前橋駅から車で1時間弱、前橋市の最北に位置する赤城山は、「こんなところほかにない!!!」と声を大にして言いたいくらい魅力や楽しみ方が無限大。

たとえば、自然が豊かなところ。初夏にはピンク色に咲き乱れるツツジが、秋には赤、黄、オレンジに染まる紅葉と、四季折々に見どころがあります。また、山頂付近の湿地帯「覚満淵(かくまんぶち)」では、珍しい高山植物の群生を目にすることができます。

そして赤城山には、さまざまなアクティビティが充実するリゾート地の一面も。ゴルフ場にキャンプ場、スキー場や温泉といったレジャー施設がもりだくさんのほか、登山もできます。初心者向けのゆるやかなハイキングコースから、頂上を目指す本格的な登山道まで、家族みんなで登山をたのしむことができます。山頂に到着すれば、カルデラ湖「大沼」でボートやワカサギ釣り(冬季)の体験もできますよ。

さらに、裾野を東西に走る「からっ風街道」や「あかぎ・風ライン」は、緑の間を抜ける開放的なドライブコースとして高い人気を誇っており、今回の取材でも「赤城山にはよくドライブに行っています」という声が多く寄せられていました。


その一方で、赤城山は豊かな農業地としても知られています。富士山に次いで日本で2番目に長い裾野を有する山として、広くゆるやかな台地をいかした野菜や果物の栽培のほか、養豚や養鶏、酪農といった農業が盛んにおこなわれています。ドライブコース上には山で採れた恵みをそのまま提供するレストランやカフェが並んでいる、「おいしいエリア」としても有名なのです。

市民に愛される山の上の朝市! 大きな風車が目標の道の駅ぐりーんふらわー牧場

国道353線、通称「あかぎ・風ライン」を進むわたしたち。前橋駅から車でわずか20分ほどの距離ですが、車窓からの景色を見るにぐんぐんと標高が上がっているようです。窓を開けて、緑いっぱいの空気を吸い込むと、しんとした冷たさが身体にひろがってなんだか浄化されたようなすっきりとした気持ちになれました。と、同時に市街地からそこまで離れた気がしないのに、気温がずいぶん下がったことを実感します。

ほどなくして見えてきたのは、淡いブルーの大きな風車。目的地「道の駅ぐりーんふらわー牧場・大胡」に到着です。

オランダ型風車は約22mもの高さがあり、近くで見るとその大きさにびっくり

この場所は「風」をテーマに設計されているそうで、風車だけでなく敷地内のいたるところに風を感じさせるモニュメントが点在しているのが特徴です。

この風車が設置されている芝生広場には、約500本もの桜の木が植えられていて、春には満開の桜に囲まれながらお花見をする地元の方も多いんだとか。ほかにも、前橋市街地が一望できる展望台やアスレチック遊具、キャンプ場にバンガローまであり、単なる道の駅ではないことがうかがえます。

さらに、名前に牧場とついているだけあって、ポニーやヤギ、ヒツジ、オウムなどが飼われています。もちろん、餌やりをすることも可能。

取材班がエサを持って近づくと、小屋の奥からお腹をすかせたヤギが3匹やってきました。前のめりになってにんじんスティックにかじりつくヤギの強力なパワーたるや、大人でも身体をひっぱられないようにするのが大変でした。

ヤギの餌は隣のレストランで150円で販売されています

そして、なんといっても道の駅ぐりーんふらわー牧場・大胡の一番の目玉は、新鮮な農産物をリーズナブルに買うことができる直売所です。赤城山南麓・大胡地区の農家さんたちが育てた愛情たっぷりの新鮮な野菜や果物が毎日並び、生憎のお天気だったこの日も軽トラックの荷台に野菜をたくさん積んだ農家さんが続々と搬入に来られていました。

いつも開店前からが多くのお客さんが待っているほどの大盛況。数時間と経たないうちに野菜は売り切れてしまうそうなので、お買い求めの際は早めの時間に行かれることをおすすめします!

