下、ONCA)が「JINSミーナ天神店」との一体型店舗としてオープンしました。
福岡といえば、今や全国にも広く知られるカフェ激戦区。世界一に輝いた焙煎士やバリスタをはじめ、一流のスキルを持つコーヒー職人を何人も輩出しています。

そのコンセプトは『コーヒーを、「好き」に出会えるまでご案内します。』。専門的な用語が難しかったり、味がイメージできなかったり、最近のコーヒーは敷居が高いという人もいらっしゃるのではないでしょうか。コーヒー好きの方はもちろん、そういう方々にも、気軽に親しんでほしいという思いが、お店づくりの根底にあるんです」。そう話してくれたの飲食事業を担当している飯塚さん。

ONCAでの基本は「KURO」「SIRO」という2種類のコーヒーのみ。「KURO」はドリップコーヒー、つまり黒色。「SIRO」はラテ、こちらは白色。ONCAの大きな特徴として、メニューがシンプルでわかりやすいこと。飯塚さんは「パッと来て、その日の気分で直感的にサッと注文できる。それでいて美味しい、という体験を目指しました」と笑顔を見せます。
もちろんその先もあります。受け取ったメニュー表を一枚めくれば、「KURO」ならブラジルやエチオピア、グアテマラ、インドネシアといったシングルオリジンのほか、オリジナルブレンドの深煎りやデカフェ、アイスコーヒーからメニューを選ぶことができます。一方、「SIRO」にはバニラやキャラメルなど、追加シロップの提案がありました。「普段、あまりコーヒーに慣れ親しんでいない方にも、ヘビーユーザーのコーヒー愛好家の方にも、どちらにも満足いただけるよう、メニュー構成を工夫しました」という飯塚さん。

取材班のイチオシは「ONCA BLEND」です。飯塚さんによれば、ONCAの開業にあたり、シングルオリジンのコーヒー豆をそれぞれ、生豆から浅煎り、中煎り、深煎りというように、焙煎の度合いを変えつつロースト。それを飲み比べ、最もその豆の魅力が引き立つ焙煎具合を追求。そして、「ONCA BLEND」はその集大成として、焙煎した豆を5種織りまぜています。「一般的にブレンドする場合は生豆の状態から複数の種類違いの豆をまとめて煎るようですが、当店では焙煎によってポテンシャルを引き出した状態のものを合わせてオリジナルブレンドにしています。5種混ぜるなら5回焙煎をすることになるので、とても手間が掛かるのですが、そこを惜しまずやることで、美味しさに繋がっていると思っています」と飯塚さんは教えてくれました。
生豆を煎る前には、コーヒーの味を損なってしまう原因になる欠点豆を一つひとつ手作業で取り除き、味の向上のための努力を惜しみません。
そんな情熱がこもったコーヒーが「KURO」なら400円で、「SIRO」でも450円(追加シロップは+50円)で堪能できます。普段使いに打って付けです。

空間づくりには現地ならではの趣向が凝らしてあります。それが福岡の伝統工芸、小石原焼を組み込んだ什器です。8つの窯元がJINSと建築設計事務所「ツバメアーキテクツ」と検討を重ねた、それぞれデザインの異なるこだわりの特注タイルをテーブルやソファ、本棚に取り入れています。遠くから見ると一色のように見えますが、近づいてみると細やかなデザインが施してあり、ついつい見入ってしまいます。


ONCAから休憩スペースを挟んだ先のJINS店舗のメガネ什器に使われているタイルはメガネのサイズ、形状に添うよう、ゆるやかなカーブを描いていているため、遠くからだと、波打った水面のように見えます。
地元福岡の杉材を取り入れたテーブルやベンチもまた、遠近で見え方が違って、思わず引き込まれるデザインになっています。

コーヒーをタイルに置き、ぼんやりと過ごす時間。一つとして同じ模様のないタイルに、なんだか心がほぐれていき、コーヒーがいっそう沁み渡りました。

【ONCA COFFEE ミーナ天神店】
福岡市中央区天神4-3-8 ミーナ天神1F
TEL:092-761-7071
営業時間:平日7:00〜20:00、土日祝10:00〜20:00
定休日:なし
※GW期間の5/1、2は平日ですが、土日祝の営業時間となります
https://www.onca-coffee.com/
天神・中洲エリアのおでかけは、福岡きっての繁華街を舞台にしながらも、単なる都会の印象に終わらない、アクティビティ体験にはじまり、生まれ変わろうとしている天神の今を感じる屋台カルチャーにも迫ってみました。丸一日、楽しめるようなスポットをチョイスしたので、ぜひ街歩きの参考にしてみてくださいね。次回は天神・中洲に並ぶ福岡を代表するエリア・博多編をお届けしますよ。乞うご期待!