
自分のことは、「過剰」だと思わない
——特集テーマが「過剰なくらいで、ちょうどいい。」に決まり、編集長の永野さんがまず思い浮かべたのが、尊敬してやまないセイジさんだったそうです。
セイジ:自分は過剰な人や勢い余っている人が大好きなので、そういう枠に入れてもらってうれしいね。光栄です。でも、自分のことをそういうふうに考えたことはないかもしれないなあ。
——セイジさんご自身は、自分のことを“過剰な人”だとは思っていない?
セイジ:うん。永野くんのほうがよっぽど過剰じゃないか!と思う(笑)。初めて永野くんをテレビCMで見たとき、「うわ、この人はみ出してるなあ! 変な人だなあ」と一瞬で思いましたよ。もう10年くらい前だと思うけど、すごく鮮明に覚えてる。その後、初めて対面したときは「ナイスガイだな」と思ったね。
——永野さんが先日「コロナ禍以降、みんなが本気に飢えているんじゃないか」とおっしゃっていたんです。セイジさんはコロナ禍以前と以降で、そうした変化は感じますか?
セイジ:コロナ禍の間はみんな本気になれなかったし、そろそろ爆発したいと思っているかもしれないよね。「本気」に飢えている人は、まず「この人、本気でやってるな」と思う人の真似をしてみるといいんじゃないかな。俺はスポーツ選手が好きなんだよ。本番で本気になったときの、野獣の目。あの目を俺にも宿したい、と思いながら見ていますね。

自分の「島」を探しに上京した19歳
——過去のインタビューで「飛び出してないと我慢ができない」とお話しされていたこともありましたが、幼い頃からそういうマインドを持っていたんでしょうか?
セイジ:自分が飛び抜けた存在だと思ったことは全然なくて、いたって普通の人間でした。でも、何かをやりたい欲求はあって。島根の田舎で生まれて、周りの連中はけっこう大学に行ったけど、俺は何の理由もなく上京したから、「この東京という街で飛び出さないと、自分の居場所が見つけられない」と思ったんだ。それから自分の島のような存在になったのが、バンドだった。バンドはもともとやりたかったけど、島根から出てきた田舎者の俺なんかがやっちゃいけないのかなと思っていて。レコードショップのバイト仲間がギターをやっていたのをきっかけに、やったこともないのに「俺がメインボーカルだ!」と、勢いで始めたの。あの頃は自分が素人だと見透かされないように、必死で突っ張っていましたね。
——それが19歳くらいの頃ですか?
セイジ:そうだね。いろんな人に声をかけて動いて。がむしゃらにやらないと、実現できなかったと思う。それから何かをやるときには、周りの状況とかは考えず、とにかく飛び出すようにしてますね。

カッコつけないと、カッコよくならないからね。
——セイジさんはロックンローラーならではの数々の武勇伝をお持ちで、テレビ番組で紹介されたこともありますよね。腰からフロアに落ちても度数の高いお酒を飲んでごまかしたり、革ジャンを洗濯機で洗ったり……自分で「これはやりすぎたかも」と思っているエピソードはありますか?
セイジ:一心不乱にぶっ飛ばしてきただけなんだけど、やりすぎたことはいっぱいありますよ。東京の都心からだいぶ離れた福生(ふっさ)ってところで、ライブ前にアルコール度数が75度あるロンリコの瓶(編注・ラム酒)を一気飲みしたら、気付けば世田谷の家のベッドで寝ていた。かなり過激にライブをしていたつもりだったけど、ぜんぶ夢の中だった(笑)。あとは居酒屋での四次会で、店主に「これを飲んだらタダにしてやる」と一升瓶をちらつかされて、飲み切って。でも最後の瞬間からもう記憶を失っていたりね。反省することはたくさんあります(笑)。
——(笑)。ちなみに、セイジさんが考える「カッコいい」の価値観は、歳を重ねるにつれて変化していますか?
セイジ:自分のことをカッコいいと思ったことはなくて、逆にすごくカッコ悪くてダサい人間だと思ってた。だから一生懸命カッコつけて、踏ん張って立っていたんだろうな。カッコつけないと、カッコつかないからね。とりあえず「革ジャンを着ればカッコいいかな」とか考えて、チャラチャラしてたよ。でもチャラチャラしていようがなんだろうが、人目を気にせず邁進している人には、カッコよさを覚えますね。それこそ芸人さんたち。彼らはやらなきゃいけないことを、カッコいいかどうかなんて関係なく、一生懸命やるじゃない? その姿って、すごくカッコいいと思う。