「採れたての原木しいたけは、肉厚でおいしいですよ」と農家さん

【道の駅ぐりーんふらわー牧場・大胡】
群馬県前橋市滝窪町1369-1
TEL:027-283-5792
花木農産物直売所「さんぽ道」:027-284-0011
営業時間:農産物直売所:3~9月9:30~17:00 10月~2月9:30~16:30 
    レストハウス: 3~9月9:30~16:30 10月~2月10:30~15:30
定休日:年末年始 (12月31日~1月6日)

大皿を囲むしあわせな時間。行列の先にある忘れられない蕎麦体験

火山灰が堆積した水はけのいい土壌。昼夜の寒暖差が激しく、夏は涼しいといった赤城山の環境はそばの栽培に最適です。そのため、山頂へとつづく県道4号線沿いには、たくさんのお蕎麦屋さんが軒を連ねる「そば街道」とも呼ばれているほど。

数多あるお店のなかから「赤城山に行ったら絶対に寄ります!」というJINSスタッフの声をたよりに、わたしたち編集部がやってきたのは「桑風庵なかや本店」さんです。

「おすすめは天ぷら付きですね。うちの蕎麦は盛り方に特徴があるんですけど、一升でいいですか?」。女将・中里さんのおすすめのままに注文を決めました。ただ気になるのは……

「一升」……? 
ふだんあまり聞き慣れない大きな単位にとまどいつつ、待ってると到着したのはドーン!と巨大なザルに盛られた蕎麦と天ぷら。「わぁ、すごい……」と、4人前がひと盛りになった光景には思わず驚きの声が漏れてしまいます。

蕎麦殻ごと挽いた田舎蕎麦なので、少し黒っぽい見た目をしているのが特徴

さっそくいただきます。爽やかな蕎麦の香りが鼻を抜け、お蕎麦自体の旨味が強い。しっかりコシがあって、なにもつけなくても甘くておいしい! カツオやサバからとられた風味豊かなつゆにくぐらせると蕎麦の旨味が際立ち、もう最高のひと言でしかありません。

みんなでひとつのお皿をつつきあうと、自然と「おいしい!」「天ぷら、サクサク!」といった笑顔の会話が弾んでいたのですが、そんな声が聞こえたのは最初だけ。あまりのおいしさに全員の声が静かに止まってしまいました。

写真では伝わりにくいかもしれませんが、お皿の直径ははだいたい50cmほど

桑風庵のこだわりは、挽き立ての香りの強さとおいしさ。赤城山のふもとにある自家農場で栽培された蕎麦の実を自分たちで挽いて粉にし、手打ちしているのだそう。くわえて、締めるときに使用する冷たい赤城山の地下水も桑風庵のお蕎麦には欠かせないといいます。

「香りが弱くなってしまうので、蕎麦粉の挽き置き・つくり置きはしません。ただ、そのぶん1日に挽ける量に限界があるので、どうしても売り切れ次第の終了ということになってしまうんです」

そのこだわりに裏付けされた桑風庵のそばを求めて、毎日たくさんの人がやってきます。100席近くもあるのに開店直後に埋まり、その後閉店まで列が途切れない、という大盛況ぶりにも納得です。赤城山でしか食べることのできないこの味を求め、県外からも足繁く通うお客さんも少なくないと言います。

お店を出たあと「おいしすぎましたね……」と、しみじみ噛み締める感想が止まらなかったわたしたち、きっとこの体験を生涯忘れることはないでしょう。


天ぷら付き手打ちそば一升(四人前)  ¥6,900

【桑風庵なかや本店】
群馬県前橋市富士見町赤城山1195 
TEL:027-288-4120
営業時間:平日10:30〜16:00 土日祝10:30〜18:00(売り切れ次第終了)
定休日:不定休

