大島育宙 今回とりあげるのは、YouTubeにアップされた大学の講義です。これまでなんとなく抱いていた「想定」や「先入観」が覆されてしまう。そんな講義を3本、セレクトしました。
1本目:京都大学 鎌田浩毅 「地震・噴火・温暖化は今後どうなるか?」
日本に暮らす全ての人に見ておいてほしい一本。
「自分の住む地域で震度7の地震が起こるなんて、まさかそんな……」と心のどこかで思っていませんか?
京都大学で長いあいだ火山や地震の研究をしてきた鎌田先生に言わせれば、南海トラフ巨大地震(西日本大震災)は必ず起きてしまうもの。それも、そう遠くない未来に。おそらく2030年〜2040年のあいだというのが、研究者たち共通の見立てです。
静岡から新潟にかけての太平洋ベルト沿いに震度7の大地震が起こり、想定される犠牲者数は36万人……。東日本大震災がおおよそ2万人なので、大変な数です。
一方で東日本も、首都直下型地震のリスクを抱えます。木造建物の密集地域で発生する火災が、甚大な被害へとつながってしまう可能性も。10万人もの死者を出し、その9割が火災で亡くなってしまったという関東大震災の二の舞となるかもしれません。
地震学者たちにとってはあたりまえのこうした事実が、世間にはちっとも伝わっていない。
そんな危機感からテレビにも出演し、くり返し警鐘を鳴らしてきた研究者による、まったく退屈しない神講義です。
2本目:京都大学 渡辺謙 「エンタテイメントビジネスマネジメント論」
世界で活躍する俳優の渡辺謙さんが、京都大学で行った特別講義です。
1987年、若干28歳にしてNHK大河ドラマ『独眼竜政宗』の主演を務め、平均視聴率39.7%という圧倒的な結果を出した渡辺さんは一躍スターダムにのり、日本国内で確固たる地位を築きます。
その後、真正面からオーディションを受け、出演を勝ち取った映画『ラスト サムライ』の演技をきっかけにハリウッドでも認知を広げ、今日に続く世界的知名度を誇る俳優への道を歩んできました。
この講義では、渡辺さんが日米のエンタテインメント業界を行き来するなかで気づいた日本の映画業界の課題点やハリウッドの先進性が語られます。
渡辺さんがすばらしいのは、決して日本を卑下することなくこの話をしている点です。事実を比較すれば明らかに日本が劣る面もあるのですが、そこをあげつらうことなく、新天地に行き、広い世界を見ることの大切さを伝えていらっしゃいます。
最近視野が狭くなっている気がするな……という方にぜひおすすめしたい講義です。
3本目:東京大学 酒井邦嘉 「脳はどのように言葉を生み出すか」
最後に紹介するのは、東京大学の酒井邦嘉先生による模擬講義「脳はどのように言葉を生み出すか」。
僕たちは毎日あたりまえのように言葉を使って話しています。でも、どうして人間にだけそんなことが可能なのでしょうか。改めて考えてみれば、不思議な話です。猿や犬も人間の言葉を理解すると言われていますが、それはあくまで単語レベルの話。
一方、人間のあらゆる言語には数学的特徴を持った構造があるそうなのです。その構造を僕たち人間は、造作も無く理解できるということ。それこそが、「日本語(や英語といった言語)を知っている」状態であると、酒井先生はおっしゃいます。
講義中には「再帰的」「木構造」「可能無限」といった難しい言葉も出てきますが、図を用いながら説明してくれているので、あまりハードルを上げずに見て見てもらえたら。
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以上です! 近年、各大学がYouTubeでの講義配信に力を入れています。おそらく未だ発掘されていない「神講義」がいくつもあるはず。最高学府の講義をいつでも無料で自宅にいながら受けられるなんて、本当にいい時代になったなと思います。
ぜひみなさんも、自分の価値観がゆさぶられるような講義を求めて、YouTubeを掘ってみてください。
【プロフィール】
大島育宙
東京大学法学部卒。タイタン所属のお笑いコンビ「XXCLUB」として活動するほか、YouTubeチャンネルで映画やドラマの考察・レビューを行う。エンタメ時評の寄稿や映画イベントのMC登壇多数。2022年4月から文化放送『西川あやの おいでよ!クリエイティ部』で水曜コメンテーターを務める。