
人生がうまくいっている“夏休み”な人に、MOROHAは響かない
アフロ 結婚おめでとう! 新婚生活はどう?
峯岸 すごくハッピーですよ。結婚前はあれだけ目を鋭く光らせてバラエティで成功することを夢見ていた私が、パートナーを得たことでもうすっかり安心しきっちゃって。逆に言えば現状に満足してしまっている不安もありますけどね。
アフロ へぇー! 「不安」なんだ?
峯岸 MOROHAのライブを観ると毎回「自分はステージを軽視していた」と思わされるんです。そう考えざるを得ないくらい、衝撃を受けるんですよ。仕事や飲み会の帰りに音源を聴いて、ほんとうに泣きながら帰宅する日もあったくらい。でも最近そういうのがなくなっちゃって。「これでいいのか?」という焦りがありますね。
アフロ 人の心にも季節があるからね。雑な言い方になるけど、人生がずっと夏休みならMOROHAを聴いても、響かないと思うんだよ。俺らの音楽は心地良く散歩する時に聴くっていうより、挑戦や葛藤と共に鳴っているはずで。
峯岸 ああ、確かに。最近の私は昔よりもハングリー精神がなくて、そういうときってMOROHAを聴けないんですよね。今の自分は聴く資格がないと思ってしまう。MOROHAを聴きたくなる自分もまた出てきてほしいなとは思うんです……というか、まずご挨拶させてくださいよ!(笑) やっとお会いできましたね。おひさしぶりです。

アフロ そうだった(笑)。本当にひさしぶりだね。今日はよろしくお願いします。
西麻布で交わされた、魂の会話
アフロ 俺らの出会いはコロナ前、西麻布の飲み会だったよね。友達に呼ばれて行ったら、途中で峯岸さんが現れて。あの日の俺、ギスギスしてなかった?
峯岸 ああ、してました! 嫌な感じでは全くなかったんですけど、ちょっとだけ近寄りがたい雰囲気でしたね。
アフロ 申し訳ないねえ。あの日は西麻布に緊張してたの。更に「芸能人が来た!」ってドキドキと「田舎者だってバレちゃいけない、アーティストとしてみられたい」という見栄があったのよ。
峯岸 あのときのアフロさん、完全にアーティストのたたずまいでしたよ! 「ちゃんと言葉を選んでものを言わないと嫌な気持ちにさせるかも」っていう緊張感があった。だから今、控室に入ってきた時の第一声が「やっほー!」でびっくりしました。「この数年間で何があったんだ!」って(笑)。

アフロ あははは。何を気負ってたんだろう。
峯岸 そういえば、あの日はお酒が進んだときに、私とその場にいた友達が無礼にも1曲お願いしたんですよね。たしか「拝啓、MCアフロ様」という曲。友達と一緒に、泣きながら聴いてました。
アフロ 事前に「MOROHAが好き」とは言ってくれてたけど、それって社交辞令なんじゃないか、という勘繰りもあったの。だけど歌ってるときに、峯岸さんがポロポロ泣いてるのを見て「ほんとうにちゃんと聴いてくれているし、好いてくれてるんだ」と思った。そうしたら曲を歌い終わった後に、目を見開いて「素晴らしかったです。お返しに秋元(康)さんが私のために作った曲を歌います!」って言ってさ。歌ったのが「私は私」。まさに今回のテーマとピッタリだよね。
峯岸 恥ずかしい! でも、それぐらい心を熱くさせられたし、アフロさんがぶつけてきた想いに負けたくなかったんです。「私だってこういう想いでやってるよ!」って、こっちのプライドを見せたくなった。
アフロ 言葉はあまり交わさなかったけど、音楽で魂の会話をしたよね。
峯岸 あの日の私たち、西麻布で一番実りのある時間を過ごしていた自信があります。

「誰かに勝つための闘い」より、「自分を出しきる闘い」のほうが、険しいものであってほしい。
峯岸 アフロさんも知名度が上がって、生活も安定して豊かになったことで以前のように言葉が浮かんでこないことはあるんですか?
アフロ ないねぇ。欲深いんだよね、俺は。テーマに反しちゃうけど、俺はめちゃめちゃ他人と比べるから。
峯岸 私もそうですよ。女性タレントの活躍をテレビで観ると、やっぱり複雑な気持ちになる。別に比べないことがいいってわけでもないですもんね。
アフロ でも、誰かと比べることはスイッチにしても、ガソリンにはしちゃいけないと思う。
峯岸 どういうことですか?