赤城山で育ったフルーツの魅力引き出す、うつくしい一杯

20年前、お父さんの代からはじまった赤城山でのブルーベリー栽培。現在社長をつとめる林さんが農園運営に携わるようになり、ふつふつとある想いが湧いてきたと言います。

「ブルーベリーの魅力をもっと伝えたい!」

こうして、はなぶさ有機農園の直営カフェ「はなぶさ有機農園 スイーツキッチン」は生まれました。こちらでは赤城山で育てられたフルーツをつかったかき氷やパフェ、パンケーキといったデザートをたのしむことができます。

今回注文したのは、冒頭でも触れた通りオープンのきっかけにもなったブルーベリーたっぷりの「ブルーベリーパフェ」と、メニューを見てたまらず追加した秋のおすすめ「和栗のパフェ」。

ブルーベリーパフェには、コンポートやゼリー、ジェラートなどブルーベリーがこれでもかとつかわれており、有機栽培でつくられたブルーベリーのポテンシャルをこれでもかと堪能することができました。口に入れるとなんだか「健康になれそう……!」と感じてしまうような、やさしい甘さと爽やかな酸味が広がります。パフェという高カロリーなおやつでも、なんだか不思議と罪悪感はありません。(実際に調べたところ、ブルーベリーには目の健康と関係が深いアントシアニン、抗酸化作用のあるビタミンE、食物繊維などの栄養素がつまっており、健康になれそうというのはあながち間違いではないのかも……)

栗のパフェは、こっくりとした濃厚な甘さが口いっぱいに広がり、しあわせな気持ちで満たされます。ぜいたくにも栗ジェラート、モンブランクリーム、栗そぼろ、渋皮煮が盛り込まれていて、どこをすくっても栗! そのおいしさに、気づけばあっという間にスプーンが底まで到達してしまいました。

両パフェともに、底までフルーツのおいしさがつづく、大満足の一杯。そもそもパフェは、アイスやクリーム、ゼリー、ソースなど、さまざまな要素を少量ずつ盛って構成されるものですが、はなぶさ有機農園 スイーツキッチンさんでは、このすべてを手づくりされているのだそう。そのぶん手間も時間もかかりますが、「はなぶさ農園で育ったフルーツ、その素材のおいしさをお客さんに知ってほしい」と林さんはいいます。

ブルーベリー畑のとなりにたつ「はなぶさ有機農園 スイーツキッチン」。晴れているとテラス席からは前橋市街地を一望することができます。

そのときどきに採れるものをつかって、加工の過程で添加物や保存料を使用しません。そのため、どのデザートも季節限定。いつでも食べられるわけではないというさびしさはありますが、店頭に置かれたメニューには今後、提供予定のデザート情報が添えられています。つぎの季節には、どんなフルーツのおいしさに出会えるのだろうか、そんな期待で少し先の未来をとても待ち遠しく思うのでした。

ショーケースにはこれまた季節のフルーツをつかったマフィンやロールケーキなど焼き菓子が並び、これらはテイクアウトも可能。ここでおいしいおやつを買って、ハイキングへと向かうのもいいですね!

ブルーベリーパフェ ¥1,500円 和栗のパフェ ¥1,800

【はなぶさ有機農園 スイーツキッチン】
〒371-0125 群馬県前橋市嶺町1097-5
TEL:027-288-8888
営業時間:11:00~16:00
定休日:火曜

食べると幸せになれる?! 前橋が誇る最高品質の「福豚」とんかつ

赤城山の豊かな自然環境のもと、のびのびと育てられた「林牧場」の豚。そんな豚肉をつかったおいしい料理が食べられると地元で評判なのが、林牧場の直営レストラン「林牧場 福豚の里 とんとん広場」さんです。

こちらで提供される豚肉はすべて、林牧場のブランド豚「福豚」。純白で固くしまった脂身と、きめ細かい霜降り、そして色味の濃い赤身のどれにおいても最高品質という厳しい基準をクリアした豚肉だけが「福豚」と名乗ることができるのだそう。つまり、そのおいしさは折り紙つき!

