【ホテルプロデューサー/龍崎翔子さん】

草野 龍崎さんがプロデュースされた大阪・弁天町のホテル「HOTEL SHE,OSAKA」に泊まったことがあります。その体験がとてもよかったので、どういったコンセプトでホテル作りをされているのか気になっていました。

宮武 僕もブランド作りのプロセスや世界観の作り方は気になっていました。実際にお話したなかで特におもしろかったのは「比較」の話。

その地域に注目するだけでなく、その周りの地域と比較することによって土地のおもしろさを引き出しているとおっしゃっていました。その土地のスタッフに聞いても「際立った特徴はない」と言われたそうですが、そのときに地域の人のその言葉をも疑うというか。言葉だけを信じるのではなくて、比較から出てきた他の要素を組み合わせることによって、土地の優位性やその土地ならではのおもしろがり方が出てきているんです。これを聞いて、龍崎さんの手掛けたホテルの在り方に納得しました。

草野 たしかに、比較して出てきた特徴からスポットライトを当てる「主人公」を決めるというお話はおもしろかったですね。コンセプト作りの答えを知ることができた気がしました。

私が印象的だった部分はここです。

ホテルって、建物、不動産じゃないですか。なので完成した時点からあまり変わらないもののように感じていました。でも、龍崎さんは変化できるものと捉えていて。そのことが私にとってはすごく新しい発見に思えたんです。たしかに、龍崎さんが手掛けるものって、彼女が年を重ねたり変化したりする度に変わっている感じがするんですよね。変化を作品に反映できていることが本当に素晴らしいと思います。

【アーティスト/草野絵美さん】

草野 姉と、公の場で初めて対談しました。すごくありがたいなという気持ちと、なんだか不思議な感覚がありましたね(笑)。

対談していく中で、姉から受けてきた影響を感じました。特に、いろいろなことに好奇心があって、多くのジャンルが好きだということ。姉はアートも好きだし、ディレクションも好きだし、音楽活動もしているし……。どんなことにもあまり偏見がなく、実際に取り組んでみて続けているっていうところはすごいなと思いますね。

共感したのは、「正しい情報を集めるために、検索よりも詳しい人に話を聞きに行く」というスタンスです。

姉はリサーチもものすごくするんですけど、その上でさらに、詳しい人に直接会いに行くんです。実名や会社名が出ているとその人のポジションもありますから、やっぱり発信者として伝えたいことを優先して伝えるし、パブリックにしたくないことは話さないですよね。リサーチだけでは、リアルな内情はなかなか知れません。となると姉のように、直接話に行ったり、人との繋がりから情報を得ているというのはすごく強いなと思います。

宮武 僕も記事を読みました! 姉妹ふたりとも、実際に行動して発信しているところが似ていますよね。ある程度の自由度が与えられて育てられたから、自分が何をやりたいのか、何をやるべきか、見つける力がついたんだろうなと感じられて。そうやって自ら道を切り拓いていくとき、「やさしく疑う」力も鍛えられたんじゃないかなと思いました。

【グラフィックデザイナー/Ray Masaki(真崎嶺)さん】

草野 今回のテーマが決まったとき、一番に思いついたのが真崎さんでした。過去にポッドキャストでも真崎さんの本(『サラリーマンはなぜサーフボードを抱えるのか』)を紹介したことがあって。真崎さんが「ディスカッションするためにこの本を出版した」とおっしゃっていたので、議論することや素直に疑うことについてお話を聞いてみたかったんです。

「わからない」って言っていいというのは、本当にその通りだなと勇気づけられました。何か言わなきゃというプレッシャーはあったとしても、必ずしも意見を表明しなくちゃいけないという訳でもない。とても印象に残っています。

それから、インタビュー前の私は本の話をたくさん聞こうとしていたんですけど、真崎さんが「最近は本のことをあまり考えていないんです」とおっしゃって。考えの変化に触れて新しい気づきがありました。自分もポッドキャストで話したことについて、数年経ったら意見が変わっているかもしれない。興味や意見は変わるものだと、情報と関わるときには覚えておきたいですね。

宮武 記事を読んで、ノイジーマイノリティの話に強く共感しました。真崎さんが「アメリカのSNSでも、個人の発言をきっかけに炎上が起きるなんてことはしょっちゅうです。」と、過激なマイノリティの話に触れていて。僕は大学生のときにアメリカに住んでいたんですが、そういった炎上の問題は当時そこまで多くなかった気がします。それがこの数年で、急激に問題が大きくなった。過激な少数の方が変に影響力を持って、あたかも少数派の意見がメジャーであるかのように見えてしまうんです。僕自身もX(旧Twitter)でそのような空気を感じますし、まさにアメリカでもこの問題が議論され始めていて。ちょうど現代の課題だと思っていたところを、真崎さんがズバリと言い表してくださいましたね。

【編集長任期を終えて】

草野 まずは4ヶ月間、ありがとうございました! 「やさしく疑う」というひとつのテーマのもと、いろいろな方にお話を聞くことができる編集長はとてもたのしい経験でした。最初は「疑う」という言葉にネガティブなイメージがあるのかなと思いつつ、相手のことを汲み取って「やさしく」疑うことで、新しい発見が生まれた気がしています。

今回の特集に登場してくださった、原宿さんの記事ラランド・ニシダさんの記事もとても好きで。原宿さんが編集長を務める『オモコロ』のようなインターネットメディアはずっと見てきたタイプでしたし、ニシダさんの「おもしろがられていることを分かってさらにその上をいく」視点はエンターテイナーとして尊敬しています。

普段、オフトピックでは取り上げない方にあえてオファーした記事が多く、周りからの反響もありました。私自身、捉え方の幅が広がり、すごく勉強になった期間でした。素敵な機会をありがとうございました。

宮武 振り返ると、「やさしく疑う」というテーマにしてよかったと思います。今の不安定な世界の情勢を見ると、2つに分かれたどちらかの立場に入らないといけないプレッシャーがあると感じていて。ほとんどの人ははっきりとした意見がなかったり、知らない部分もあったりするはずですが、過激な人たちが変に煽って片方に寄せてしまうんです。結局、善と悪しかない状況になってしまいがち。

実際の状況はもっとニュアンスがあって複雑で、コンテクスト(文脈)を知らないといけないものだと思うんです。白黒がはっきりと分かれるわけじゃなくて、ある部分は良くて、ある部分は悪い。それを知るためには、相手の状況を理解したり共感したりしながら、まずはやさしく見ないといけないんじゃないでしょうか。相手のことを理解して自分の側も疑えるようになると、この意見に関してはこっちだけどその意見に関しては違う、という行き来ができると思うんです。

今の世の中で「やさしく疑う」ことがより重要になってほしいですね。今回、その第一歩をこのテーマで実現できていればいいなと思います。ありがとうございました!

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「JINS PARK」5代目編集長を務めてくださったOff Topicのお二人。常日頃、「やさしく疑う」を実践されているお二人の鋭い視点に、ドキリとさせられることが多くありました。

そんなお二人が教えてくれたのは、さまざまな立場に想いを馳せ、他人の意見はもちろん、自分の意見をも見つめなおすことの大切さ。記事に散りばめられた情報と向き合うヒントは、情報を受け取るときにも発信するときにも覚えておきたいものばかりでした。

メガネをかけたり、外したり、いつもとは違う角度で見てみたり。
わたしたちJINSも、ものごとを柔軟に捉える姿勢を忘れずにいたいと思います。

草野さん、宮武さん、ほんとうにありがとうございました!