好きなことを、好きなだけ楽しめたら
——今の時代はコンプライアンス意識が高まってきていて、言動ひとつで炎上してしまったり、配慮が必要とされたりする場面も増えたと思います。セイジさんもそうした部分を意識して行動することはありますか?
今のところはないかな。そこまで俺にメディアが集中しているわけじゃないから。もし何かで炎上することがあったら、考えるのかもしれないけど。たまたまなのか、今のところはありのままでいられていますね。
——炎上をおそれず「爆発」していると。そのカッコよさに憧れつつ、一方で一生懸命に打ち込むことに恥ずかしさを覚える人もいると思うんです。そういった「爆発したいのに勇気が出ない」という人は、どうしたらその一線を踏み越えられると思いますか?
セイジ:うーん。自分が好きで楽しめることを好きなだけやったら、誰でも爆発できるんじゃない? 「ドラゴンボール」で悟空がかめはめ波を出すみたいに、自分が瞬間的に沸騰できるようになったのは、海外にライブで行くようになってからなんだよね。目の前に金髪の姉ちゃんがいて、「よし、目立ってやる!」とアドレナリンが出て、パーンと爆発する。今はもう、それを技としてできるようになったけど。

photo by Saaya
——ギターウルフは90年代前半から海外ツアーを行っていますよね。どういうきっかけで海外を回るようになったんですか?
セイジ:自分たちがやっているような音楽が、ちょうどシンクロするように1990年代に流行って。ファンジン(編注・ファンマガジン。同人誌)とかで日本のそういうシーンが面白いというのを嗅ぎつけたのか、シアトルでのイベントにオファーしてもらったのがきっかけでした。そうしている間に『MAXIMUM ROCK’N ROLL』(編注・サンフランシスコ発のパンク・ハードコアに特化したファンジン)の表紙になったり、マタドールというあちらのレーベルがついたりして、今に至るという感じだね。
——海外で新たな価値観に触れると、受ける刺激はやはり大きいですか?
セイジ:みんな国内だけじゃなくもっとバーンと海外に行けばいいのにな、とはやっぱり思うかな。アメリカには、「モンスタートラック」っていう車を使うモーター競技があるの。バカでかいタイヤがついたトラックが巨大なスタジアムに出てきて、小さい軽自動車を踏み潰す。それを見て観客たちが「ウオオオ!」って喜ぶという。そんなアメリカでギターウルフはなかなかウケたわけだけど、彼らのああいう過剰な部分は俺も大好きだね。でも一方で、日本も過剰な部分がある民族だなと思っていて。ライブの盛り上がりもなかなかすごいしね。ロックを生んだ国ではないからこそ、「自分たちのロックンロールを見せてやる」というような思いは、すごく強いのかもしれない。
——アメリカとはまた違うベクトルに突き抜けていると。
セイジ:俺たちに「モンスタートラック」が過剰に見えているように、アメリカ人には日本が別方面で過剰に映ってるんじゃないかな。でも、そういう過剰さが新しいものを生み出すから、日本人のそうした部分は素晴らしいと思います。

宇宙の歴史に比べれば、人間の年齢差なんて線にも点にもならない。
——ギターウルフはメンバーチェンジを繰り返してきて、かなり歳の離れた若いメンバーを迎えることもありますが、若い感性を取り入れて新陳代謝をしているような感覚はありますか?
セイジ:俺たちの年齢なんて、宇宙の歴史に比べれば線にも点にもならないくらいの差だから。一緒にやってると、そこまでの違いは感じないかなあ。
——年齢ではなく、同じ人間同士として向き合っている。
セイジ:うん。年齢に限らず、新しい感性に出会うと、やっぱり自分も刺激を受けるよね。

