こんにちは、MOTION GALLERYの代表の大高健志です。クラウドファンディングは、まだ世の中に出ていないアイデアをみんなと共有して、それを実現させるための支援を集める仕組みです。アイデアや、挑戦したいことが「壁」だとしたら、仲間を集めてその「壁」を「扉」にすることができるのです。また、実現したプロジェクトが社会や世論に風穴をあけ、あらたな「壁」を「扉」にすることも多くあります。そんなプロジェクトの数々をどうぞご覧ください。

1つ目:「未来へつなごう!!多様な映画文化を育んできた全国のミニシアターをみんなで応援 ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」

コロナ禍が始まった頃、感染拡大を防ぐために、不要不急の外出を控える必要がありました。そんな状況と世論の中で、見過ごされがちだったのが映画館やミニシアターの存在です。映画館の営業は難しくなり、なかでも小規模のミニシアターは大きな打撃を受けました。

このプロジェクトは、2020年に最初の緊急事態宣言が発令された時から、国からのまとまった給付金が至急されるまでの数ヶ月間、ミニシアターが休業に追い込まれないための資金をまかなおうというもの。プロジェクトに集まったお金を、全国のミニシアターに分配しました。

3億円を超える支援の結果、この数ヶ月間に廃業したミニシアターはひとつもありませんでした。世論ややむをえない状況という「壁」を覆し、「扉」にしたプロジェクトの代表格と言えるでしょう。また、2万人を超える支援者のもとに送られた、コロナ禍が収まった後に希望のミニシアターに足を運べるリターンは、あらたなミニシアターと支援者の出会いを生み出しました。

2つ目:「濱口竜介 3年ぶりの長編劇映画『ハッピーアワー』への制作支援をお願いします!」

みなさんは映画制作というと、どんなイメージを持つでしょうか? 有名な役者をキャスティングして、台本を覚えて……。映画『ハッピーアワー』(クラウドファンディング当時のタイトル『BRIDES』)は、そんな映画制作の常識という「壁」を打ち破り、「扉」したプロジェクトです。

のちにアカデミー賞作品賞等を受賞したことで知られることになる濱口竜介監督は、ワークショップに演技経験不問で参加者を集め、この映画の制作を始めました。できあがった作品は5時間17分という超長編映画。

有名な役者のキャスティングや、既存の映画づくりにとらわれない制作方法をこのプロジェクトで資金を集めた映画『ハッピーアワー』は確立しました。そうして開いた「扉」の先には、続く作品『ドライブ・マイ・カー』での第94回アカデミー賞の作品賞、監督賞、脚色賞が待っていました。このプロジェクトが、濱口監督のキャリアにおいて重要な作品となったと言っても過言ではないでしょう。

3つ目:「「もう安心」ではありません。現状ではまた解体危機が。歴史ある洋館を壊されないためご支援を!旧尾崎邸保存プロジェクト」

「壁」ができる瞬間があるとしたら、それは何かに関心を失ったり、忘れたりする時でもあるかもしれません。たとえそこに悪意はなくても。世田谷区豪徳寺にある、歴史的建造物「旧尾崎邸」。水色の特徴的な外観は地域の住民に愛される一方で、100年以上の歳月を経た建物であることから、このままでは朽ちていくのは避けられない状態でした。

2020年夏、旧尾崎邸は一度は決まってしまった解体の危機を免れました。しかし、この解体の危機を免れたことから、「もう安心」と思われてしまったことが「壁」となって現れたのです。「解体を免れたのなら、もう大丈夫だろう」と関心を失うという「壁」。それを、「『もう安心』ではありません」と振り向かせ、「壁」をこじ開けるようにして「扉」にし、次の100年この建物を残すための補修費用を募りました。このプロジェクトのおかげで、現在も尾崎邸は取り壊されることなく補修工事が進んでいます。

4つ目:「今だからこそ、個人的な強い想いを編み込んだ手作業の雑誌を届けたい。本気で雑誌を刷りたい人が集える印刷工房をつくりたい!」

たくさんの愛好家により支えられ、再び盛り上がりを見せる文化があります。雑誌という文化、そしてそれを支える印刷産業もそのひとつ。デジタル化の波により、雑誌の刊行部数は右肩下がり。さまざまな特殊印刷を行う印刷工場がどんどん閉鎖されている現状があります。

そんな「壁」に風穴をあけ、今「扉」にしようとしているのが、『NEUTRAL COLORS』。編集者の加藤直徳さん、アートディレクターの加納大輔さんが新たに企画した雑誌です。

最新のオフセット印刷とアナログなリソグラフ印刷技術を駆使した雑誌の企画と、工房の設立のアイデアをクラウドファンディングに掲載すると、全国から700名を超える支援が集まりました。

集まった支援により創設された印刷工房で作った雑誌『NEUTRAL COLORS』は、ページをめくるたびに視覚的な驚きを与えてくれる鮮やかなアート作品のような雑誌に仕上がりました。2022年3月までに3号を刊行し、本のつくりと装幀の技術や美しさを競うコンテスト第54回 造本装幀コンクール審査員奨励賞を受賞していることからも、かつての挑戦が文化として根付き始めたことがわかります。愛好家が集まってみんなで力を合わせれば、「壁」も「扉」になることを見せてくれたプロジェクトです。

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4つのクラウドファンディングのプロジェクトを見ていただきました。あなたの心に届くものは、あったでしょうか。クラウドファンディングは、時に、プロジェクトを行う人が主役になってみんなを引っ張っていく印象を持たれがちです。しかし、プロジェクトのひとつひとつを紐解いてみると、誰かが「壁」を発見して、みんなで集まって「扉」にする行為のように見えてきませんか。

あなたが「壁」を「扉」にしたいことがあれば、クラウドファンディングをやってみるのもいいかもしれません。ひとりでは到底動かせないように見えた高い「壁」も、あなたが掲載したプロジェクトを旗印に支援する人が集まってきて、押したり、引いたり、崩したりするうちに「扉」にできるのです。

【プロフィール】
大高健志(おおたかたけし)
早稲田大学政治経済学部卒業後、’07年外資系コンサルティングファーム入社。戦略コンサルタントとして、事業戦略立案・新規事業立ち上げ等のプロジェクトに従事。その後、東京藝術大学大学院に進学。制作に携わる中で、 クリエイティブと資金とのより良い関係性の構築の必要性を感じ、’11年にクラウドファンディングプラットフォーム『MOTION GALLERY』設立。以降、60億円を超えるファンディングをサポート。’15年度グッドデザイン賞「グッドデザイン・ベスト100」受賞 。’18年2020年開催「さいたま国際芸術祭2020」キュレーター就任。’22年、下北沢駅南西口直結のミニシアター、シモキタ-エキマエ-シネマ『K2』を開館。