学生時代からプロデューサー気質だったお姉ちゃん

草野美木さん(以下、美木) 絵美ちゃん、久しぶり……でもないか(笑)。連絡はよく取ってるし、この前はお母さんと3人で(ポルトガルの)リスボンに一緒に行ったね。旅行中、二人でデジタル系のビジネスをやるとしたら何がいいかなって、ブレストというか妄想を繰り広げて。

草野絵美さん(以下、絵美) 何か一緒にプロジェクトをやりたいって話は、ずっと前からしているよね。わたしは妄想するのが大好きだしお節介だから、「これどうかな」とか「あれやってみなよ」とか結構口に出しちゃう。

美木 プロデューサー気質があるよね。わたしが高校2年生のときに、いろんな企業を訪問してレポートするウェブサイト「ミキレポ」を始めたのも、絵美ちゃんがきっかけ。当時絵美ちゃんがクックパッドさんのお仕事をしていて、オフィスがすごいというのを教えてくれたんだよね。

わたしはユーザーとして利用していたし、ウェブ系の企業に興味があったから、オフィスに行ってみたい!と思って。そしたら絵美ちゃんが「取材して、ブログにしてみたら?」ってアイデアをくれた。

絵美 昔から美木ちゃんはウェブサービスとかアプリに興味があるのを知っていたし、企業側としてもコンテンツを出すことができるから、Win-Winじゃないかと思ったの。

美木 Wantedly、チームラボ、メルカリ、サイバーエージェントとか……。更新頻度はそこまで高くなかったけど、3年くらいレポートしつづけていたな。

絵美 「やってみたら?」ってアイデアを口に出したのはわたしだけど、実際にやり始めて、それを継続していけたのはすごいと思う。

「親子でもあり別の人」お母さんが尊重してくれた二人の個性

絵美 それでいうと、お母さんもけっこうすごいよね。専業主婦歴が長かったけれど、いまや「草野かおる」として本を何冊も出してる。

美木 自治会で防災関連のことに取り組んでいる姿を見て、絵美ちゃんが「ブログでも書いてみたら?」って言ったんだよね。そしたらブログで発信し始めて、気がついたら作家に。

絵美 わたしたちが常に新しいことに挑戦してこれたのは、お母さんのおかげかもしれないね。お母さんはなんでも背中を押してくれる、本当にあたたかい人。

「人は人で、あなたはあなただから、やりたいことやったほうがいい」って声をかけてくれるし、子どものこともある意味「別の人」として捉えているから、昔から気楽に好きなことに取り組むことができた気がするな。

美木 「失敗したときには帰ってきていいよ」っていう精神的な安心感もくれてるよね。

絵美 だから全てにおいて人とちがう選択ができたのかも。天邪鬼なわけじゃないんだけど(笑)。わたしとしては、人とちがう道を選んだほうが生きやすい感覚があった。

美木 絵美ちゃんは本当に感覚が優れていて、まさに「アーティスト」だよね。興味があることにまっすぐ向き合って、つづけてる。生成AIで制作してるアート活動のことも、主宰・歌唱担当として取り組んでいる「Sattelite Young(サテライトヤング)」としての音楽活動も。アーティスト活動として自分の軸がしっかりあって、人とちがうことのよさを強く感じるな。常識には捉われてない。

絵美「トレンドを追いかけるのはもうやめた」

絵美 アメリカに留学したとき、常識がひっくり返った感覚があったの。留学前はアメリカって自由で多様性に溢れたイメージしかなかったんだけど、わたしが行ったところは田舎だったから白人しかいなくて。旅行やニュースでわたしが認識していた“アメリカ”は、ほとんどカリフォルニアとニューヨークだけだったんだよね。アメリカにはもっといろんな側面があった。

美木 イメージする常識だけが、現実とは限らないよね。わたしは高校生のときに絵美ちゃんが「起業する」って聞いて、就職する以外の選択肢があることに衝撃を受けたな。ちょうどその頃、映画『ソーシャル・ネットワーク』も公開されていたから、ウェブサービスに一層興味が湧いたのを覚えてる。

絵美 当時はシリコンバレーがもっとキラキラしていたよね。いまやちょっとノスタルジックに感じてしまうくらい。

美木 もともと、あの頃のインターネットのサブカルっぽい感じが好きだったんだよね。インターネットを通じて、自分のニッチな興味にも共感してくれる人に出会えるかもと夢中になった。現実世界ではあまり意気投合できる友達が少なかったから(笑)。

絵美 気持ちはすごくわかる(笑)。わたしも友達と趣味が合わないなと感じることがあって、自分の好きなことに突き進める場所がインターネットだった。

いまはソーシャルメディアがおおきくなりすぎて、あの頃のほっこり感はないかもね。「マス」と「サブカル」の境目もなくなって、もはやほとんどのことが「サブカル」のように感じる。トレンドも次々に生まれるから、少し気を抜くだけで浦島太郎になっちゃう。だから最近はトレンドを追いかけるのをやめちゃった。