——では、若い世代を見ていて、「もっと突き抜けたらいいのに」と感じることはありますか?
セイジ:いや、若い方々こそけっこう突き抜けてるんじゃない? 見ていて俺も「チクショー」って思うことがあるし、気合いが入るよ。YouTuberとかもすごいなと思うし、アートを独自の発想で作る人もたくさんいる気がする。あと、成人式で暴れるお兄ちゃんたちも過剰だよね。
——確かに、成人式を荒らす方々はある意味やりすぎてしまってますよね……。
セイジ:でも俺は、ああいうパワー自体は大事だと思うんだ。もちろん暴力沙汰になったら止めるべきだし、人に迷惑をかけるのはダメだけど、爆発的なエネルギーが何かを生み出すことにつながるから。もっと全世界で「過剰」を盛んにしていったほうがいいと思いますね。
——ありがとうございます。5月5日には、永野さんとギターウルフのツーマンライブ『爆音ベイビーズ!!「ギターウルフVS芸人永野」』が、東京・下北沢シェルターで行われますよね。チケットはすでにSOLD OUTとなっているそうですが、意気込みをひと言お願いします。
セイジ:爆音ロック対爆音芸。おそらく永野くんも過剰にやってくれると思うので、こちらも過剰にやりたいなと思います!

チケットはすでにSOLD OUT
——実は今日、永野さんからセイジさんへの質問を預かってきました。最後にお聞きしていきますね。

1.セイジさんが「過剰さ」を感じる人物は誰ですか?
岡本太郎。そんなに詳しくはないけど、太陽の塔は大好き。あとは織田信長かな。日本の歴史からしても、かなり過激で過剰な人物な気がしますね。ギターウルフで『マグマ信長』という曲を作ったことがあるんだけど、「一番マグマを感じる人物は誰かな」と考えたときに、浮かんだのが織田信長だった。
2.「過剰」だと思うバンドやミュージシャンはいますか?
たくさんいるけど、ザ・クランプス。フロントマンのラックス・インテリアは、エルヴィス・プレスリーとフランケンシュタインを試験管の中に入れてかき混ぜたら生まれてきたようなルックスをしているんです。彼らはピュアなロックンロール、ロカビリー(編注・1950年代後半に流行。カントリー色の強いロックンロール)が大好きなんだけど、自分のキャラの強さゆえ、独特な音楽を生み出していて。そういう人は大好きですね。
3.セイジさんが「過剰」だと思う国はどこですか?
文化的には、アメリカ、ブラジル、スペイン。スペインはこの間ライブで行ってきたばかりだけど、嬉しいときは男も女もハグをしてくる。ライブがよかったら抱きついてくるので、毎回そうなるように頑張ってます(笑)。

4.「過剰」だと思う映画もお聞きしたいです。
サム・ペキンパーの『ガルシアの首』。人の情念がとにかく激しい。見ればわかる!
5.「過剰」だと思う漫画も教えてください!
過剰かはわからないけど、衝撃を受けたのは小学生のときに読んだ『デビルマン』。後から出た文庫版は少し加筆されていて濃さが薄まっているので、絶対に、最初に出たKCコミックス版を見てください!

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もはやセイジさんのお顔の一部と言っても過言ではない、漆黒のキャッツアイサングラス。ライブでは必ず着用されているという代物です。この日もインタビューの直前に、着用してから来られました。これもご自身を爆発させるための儀式なのかとお聞きすると……。
「いやあ、そんな大したもんじゃないよ。まぁ……カッコつけだよね、これも(笑)。もちろん家でもサングラスですよ」
一心不乱にご自身の「カッコいい」を追求しつづけるセイジさん。ひとつひとつの言葉に、我が身を忘れるほど何かをやりきるとは一体どういうことなのかを考えさせられた取材でした。
セイジさん、次はぜひJINSにも遊びにいらっしゃってくださいね。
