地域の“交差点”になるように。

全国各地に店舗を構えるJINS。店舗を起点に地域との関わりを強めていこうという取り組みを進めています。

4月26日にオープンした「JINS山形白山店」もそのひとつ。新店舗の特徴とコンセプトについて、店舗設計を担当された建築設計事務所OpenAの白石洋子さん、代表の馬場正尊さんにお話を伺いました。

白石「JINSの店舗は、単にメガネを買うためだけの場所ではなく、公園のようにふらりとたくさんの人が訪れ、人と人とが交わる場所を目指していると伺いました。そこで地域の人が立ち寄りやすいよう、開放感のある明るくて温かみのあるデザインを意識しました。山形は県土の7割が森林なので、その特徴を活かして、地元の木材をふんだんに使用。山形の伝統工芸技術である『組木(くみき)』をメインのモチーフにすることで、景色に溶け込みながらも存在感があり、真っ白な雪景色にも映えるデザインとなっています。店内にはギャラリーのような空間を設けていて、子どもたちの絵の展示など地域との繋がりづくりに活用する予定です」

馬場「店舗のコンセプトは“Creative Crossing”。地域の“交差点”を創り出すということです。この“交差点”には三つの意味があります。ひとつ目は、立地として。店舗があるのは市街地からは少し離れた、山形の自然と都市を感じられる場所。さまざまなエリアの結節点となっている、大きな交差点に位置しているんです。ふたつ目は、時間。デザインに組木など、山形の昔ながらの伝統的な造形や技術を取り入れた一方で、JINSは常に新しいことにチャレンジしているイメージがあります。過去と現代、そしてこれからの未来、時間の交差点として存在するという意味を込めました。三つ目はコミュニケーションの場として。交流がたくさん生まれる場所にするために、店舗づくりの段階から地域の人が関わることができたら面白いんじゃないかという話になりました」

考えたのは、学生コンペという形式

建築家であり、実は東北芸術工科大学の教授でもあるOpenA代表の馬場さん。

東北芸術工科大学は2年に一度開催される芸術祭、「山形ビエンナーレ」を主催するなど、地域とのつながりを大切にしています。その姿勢に共感したJINSは、東北芸術工科大学の学生さんと一緒にこの新店舗をつくっていくことを切望。

店舗に設置するグラフィックと待合ベンチのデザインを、学生さんからコンペティション形式で募集することを計画しました。コンペの審査員は東北芸術工科大学の学長でありアートディレクターの中山ダイスケさん、馬場さん、JINSのCEO田中が務めました。

デザインコンペのポスター

馬場「東北芸術工科大学には絵や造形のデザイン以外にも、環境デザインやコミュニケーションデザインなどさまざまな学科があり、多様な人材が揃っています。今回のコンペはあえて応募資格の縛りを設けず、全学年、全学科からデザイン案をオープンに募集しました。集まってきた作品もプレゼンも、似たようなものはひとつもなく、個性的なものばかり。僕たちが想像もしなかったようなデザインがたくさんありましたね」

多数の応募があったなかで、4名(4作品)が受賞し、その中から2名のデザインを実際の店舗に採用。採用された2名の学生さんにもお話を聞きました。まずは、グラフィックのデザインを担当された小松世奈さん。岩手県の大船渡出身で小さいときからグラフィックを見るのが大好き。コンペに参加したのは今回が初めてだったといいます。

小松JINSのメガネは昔から愛用していて、6本も持っているんです(笑)。募集でJINSの名前を目にした瞬間、お世話になっているお店に関わりたい、応募するしかないと思いました。学校の授業でデザインはコンセプトから、と教わっていたので、まずはそこから考え始めることに。コンセプトは、“メガネを通して幸せになる”にしました」

東北芸術工科大学グラフィックデザイン学科2年(※応募当時)小松世奈さんの作品

小松「コンセプトはすんなり決まったのですが、そこからビジュアルに落とし込むのが難しくて……。なんとか完成したデザインを選んでいただきましたが、細かい点で詰めきれていないところがあり、4名に選ばれてから採用作品が決まるまでの間、中山学長にもサポートいただきながらブラッシュアップしていきました。人の表情が幸せに見えるよう大きな口を描き加えたり、さまざまな世界を見ていることを表現するために目にいろんな色をつけたり。JINSで実際に売られている商品を参考に、メガネも丁寧に描き直しました。明るくて幸せな世界観をつくることができたと思います。訪れた人たちも、幸せな気持ちになってくれたら嬉しいです」

小さい子どもからお年寄りまで、たくさんの登場人物たちがメガネの向こう側からこちら側の世界をのぞいているビジュアル。楽しそうな雰囲気が伝わってきます。

デザインが採用されたことは大船渡に住むご家族にも報告。非常に喜ばれているそうで、「家族みんなで近々、新店舗に来てくれると思います」と話してくれました。

待合ベンチのデザインを担当されたのは清水海斗さん。他大学を卒業後、東北芸術工科大学院に進学されたのは、まちづくりに興味があったからだといいます。

清水「実は僕、地元の神奈川があまり好きじゃなくて、なんで好きじゃないんだろう、地域に愛着を持つってどういうことだろうと、ずっと考えていました。そんななか、馬場先生が主催する“まちづくりキャンプ”というイベントに参加。地域の人たちが熱意を持ってまちづくりに取り組む姿を目の当たりにして、馬場先生のもとで学んでみたい、と東北芸術工科大学院へ進学することにしました。今回のJINSのデザインコンペは、単なるおしゃれなベンチではなく、まさに街とJINSを繋ぐためのベンチを求められていると感じて、やってみたい!と挑戦することに。コミュニケーションが生まれるようなデザインにしたくて、パーツを組み合わせて自由に形をつくることができる、緩やかな曲線のあるベンチにしました」

