
ハマ·オカモト(以下、ハマ ) 僕、今回の特集でまずお話ししたかったのが三葉堂(みつばどう)さんなんです。だから取材のOKが出たって聞いたときは本当に嬉しくて。すぐにオンラインショップでレンズを2本買いました。多分お気づきだと思うんですけど。
松田 いつもご購入ありがとうございます。店に来ていただいたのはこれが初めてですか?
ハマ そうなんですよ、今日まで来れなくてすみません。ただ、オンラインショップやブログはずっと拝見してました。毎回すぐに売り切れるのを見ていたので、取材までに欲しかったレンズが売れたら本当にショックだなと。

松田 サイトまでしっかり見てくださってる! いや、うちはカメラ初心者の方も多くて、ひと組につき3時間くらいお話しすることもしばしばなんですよ。だから僕が気づかないうちに来て帰られていたらどうしようと思って……。
ハマ えっ、3時間!?
松田 フィルムカメラの種類から撮り方まで、しっかり説明させていただくと数時間はかかっちゃうんですよね。

ハマ さながら写真教室ですね。僕もフィルムカメラにどっぷりハマったばかりで、まだカメラ歴1年ぐらいの初心者です。なんとなく興味を持ち始めた時、フィルムカメラ好きの先輩に相談したらわざわざカメラをプレゼントしていただいて。「はじめての人にも親切で良い店があるよ」と教えてもらったのが三葉堂さんでした。
松田 その方、実は常連さんなんです。
ハマ あ、そうだったんですか!? 知らないところで三葉堂さんにお世話になっていたとは。今日はもう、僕がお礼を伝える会ですね(笑)。

フィルムカメラの間口を狭めないために
ハマ 僕、別の理由でも三葉堂さんに感謝してます。
松田 もうひとつ⁉︎
ハマ 僕、今までずっと趣味がなかったんです。それがフィルムカメラに出会ってから毎日楽しくて。楽器(ベース)は自分から興味を持ったというより、軽音部にいた友達との会話についていくためにはじめたんです。自発的に何かを好きになるのはフィルムカメラが初めて。だからそのきっかけをつくってくださって、本当にありがたいなと。
松田 そうだったんですか! うちも友人3人で、趣味が高じてはじめた店なんですよ。ご存知の通り、フィルムカメラは使い手が少なくなって生産数もどんどん減ってきてるじゃないですか。新品はほとんど生産されていないし、出回っているのはほとんど中古品だし……。だからハマさんのように、新しく興味を持っていただける方の存在はとってもありがたいです。
ハマ 実際にお話してより感じましたけど、三葉堂さんってやっぱりお店の敷居が低いですよね。初心者でもあたたかく受け入れてくださるというか。
松田 そこはまさに意識していたことなので嬉しいです。フィルムカメラって、僕たちが始めた10年前はまだ「年を重ねた男の趣味」だったんですよね。売っているお店の店主さんもお客さんも、無口でぶっきらぼうなおじさんが多かった。だから若い僕たちがお店に行くと、怪訝そうな顔で見られることもありました。「お前にはまだ早えよ」って(笑)。

ハマ ああ、それは楽器屋さんでもありました。最初は相手にされないんだけど、ちょっとマニアックな単語を使うと急に態度を変えるとか(笑)。
松田 それが僕は本当にショックで。ただでさえフィルムカメラが少なくなってきている時代に、間口を狭めてもしょうがないんじゃないかと若造ながら思いました。洋服だって、お店に行って店員さんに今のトレンドを聞いたり、おすすめの組み合わせを教えてもらったりしながら選ぶじゃないですか。それと同じようにフィルムカメラを選べるお店があっても良いんじゃないかと。
プロアマ関係なく、お客さんのお話をちゃんと聞く。それは3人でお店を立ち上げた時に、フィルムカメラ店に対する従来の印象とは変えたいと思って取り組んだことでした。
ハマ それもフィルムカメラという文化を続けていくことに繋がりますもんね。ちなみに、お三方はみなさん同年代なんですか?
松田 はい。なんなら僕、ハマさんと同い年です。91年生まれですよね?
ハマ そうです! 僕は3月で早生まれなんですが、何月生まれですか?
松田 4月です。ほぼ同い年ですね(笑)。
ハマ じゃあ、もう見てきたものが一緒なんですね。嬉しいなぁ。