美木 Youtubeとかプラットフォームも、ものすごく巨大になったよね。ただ、グローバルで活躍しやすくなったのはいいことだし、ポジティブな側面はたくさんあると思う。

絵美 そうだね。デジタルのアート作品が世界中で売れるようになったのも、うれしいこと。トラディショナルなアートの世界ではニューヨークとか主要な都市に住まないと成功しづらかったけど、どこに住んでいても世界中のギャラリーに作品を置けちゃう。

「現実を抜け出して別世界に行くためのインターネット」ではなく「つながり“すぎる”ためのインターネット」がはじまった、まさに黎明期だよね。ワクワクしちゃう。

最新の正しい情報を得るために、「能動的に検索する」より「詳しい人と雑談」

美木 自分の情報にオーナーシップを持とうとする流れもあるから、おもしろいよね。一方で、情報が溢れているから、真偽を見極めるのは大変。ジャンルは違えど「最新」の情報をわたしたちは扱っているわけだけど、絵美ちゃんはどうやって正しい情報を集めているの?

絵美 直接「その道のプロ」と雑談する時間を意図的に作って、視座をもらってる。知りたい情報を精査するのにいちばん時間をかけているだろうと思われる詳しい人の話を聞くのが、いちばん早いし正確だと思うの。単純に記事に書いてある数字だけでなく、そこから新たな視点も得られるんだよね。たとえば、生成AIでもプロンプトに関してはわたしが強いけど、ツールに関しては友人のほうが優れてるので、彼らと定例ミーティングを設けて互いに情報を持ち寄ってる。あとは、ポッドキャストもよく聞くよ。やっぱり濃い情報が集まっているし、ニュースになる前の界隈の話も聞けるからいいよね。

美木 発信する立場でポッドキャストをやっていると、ニュアンスが伝わる点もいいなと思う。長い時間をかけてリスナーさんとの関係性が生まれるから。

絵美 ラジオもそうだよね。深夜のラジオをやってる芸人さんが、ネットニュースに取り上げられるのが嫌だって言うじゃない。あれは1〜2時間ラジオで話して生まれたニュアンスが、落とされちゃうからな気がする。

美木 全部聴いているリスナーは「こういう文脈で発言しているんだな」と流れを理解できても、「切り取られた文字」だけだと伝わらないよね。

絵美 SNSでも同じことが言えると思う。わたしがX(旧Twitter)を始めてから10年以上経って、いまやXは「告知bot」になっちゃった。昔は「この物事に物申す」って感じで、間違ってると思ったことには声を上げて、世の中を変えられる実感もあった。けど、いま「これって違うよね」と少しでも言ったら、切り取られて、揚げ足を取られて。

美木 対面だと「議論」になることも、オンラインだと短絡的に捉えられがちだよね。

絵美 そうだね。発言を切り取るインターネット記事とかも、どうすれば少なくなるんだろう。ビューを稼げばお金が儲かる仕組み自体が変わって、「クリックさせる戦争」が終わるといいな。

フェイクニュースを見極めるために必要な姿勢

美木 メディアはもちろん、ユーザー側の意識も大事だよね。結局メディアは企業であって、ビジネスしてる組織だということをきちんと理解するべきだと思う。

絵美 たしかに、一つの発信源だけを信じるというのは危険なこと。フェイクニュースもあるし。でも、疑いすぎるのも怖いな……。

「戦争が起きているらしいよ」というニュースが流れてきても、「嘘かもしれないから何もしない」という事態になっちゃう。いままではインターネットで検索すれば正しい情報が入手できたけど、その情報が真実か嘘か、もうわからないよね。

美木 動画とか画像も、すぐにフェイクがつくれちゃうからね。

絵美 結局、クリティカルシンキングをするしかないと思うの。なんでもかんでも信じるだけ、疑うだけじゃだめ。あらゆる物事に対して、多角的に前提から考えてみる。

たとえば、いい人に見えていてもじつは悪い面があるかもしれないし、悪人に見えていても何かの狙いがあって、その人の正義があるのかもしれない、とか。アンパンマンみたいに「勧善懲悪」で捉えられないことがたくさんあることを、息子にも伝えていきたい(笑)。

美木 わかりやすい(笑)。でも、本当にそうだね。

絵美 現実世界の物事には、多面的な要素があって、それらが複雑に絡み合ってる。いろんな立場を想像して、寄り添う姿勢を大事にしていきたいな。

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小学生の頃、実家に1台あったパソコンを共有してインターネットの世界にのめり込んだ様子を懐かしむように話す様子には、家族だからこそのあたたかさを感じました。

スタートアップや企業の情報は美木さん、NFTやAI生成アートについては絵美さんと、それぞれの得意分野をお互いに頼るお二人。

「喧嘩をすることがない」という関係性の背景には、尊重し合う姿勢があるのではないでしょうか。

JINSも、物事を多面的にとらえて尊重し、あらゆるお客様のことを考えていきたいと改めて考える取材となりました。