メニューのどれを食べてもおいしいと決まれば、途端に困ってしまいます……。そこで店長・藤島さんにおすすめを聞いて、一番人気だという一頭の豚からわずか10枚だけしかとれないリブロースをつかった「厚切りとろかつセット」を注文することにしました。

3cmはあろうかという、分厚いひと切れ。たまらなくそそるビジュアル……! ひと口食べてびっくりです。くどくなくさらりと溶けていく甘い脂。赤身はやわらかくジューシーで、ほどけるように豚肉の旨味だけを残し喉の奥へ消えていきます。臭みはいっさいありません。口のなかにはおいしい余韻だけが漂っている……。もうひと口食べたくなって、250gのボリューム満点の定食をあっという間に完食してしまいました。このとんかつが目の前にあわられたとき、正直「食べ切れるかな……」と不安に思っていましたが、まったくの杞憂に終わりました。

もちろん、福豚のポテンシャルには感動しっぱなしだったのですが、わたしたち編集部一同が唸ったのは、ほっこりしたおみそ汁のおいしさ。

「メインだけがおいしくても、ダメじゃないですか?」

と、藤島さんはいいます。おみそ汁につかわれている野菜は、とんとん広場の農園で自家栽培されたもの。「具材は、素材そのもののおいしさがわかるように大きめに切って、あえてごろごろの具だくさんにしているんです」。

取材にうかがった日のおみそ汁には、コリンキーというはじめて出会うかぼちゃが入っていましたが、このこだわりのおかげで新しい味をしっかりと知ることができたのです。同様にキャベツやお漬物も、自分たちで育てた野菜や地元で採れたものをつかっているそう。

こちらはとろかつと同じく、希少部位リブロースをつかったの「とろステーキセット」

さらに林牧場では、従来の養豚のイメージを変えるべく、豚と人と環境にやさしい「世界一キレイでカッコイイ養豚」の実現のため、技術や科学を取り入れた新しい生産システムの確立や職場環境の改善などに取り組まれているというお話も今回の取材でうかがうことができました。

福豚がおいしいという幸福感はもちろんですが、ひとつの定食を提供するためにその裏側に込められたたくさんのこだわりや工夫を知って、なんだか元気をもらえた気がします。


また、とんとん広場敷地内には、シャルキュトリー「Hütte Hayash」もあり、こちらではハムやソーセージなど福豚をつかった加工品が30〜40種類近くも販売されています。隣接する工房で手づくりされた、ドイツ仕込みの本格的なおいしさはおみやげにしてもよろこばれること間違いなしです!

なかでも、藤島さん一番のおすすめは「赤城山プロシュート」だそう。

「2年の月日をかけて完成するこの生ハムは、塩だけで仕込んでいるとは思えないほど、豚の風味も旨味も凝縮されていて絶品です。いつものサラダにのせるだけで、サラダがメインディッシュになりますよ!」

とんとん広場で熟成されている赤城山プロシュート


厚切りとろかつセット ¥2,250 とろステーキセット(ガーリック/きのこ/しょうが) ¥2,150 赤城山プロシュート ¥1,200


【林牧場 福豚の里 とんとん広場】
群馬県前橋市三夜沢町534
TEL:027-283-2983
営業時間:平日10:00〜14:00(L.O15:00) 土日祝10:00〜15:00(L.O16:00)
定休日:年末年始

【Hütte Hayashi】
群馬県前橋市三夜沢町534
TEL:027-283-2983
営業時間:10:00〜14:00
定休日:年末年始


赤城山は、ほんとうに宝物だらけの山。まだまだ紹介できていないところもたくさんあります……。宝探しをするような気持ちでお出かけしてみるのも良いかもしれません。

4回にわたってお届けしてきた『とうだいマップ・前橋編』はいかがでしたか。原稿を書きながら思い浮かぶのは、やさしくインタビューに応じてくださった街のみなさんの笑顔。「また行きたいな……」としみじみ思います。前橋は懐の広さと地元の方のあたたかさをたくさん感じられる街でした。
これからも、ローカルの今を照らす旅は続きます。つぎの街も、どうぞお楽しみに。