佐久間です。いやあ、人生はじめての「編集長」、楽しかったです。なんといっても自分が話を聞いてみたかった人、興味のあった人、気になる人にじっくりインタビューできるということで、とにかく役得だったなと(笑)。実際に記事を読むと、やはりみなさん「あたりまえ」にとらわれなかった人だったり、自分なりのスタンダードを確立した人だったりで、とてもいい刺激をいただきました。
ということで、おひとりずつ、印象に残ったフレーズやポイントをご紹介していきたいと思います。
【放送作家/寺坂直毅さん】
好きなものはあるけれど、周りの人に伝えたり世の中に発信したりはできない。ましてやそれを仕事にするなんて——。世の中には、そういう人ってたくさんいると思うんです。
でも寺坂は、自分の“好き”を貫いて、堂々と表明して、強い意志をもって自分の仕事にした。それで「一流」にもなっている。ある種オタクの理想型ともいえる彼は、こういうふうに“好き”を捉えているんだな、こんな意識で働いているんだなとよく伝わってきました。
ちなみに寺坂とは、好きなものの話はします。僕も彼も「仕事に生かせるかな?」なんてことは考えずに、自分の興味関心に任せてひたすらインプットするタイプですし。でも仕事に対する熱い思いを語り合うことはまずない、恥ずかしすぎるから(笑)。だから今回彼の言葉に触れて、不覚にも胸を打たれましたね。
「紅白歌合戦」への“好き”を先輩の放送作家に話したら『やりすぎコージー』に登場することになり、さらにNHKの人とも話す機会につながって……というエピソードでの言葉です。「だれかに伝えること」は僕自身も意識しているので、共感しました。
実際、「こういうものが好き」とか「こういう仕事がしたい」とポジティブな思いを口にしていると、それに関する人や情報が集まってきたり、チャンスを振ってもらえたりするんですよ。それに、“好き”と言われた人はうれしいし、ずっと覚えているもの。それがなにかの縁につながったりするので、発信は大切だと思います。
これも、めちゃめちゃ共感した言葉です。僕も「人は変化していくものだ」と思っているので、変わっていく自分を認めて、それを他人にも誠実に伝える人は信用できますね。最初から最後までまったくブレない人なんて、そうそういないと思うから。昔の自分の考えや発言、仕事にとらわれることなく「変わること」を受け入れつづけたいと、あらためて思いました。
【お笑い芸人/ラランド・サーヤさん】
サーヤの戦略性とおもしろさの両輪が伝わるインタビューでした。やっぱり、しっかりしてるなあ。
若手芸人には「よく考えてるな、優秀だな」と感じる人が多いんだけど、その中でもサーヤは独立心が強い。自分たちの「見え方」をちゃんとコントロールしつつ、自分たちらしい道を切り拓いて独立独歩でやっていこうとしています。その姿が、パンクでかっこいいんです。
サーヤが藤井隆さんに憧れていることはまったく知らなかったけれど、「ああ、なるほど」とものすごく腹に落ちた部分です。
サーヤが言うとおり、お芝居や音楽などお笑い以外のジャンルに行くときに「まあ、本業は芸人なんで」という姿勢を見せる人はいます。これってうまくいかなかったときの保険であり、要はただの保身でしかない。そんなカッコ悪いことはせず、ちゃんとプロとしてパフォーマンスを発揮する藤井さんをサーヤは尊敬しているわけです。
「その道の人に失礼がないようにしたい」、つまり「どんな仕事でも言い訳したくない」ってスタンスが、めちゃくちゃ彼女らしいなと思いました。
僕はもちろん感じていることですが、サーヤくらいの年代でもそう捉えているんだな、と印象に残りました。たしかにいま、業界は過渡期を迎えています。「以前なら許されていた働き方やコミュニケーション、表現がダメになった」ということは数え切れないほどある。古い「あたりまえ」が壊されて、あたらしい「あたりまえ」がつくられている。そういう時期なんです。
僕は、自分が理不尽だと思う慣習や嫌だと思う空気を変えるよう努めてきました。セクハラ上司やパワハラ上司は、人事に訴えて適切な処分をくだしてもらったりして。それは、「そのほうが仕事がしやすくなる」と考えたからです。
だからいま、かつての僕が「こうあったらいいな」と思っていた状況に向かって業界全体が過渡期を迎えているとしたら……「それはそうなるよな」と思うし、「よかったな」と思いますね。
【長沼雄三さん】
長沼さんのつくる銭湯のファンで、その徹底したお仕事ぶりをひとりの客としてリスペクトしているので、お話を聞けて単純にうれしかったですね(笑)。
僕はもともと銭湯好きでしたが、近所の銭湯が続々となくなって一時期は足が遠のいていたんです。記事にも、長沼さんが事業継承した2001年は1日のお客さんの平均は「ピーク時の半分」とありましたから、経営がきびしかったんでしょうね。