アフロ 走り出すきっかけのエネルギーにはしていいけど、それによって遠くまで走ることはできない。昔は他人と比べたときの嫉妬や悔しさをガソリンにしていたけど、それだけではやっぱり頑張れないんだよ。
俺の同業者を大きなくくりで言うと「ラッパー」になる。でも、生きていく上で俺に起こったことを歌えるのは、俺しかいないんだよね。そういう意味では、MOROHA・アフロの同業者は1人もいないと思う。自分の身に起こったことを余すことなく歌いきる。“自己ベスト”をつくす以上のことはできないんだよ。そう思っていれば、人と比べる必要がなくなるんじゃないかな。
峯岸 すごい、誰よりもこのテーマに沿ったアンサーが出た! 私はバラエティに強いアイドル、「バラドル」として番組に呼んでいただくことも多かったんですけど、周りのリアクションやふるまいを見て、先輩たちの真似をすることで楽になっていた部分があるんです。ある意味、ピエロになっていたというか……。もちろん、おどけて笑いをとることも努力のひとつだと思っていたんですけど、今の話を聞いていると、自分の中のものを全て出しきることが大事だったんだなと思わされますね。
アフロ 俺も、「あの人みたいになりたい」と思って頑張ることで実は楽をしていたんじゃないかと思う。一番大変なことは、自分に起こったことを1文字残らず全部外に出すことなんだから。「あいつ」に勝つことよりも、自分が空っぽになることを目指す方がハードルが高くて、何よりも険しい闘いであってほしいよね。これはロマンであり、願いだと思う。
峯岸 なるほど〜。いま、その考えを知って一段だけ階段を登れた気がしました。今までは「自分がどうとかは置いといて、周りを出し抜かなきゃ」という思いが強くあったんですけど、やっと自分と向き合うステージに来れたのかもしれない。

「峯岸みなみ」という生きかた
アフロ 今は結婚して平和な心を手に入れたことで、苦しかった過去も肯定できた?
峯岸 そうですね。
アフロ 素晴らしいよ! 前々から「俺は男版・峯岸みなみでありたい」と言ってるのはそういうところにあるんだよね。誰しも人生に不幸は起きてほしくないし、何事もうまくいってほしいと思うじゃん。峯岸さんはとことんうまくいかなかった数年間があったけれど、あれを10年スパンで見たら、きっと良くなるために悪くなっていた時間だと思うんだよね。今や表参道のでっかいポスターになったり、結婚して色んな方に祝福されたりしてさ……しまいには俺の彼女まで「ああいうウエディングフォトを撮りたい!」って言う始末だよ。

峯岸 えー! 嬉しい。気になってたんですよ、「なんで『男版・峯岸みなみ』って言ってくれるんだろう?」って。
アフロ 意図しているかどうかは別として、峯岸さんは自分の生き様が売りになっている人だと思う。俺もどん底からフリを利かせて幸せになりたいから、その言葉を掲げてる。
峯岸 私の人生って、今までは人から憧れられたり、尊敬されたりするようなものではなかったんです。だからこそ、自分が憧れていた人からその言葉をいただけてすごく嬉しい。
アフロ ちなみに今の目標ってある?
峯岸 夫に負けたくない。「夫に負けることが悔しい」と思える自分もちょっと好きなんですよ。一歩引いて支える妻もすごくいいと思うんですけど。「あの人と結婚した人だよね」と言われるよりも先に、ちゃんと「峯岸みなみ」として寄りかからずに立っていたいですね。

峯岸 いやぁ、今日はこれからの道しるべに見当がついたし、すごくいい対談になりました。アフロさんは孤高の人のイメージだったけど、良い意味でその印象も変わりましたよ。
アフロ 俺、気を遣わせるような目付き、顔付きで自分を大きく見せようとしてたんだ。器以上のストイックさを演出しようとしてた。でもそれはいらなくなったのよ。本当の自信があるから。MOROHAはアコギとラップという変則的な編成だし、歌に関してもヘイトが飛んできやすい。ただ、どんなに俺を馬鹿にして笑っている人でも、ライブに来れば一瞬でも真顔にさせることができると思う。逆にその瞬間さえあれば、それ以外はどうであっても大丈夫。その自信が今の俺にはあるから、駄目な部分もダサいところも好きになってもらいたいし、もっと茶化されてもいいと思える。
峯岸 前はそんなこと絶対に言わなかったのに! 今日の「やっほー!」は、自分を更新してきた証だったんですね。
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実は視力が2.0あるというアフロさん。
生涯一度も使ったことがないメガネへの印象を聞いてみると、アフロさんらしい素敵な答えがかえってきました。
「見える・見えないで人生が変わりますよね。メガネがなかったら生まれなかった芸術ってたくさんあると思います。たとえば『あの茜色の空が』という歌詞があったとして、その茜色がちゃんと見えていたのかどうかによって歌の質も変わる。芸術を支えてくれる、表現を支えてくれるのがメガネだと俺は思います」
何かを打ち負かすのではなく、JINSが今できることを精一杯とり組む。
その先に道ができていくのだということを、あらためて実感した対談でした。これからもJINSの“ベスト”を出しきっていきたいと思います。