「10代の思い出、ちゃんと残しておいた方がいいよ」
ハマ 最近同年代の友達とよく話していることがあって。90年代前半に生まれた僕たちの世代って、高校のとき(2006年〜2008年)の写真が全部なくないですか?
松田 ないですねえ〜! ちょうど最近、僕も同じようなことを考えてました。家を整理していたら、大学1年生のときに使ってたガラケーが出てきて。「うわ、懐かし!」と思ってウキウキしながら裏のSDカードを確認したら、データが全部吹っ飛んでましたね。
ハマ めちゃくちゃわかります。今でこそデータの転送は当たり前だし、クラウドにログインすれば新しいスマホにも引き継がれますけど、その当時はガラケーで機種変更するたびにアドレス帳も写真も全部消えてましたもんね。

松田 本当、信じられないですよ。いま思えば、あのとき機種変更するたびに思い出ごと捨ててたんだなって……。
ハマ 人生で1番バカをしてた時代の写真が1枚も残ってないって本当に切ないですよね。データごと捨てたから復元する術もないし。三葉堂さんに来られるお客さんは若い方も多いということでしたけど、「スマホでもなんでもいいから、10代の思い出はちゃんと残しておいた方がいいよ」って言いたい(笑)。やっぱり見返したくなりますもん。
松田 ポジショントークになりますけど、その点でも僕はフィルムカメラをおすすめしたいです(笑)。撮ったものを見ようとすると、必ず写真屋さんで現像しないといけない。後日出来上がった写真を受け取ると、写真をもう一回見返すような感覚があるんです。
ハマ 当たり前ですけど、スマホで撮るのとは感覚が違いますよね。現像っていう行為によって記憶がひとつ外に出る感じがするんです。その体験が、僕らよりもっと若い世代には逆に新しく感じられるのかもしれない。
松田 それは接客していて思います。前に若いお客さんで「『シャるんです』しか使ったことなくて……」という方がいて。
ハマ ははは(笑)! 写(うつ)ルンですを「写(しゃ)ルンです」だと思ったんだ。
松田 最初「ボケてくれているのかな?」って思いました。「掴みはバッチリだけど、カメラ屋の店員をそんなに笑わせなくていいのに〜!」って(笑)。おそらく「写メ」の方に馴染みがあるんでしょうね。彼らにとっては「写ルンです」さえ新しく感じられる。

手触りに愛着がないと、使い続けられない。
ハマ 三葉堂さんは販売のほかに修理も受け付けてますよね。最近だとどんな相談が多いんですか?
松田 本当に色々です。「田んぼに落として泥だらけになっちゃったんですけど、どうしたらいいですか!?」という厳しいものもあれば(笑)、「おじいちゃんが昔使っていたカメラが出てきたんですけど、まだ使えますか?」というハートウォーミングなご相談も。特にコロナ禍以降は家のお掃除をする方が増えたのか、押し入れから出てきた「秘蔵品」のご相談が多いですね。

ハマ ということは、たまにとんでもないものも出てくる?
松田 はい。この前は女子高校生が来られて、「家からフィルムカメラが出てきたんですけど、どうやって使うんですか?」と。見てみたらLEICA(ライカ)っていう、カメラ好きなら誰もが羨む高級カメラ(笑)。
ハマ すごいな(笑)。でも売りに出すためじゃなくて、若い方が「修理してまた使いたい」という思いで来られているのが良いですよね。ちゃんと後世に引き継がれている。
その文脈で思い出したんですけど、フィルムカメラって楽器と似てるんですよね。僕は1番古くて1959年製の中古ベースを持っているんですけど、色がはげて木材が見えるほどの傷が入っていて。その跡を見るたびに、「今までに何人が使ってきたんだ?」って思うんですよ。見た目は古くてもそういう歴史のあるモノに価値を感じてきたし、演奏も含めて時間を費やしてきた。