そんな中、東上野にある「寿湯」はずっと元気に営業していて、ひょんなことから訪ねたらとても気持ちのいい場で。それから、銭湯熱が復活しました。
それで2017年、「鶯谷(うぐいすだに)の『萩の湯』をリニューアルしたらしい」と耳にして、わくわくして行ったら……ぶっとばされました。「すげえな、ここ!」と興奮しましたね。なにもかも快適なんです。
設計がすべて「お客さんがこうしたら喜ぶだろうな」をベースに考えてあるのが伝わってくるし、最初に行ったときからどんどんアップデートされている。そして、ほぼスーパー銭湯なのにふつうの銭湯の値段で入れる(笑)。まさに傑作銭湯。銭湯好きの、「こうだったらいいな」が全部叶う場所です。
この記事にマーカーを引くとしたら……「お客さんのために改善したこと」全部ですね。
一事が万事、この姿勢なんです。ここまで考え尽くして、一切ケチらずにやりきってるんだってことがわかって、「だから『萩の湯』は最高なのか」と納得しました。僕が、長沼さんの銭湯を好きな理由が詰まっている記事でしたね。
【コート・ドール/斉須政雄さん】
僕の仕事人生を支えてくれた本、『調理場という戦場』。20年読みつづけてきたこの本の語り手である斉須シェフとの対談は、過去の自分に「やったぞー!」と言いたくなるほどの、うれしすぎる時間でした。すべてが印象的で、マーカーを引くのがちょっとむずかしいくらいです。
この本には斉須さんが長い時間をかけて血肉にされたことが詰まっていて、ひとつひとつの言葉にものすごい力があります。それは、対談の場でもまったく同じ……いや、それ以上でしたね。物腰やわらかな斉須さんが発するゴツゴツとした言葉の力強さは、まさに本物だった。気圧されると同時に、僕も斉須さんのようにずっとクリエイターでいたいと切実に思いました。
そして対談の後、調理場に入れていただいたのも感激でした。本の中に、斉須さんが大切にしている言葉が調理場にかけられていると書かれていて印象に残っていたのですが、まさか実物を見られるなんて!
今回、対談させていただくにあたって久しぶりに『調理場という戦場』を読み直してみると、以前とは深く刺さる場所がまた変わっていました。何歳になっても、どんな立場になっても、この本が僕を導いてくれるのは間違いありません。この対談とあわせて、大切にしていきたいと思います。
【編集長任期を終えて】
4ヶ月間、「あたりまえって、ほんとかな?」というテーマで編集長を務めさせていただきました。メガネ業界に革命を起こしつづけてきたJINSさんのメディアで、こうしたメッセージを発信することができてとても光栄です。
JINSさんがすごいのは、一度きりではなく何度も「あたりまえ」をひっくり返しているところ。JINSさんと共にこの特集をつくらせていただき、何歳になっても訳知り顔で「そういうもんだよ」なんて言うおじさんにはならないぞ、とあらためて誓いました。
特集記事を読んだ方からも、「仕事への意識が変わりました」といった感想が寄せられてうれしかったですね。ぼくも、仕事を楽しむために「ほんとかな?」と思ったことを変えてきました。自分が楽しく働くために、嫌なことを変えてきたんです。だからいまも、“好き”を仕事にできているんだと思います。
もちろんこれは、仕事に限った話じゃありません。家庭や学校、所属するコミュニティ……世の中にはたくさんの「あたりまえ」が存在します。ルールや暗黙の了解を疑い、「やっぱりちがうな」と思ったら変えていく。小さいことでも自分がアクションを起こすことで、よりハッピーに過ごせるんじゃないでしょうか。
「あたりまえって、ほんとかな?」。このテーマを通して、一人でも多くの方にポジティブな変化が起こせたなら編集長冥利に尽きます。自分の手でルールを変えて、自分がいる場所を楽しくするって、楽しいですよ。
その一歩目として、これからも「あたりまえ」を疑ってみてほしいと思います。
【JINS PARK編集部より】
「JINS PARK」記念すべき1人目の期間編集長を快く引き受けてくださった佐久間さん。
ルールに縛られず自分の「おもしろい」を貫いてこられた佐久間さんと、JINSの挑戦の歴史にはリンクするところも多く、わたしたちらしい特集になったと感じています。
(佐久間さんの著作『ずるい仕事術』内コラム「かばんの中身」(P56)にもJINSのメガネを取り上げてくださっていて、うれしかったです!)
JINSも、常に「ほんとかな?」の姿勢でメガネを、世の中を見つめていきたいと思っています。そうして生まれたプロダクトを、しっかりお客様に届けていこう。歩みを止めることなく「あたらしい、あたりまえ」をつくっていこうと、心を新たにしました。