ダメなところも、すべてが愛おしい
——「仕事にしたら“好き”が嫌いになる」という声もあります。「裏側を見ると幻滅する」とか。これはけっこう共感を呼ぶ意見だと思うのですが、寺坂さんはそんな経験はないですか?
それ、よく言われるんですけど、僕はダメなところも含めて好きなんです。たとえば大好きなデパートが落ち目だと言われてる。大好きな番組で大変なことがある。そういう不安定な感じも愛おしいんです。裏を知って幻滅して、離れようとする人には、「所詮その程度の“好き”だったんだ」って思ってしまうんです(笑)。僕の“好き”はそんなに甘くないですよ。裏も表も好きになってしまうんです。
——ははは! 生半可な“好き”じゃないぞ、と。「“好き”を仕事にしないほうがいい」派の意見をぶつけてみましたが、見事に打ち返されてしまいました(笑)。寺坂さんの飛び抜けた“好き”の気持ちは、強力なエンジンになっているのだなと感じます。
上沼恵美子さんが先日初めて『徹子の部屋』(テレビ朝日系)に出られていて、黒柳徹子さんに「黒柳さんは一生(番組を)やられているじゃないですか。どのエネルギーが、どの力が、そう、持って行ってくれるでしょうか?」と質問していたんです。僕が大尊敬する徹子さんは「私はこの番組が好きだからだと思います。どうでもいいからって出た番組は今まで無いです。自分が本当に好きなのしか出てないです。」とおっしゃってました。
僕は会社員でもないですし、突然担当番組が終わって来週には無収入になる、なんてこともありえます。もう毎週ドキドキしてますよ。正直不安だらけです。一個一個仕事した後の、「あぁ終わった」っていう安堵感で生きている。そんな状態でも、気持ちを失わずに続けられているのは、徹子さんのおっしゃるように、やっぱり「好きなことだから」ってことだろうかと思いますね。
人は変わるもの。変化を見るのが“好き”
——近年、放送業界ではコンプライアンスを重視する動きが強まっていると思います。つくり手として、窮屈さを感じることもあるのではないでしょうか?
うーん、たしかに窮屈ですよね。特にラジオに関しては、ここ10年、20年で番組の内容も演者さんが話す言葉もがらっと変わりましたから。
パーソナリティさんたちは、制限がある中でおもしろいことを言おうとか、じゃあどんな言い方がいいかとか、リスナーを傷つけることがないようにすごく考えていると思います。
「窮屈ながらおもしろい」ってこともありますよ。誰かが傷つくよりは、ルールを守るほうが絶対にいいはず。もっと“みんな”と仲良くなるためのコンプライアンスって考えるといいんじゃないかな。
自分が、学校に行かずに引きこもっていた時、ラジオパーソナリティーの発言を聴いて、何度か傷ついた事があるんです。自分の事を中傷されているような……。ラジオって、リスナーとパーソナリティの距離が近いからこそ、身近すぎて、何気ない事でショックに感じてしまう事があると思うんです。
だからこそ、いい意味でコンプライアンスは守りたい。リスナーと、優しく、いい気分で向かい合えるような番組にしたいと思っています。
——寺坂さんは、そうした変化にも前向きなんですね。そういえば、寺坂さんが好きだとおっしゃる黒柳徹子さんや星野源さんは、みなさん「変わり続けている」という共通点がある気がします。
あぁ、そうですね。僕、ひとつのものをずっと貫くみたいな考え方がだいっきらいなんですよ(笑)。
人は変わるものです。徹子さんは「テレビ女優第1号」として俳優をして、司会者になって、文筆家、舞台女優に変わった。星野さんは音楽家でありながら、文筆家としても、俳優としても、ラジオパーソナリティとしても活躍されている。今田さんや東野さんも、新喜劇から、芸人、司会者などいろんな顔を持たれています。いろんな顔を持ってる人が好きだし、どんどん進化していく人たちを見ているのも好きなんです。
——大好きな人たちの変化に伴走していくような今のお仕事は、寺坂さんにとってまさに「好きなことを仕事に」しているのだと言えそうですね。
はい。やっぱり僕は、この仕事ができてよかったなと思います。
自身を形づくっている愛を、はつらつと語ってくださった寺坂さん。次から次へと飛び出すエピソードは、どれも状況がありありと目に浮かぶおもしろさで、どんどん話題が転がっていく感覚が楽しいインタビューでした。
“好き”には、純粋で前向きなパワーがある。
それは、誰かが建てた「あたりまえ」の壁を、ゆうに飛び越えられる力です。
「あたりまえ」を疑って、戦略的に自分の思う「おもしろい」をつくり続ける佐久間編集長とは対照的に、寺坂さんは、“好き”の気持ちの強さゆえ、自然と「あたりまえ」を越えていく人なのだと感じました。
——自分流の「『あたりまえ』にとらわれない姿勢」を見つけること。
ここにも、あたらしいなにかを掴むヒントがあるように思います。
* * *
最後に、寺坂さんにJINSへの印象を聞いてみました。
「渋谷店から見える景色がよかったです。視力測定が楽しかった。あと、つくったメガネが本当に軽くて。かけてるの忘れるぐらい」
「前橋にも行ってみたい! JINS “PARK”って名前もいいですよね」
お話を聞いて、“好き”の感情を見つけるのが得意な方なんだなと改めて感心するとともに、JINSも寺坂さんの“好き”心を刺激することができて、うれしく思いました。
みなさんの「好き」を引き出す存在でありたい。
ブランドとして、初心に立ち返るような気持ちになりました。
【プロフィール】
寺坂直毅
放送作家。1980年。宮崎生まれ。『星野源のオールナイトニッポン』『松任谷由実のオールナイトニッポンGOLD』(ニッポン放送)『うたコン』(NHK総合)などの構成を担当。デパートの知識も豊富で、著書に『胸騒ぎのデパート』(東京書籍)がある。
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