松田 この時代にわざわざフィルムカメラを選ぶって、やっぱりそういうことなんだと思います。手触りに愛着がないと、使い続けられない。だって手軽に何枚も撮れて、丈夫なスマホのカメラ以上に便利なものはないですから(笑)。機能性ではなく、誰かが使った痕跡が残っているとか、肌に馴染むボディとか、シャッター音の響きとか、そういう言葉にならない感覚で最後は選ばれていくんですよね。だから僕が接客した時も、最後は必ず「どのシャッター音が一番好きでしたか?」って聞くようにしてます。
ハマ ああ、僕も琴線に触れたのはシャッター音でした。ひとつひとつ音が違うんですよね。同じベースでもメーカーや材質によって響きが変わってくるんですが、フィルムカメラもこんなに個体差があるんだ、って思いましたもん。僕もおすすめの楽器を聞かれたら、「自分にしっくりくるものを選んでみては?」って言うようにしてます。結局、使ってみないと違いもわかるようにならないから。
それを知れるというのも、実店舗がある意味——と言いつつ僕はオンラインでレンズを買ったんですけど(笑)。
松田 あははは(笑)。でも「実店舗」へのこだわりというのはまさに意識していましたね。実際にカメラを見て触ってほしいから。だからコロナ禍まで頑なにオンラインショップを開かなかったんです。ただ状況的にそうも言ってられなくなって、渋々。今でもオンラインにはいくつかの商品しか出していないんです。お目当てのレンズがオンラインで見つかるのは、ラッキーです(笑)。
ハマ よかった(笑)。

フィルムカメラが持つ、エバーグリーンな魅力
ハマ フィルムカメラという存在自体を知らない世代が好きになるってことは、やっぱり時を超えても変わらないエバーグリーンな魅力があるということだと思うんです。
それが何十年、何百年も前につくられているところにモノとしての「強さ」を感じるというか。画質の高さとかシャッタースピードの速さとか、そういう最新の科学技術をつめこんだものでは満たされない何かがあるんでしょうね。それが何かは僕もまだわかっていないんですけど。
松田 7~8年前程から、最新のカメラに古いレンズを取り付ける若い方が増えているんです。どうやら彼らは「ちゃんと綺麗に撮れない」ことをおもしろがってくれているみたいですね。
昔のレンズで夕日や太陽を撮ると、写真全体が白っぽくなる「フレア」や写真の一部に虹状の輪などが映り込む「ゴースト」など、本来は映らない光が映り込みますが、今のレンズだと技術が発達して入りにくい。それが楽しいみたいで、今もお問い合わせが多いです。

松田さんよりご提供いただいた「ゴースト」の例。画面いっぱいに虹の輪っかが広がっています。
ハマ へぇ〜。僕でもまだそのフェーズに辿りついてないです(笑)。
やっぱりコロナ禍で渋々オンラインショップを始めたお話もしかり、三葉堂さんって、流行や時代に対する適応力が高いなと今日改めて思いました。それってフィルムカメラはもちろん、お客さんへの愛情がないとやっていけないことですよね。方法は違えど、業界をずっと支えてきた先輩方と同じ熱量で向き合うことは僕たちにも絶対できるはずだと思うんです。むしろそういう世代がいないと文化が続かない。世代の近い方々がそういうスタンスでやっているのが本当に嬉しいです。
せっかくなので、もうちょっとお店を見て帰ってもいいですか?
松田 もちろんです。ご案内させてください!

***
取材前、胸元のポケットにサングラスを入れていた松田さん。
「これ、JINSさんで買いました。車を運転する時に使うので度入りのもの。お店の方に相談したんです。すると『迷われているようなら度なしで一回使ってもらって、運転中もし見にくければ、保証期間内なら度付きに変更できますよ』と言われて。思わず『え、いいんすか!?』って聞いちゃいました(笑)。僕が行った武蔵小杉(ららテラス武蔵小杉店・神奈川県)の店員さん、とっても良い方でしたね」
フィルムカメラ同様、ひと昔前までは敷居の高い専門店で販売されることが多かったメガネ。JINSも同じように、お店に入る敷居を下げたいと思い入りやすい店舗設計を工夫しています。また方向性は違っても、お客様がメガネを手に持った時の感覚や、つるを開閉した時の心地など「手触り」も大切にしてきたことも共通していて嬉しくなりました。
これからも、お店でのメガネ選びが楽しくなる取り組みを続けてまいります!