東北芸術工科大学 大学院修士課程 建築・環境デザイン領域2年(※応募当時)清水海斗さんの作品

清水「クライアントワークは僕にとって初めてのことだったので、学びがたくさんあったんです。馬場先生にはベンチの配置について色々とアドバイスをいただいたのですが、座っていない人にとってもベンチって役割があることに気づかされました。置き方次第で歩く人たちの動線が動きやすくも動きづらくもなってしまう。お店に訪れる人全体の流れを考えて、何十通りも組み替えながら配置を決めました」

実際のベンチの設置図面(曲線部分がベンチ)。何通りも組み替え案を出し、この配置に決まりました

パーツを組み合わせてつくる、大きなプラレールのような作品。特徴である緩やかな曲線部分は、座ったときになんとなく一緒に座っている人の顔が見える、程よい距離感をつくり出します。向かい合う形にはならないため、知らない人同士でもストレスなく使えるのがこのベンチの魅力。お互いの顔が少し見えることで、自然とコミュニケーションを生み出しやすいデザインとなっています。自由に組み替えられるため今後も様々な活用が期待できます。

この春大学院を卒業し、就職を機に“好きじゃなかった”という地元、神奈川に戻った清水さん。いろんな街を見てきたことで、自分が生まれ育った街に対する見方が変わってきたんだそう。「これからもっと地元のことを知っていきたい」と話してくれました。

採用された二人のデザイン。決め手はなんだったのでしょうか。

馬場「お店を地域にとってどういう場所にしたいか、というところが語られている、体現できている作品を選びました。メガネは年齢問わず使うものなので、幅広い世代の人たちがほっとしたり楽しんだりできる、そういう場所となるのが理想。難解なメッセージではなく、明るく温かみのあるデザインというのを重視しました」

白石「4名のデザイン案が受賞となってから、採用する2作品の選考までブラッシュアップの期間を約1ヶ月設けたのですが、どちらの作品も驚くほどよくなりましたね。ここまで変わるんだ!とびっくりしました。ああしましょう、こうしましょうという具体的な指示は一切していないんです。JINSや施工者の意見を伝えて、学生さんにはデザイナーとしてどうしたいかを主体的に考えてもらいました。プロとして扱われたことは、学生さんにとっても貴重な機会になったと思います」

コンペのその他の受賞作品(画像左)東北芸術工科大学グラフィックデザイン学科・金野瑠々さんの作品、(画像右)東北芸術工科大学プロダクトデザイン学科・藍彩花さんの作品。どちらもJINSの幅広い層のお客さまを迎えることを意識したデザインで、最後まで採用する案の検討は続きました

コンペの審査およびブラッシュアップ期間にサポートもされた、学長でアーティストでもある中山ダイスケさんからもコメントをいただきました。

「全国展開されているJINSさんの山形の新店舗に、本学の学生のデザイン案を採用してくださるという貴重な機会をいただき大変感謝しております。有名なJINSさんということで、沢山の学生のプランが集まりましたが、ファッション好きな学生のみならず、山形に暮らす様々な方々が、新しいメガネとの出会いを楽しめるように、世代や性別を超えて親しまれるアイデアを創るというミッションはなかなか困難だったようです。日頃から自分達の世代の好みには詳しいはずの学生たちが、より広い世代の目線になって考えるという難しい課題に挑んだ経験は、きっと今後にも活かされていくでしょう。一人のメガネ好きのオッサン学長としても、親しみやすく、入店しやすいメガネ屋さんが近所に誕生したことはとても嬉しいです」

地域とJINSをつなぐ、たくさんの人の思いが詰まった「JINS山形白山店」。今後の展望として、東北芸術工科大学の敷地内にある認定こども園に通う、子どもたちの絵を店内に展示する計画もあります。店舗を通じて、地域の人とより深くつながっていくことを目指しています。

全国の店舗を通して、つながる

地域共生に取り組むJINSの店舗は、山形白山店の他にも続々生まれています。

2023年4月4日にオープンした愛知県「JINSイオンモール豊川店」は、平田晃久さんが設計。「雲の中に浮かぶメガネと出会う」をコンセプトに雲を模した什器が点在し、訪れるだけでワクワクする空間となっています。

店内には書籍が並ぶコミュニティスペースがあり、本との出会いも楽しめます。

2023年4月22日にオープンした長野県の「JINS佐久平店」は、中村竜治さんが設計。大きな公園に隣接する、幹のようなデザインの店舗となっていて、オープン当日には地域の人たちが参加するマルシェ形式のイベントを開催しました。

これからもJINSは店舗を通して、地域共生に取り組み続けます。地域のアイコンとなるような店舗が全国に広がって、新しいコミュニケーションがたくさん生まれていったら嬉しいです。