JINSの創業の地、前橋。
明治から昭和にかけて、生糸の生産で栄華をきわめた群馬県の県庁所在地でもあります。

生糸の生産量の減少とともに街の衰退が嘆かれてきた前橋ですが、近年の「レトロブーム」の恩恵を受け、街中にも新しい風が吹きはじめている模様。2018年に放送された昭和が舞台の学園ドラマ『今日から俺は!!』のロケ地になったり、戦後からつづいた飲み屋街が呑龍横丁として昨年新しく生まれ変わるなど、前橋市内の新陳代謝は今、じわじわと高まってきているのです。

とうだいマップの連載初回は、そんな古き良き街としての価値が再注目されはじめた前橋の中心部・商店街付近にあるスポットをご紹介します。

創業100年以上。「おもちゃコンサルタント」のいるお店、おもちゃと人形の専門店 黒田人形店

商店街でひときわ目を引く緑色のひさし、店先に並べられた小さな陳列棚。
とうだいマップ・前橋編でトップバッターを飾るのは、2021年に創業100年を迎えた老舗の玩具屋、「おもちゃと人形の専門店 黒田人形店」さんです。

店内の約半分のスペースを占めるのは、外国語で書かれた木製のおもちゃ。これ、すべて「おもちゃコンサルタント」の資格をもつ販売員さんが、こだわりを持ってセレクトされたおもちゃなのです。

おもちゃ屋さんは数十年ぶり。所在なげに店内を見て回っていた取材班に、「どうぞ手にとって遊んでみてください。おもちゃで遊ぶことは大人にとっても癒しになるんですよ。」とやさしく声をかけてくださった黒田さん。

「くぼみの部分にブロック引っ掛けてみて。いい積み木は、どんな積み方でもバランスが取れるようになってるの。積み木はただきれいに重ねていくだけじゃないのよ」

遊びのプロ指導のもとで数十年ぶりに積み木をさわっていくうち、筆者もふしぎと心が落ち着く感覚になりました。

現在は前橋市内の子どもの遊び場のプロデュースや、玩具に関する教育機関への提言など、行政との連携も積極的に行っているとのこと。つい最近、代替わりをし息子さんと娘さんが運営に加わった黒田人形店さん、これからもきっと、街の頼れるおもちゃ屋さんとしてあり続けることでしょう。

【おもちゃと人形の専門店 黒田人形店】
群馬県前橋市千代田町2-7-17
TEL:027-231-2451
10:00 〜19:00
水曜定休

詩を「体感」する場所。前橋文学館がめざす、偶然の出会い

つづいてご紹介するのは商店街から歩いて約10分、市内に流れる利根川水系の一級河川、広瀬川のすぐそばにある、「萩原朔太郎記念 水と緑と詩のまち 前橋文学館」です。

入り口にたたずむのは、前橋出身の詩人・萩原朔太郎の銅像。代表作に詩集『月に吠える』、『青猫』などがあり、口語自由詩の確立者として「日本近代詩の父」と言われています。

朔太郎の血を引き継ぐ現在の館長・萩原朔美さんは、多摩美術大学で教鞭をとられている映像作家。そんな館長の方針により、ただ詩を展示するだけではなく、より立体的に詩を「体感」してもらうためのさまざまなしかけが用意されているのです。

たとえば館内に入ってすぐ目につくのは、萩原朔太郎氏の代表作、「竹」と「広瀬川」。壁一面に書かれた大きな詩の登場に、おもわず立ち止まって読んでしまいます。

詩はガラスばりのスペースを飛び越え、階段の踊り場や柱など館内のあらゆる場所に現れます。学芸員の方いわく、「ふと目についた詩との出会いを大切にしてほしい」とのこと。言葉とのひょんな出会いを生み出すしかけが満載の前橋文学館で、お気に入りの詩との出会いを楽しんでみてはいかが? 

【萩原朔太郎記念 水と緑と詩のまち 前橋文学館】
群馬県前橋市千代田町3-12-10
TEL:027-235-8011
9:00~17:00(入館は30分前まで)
休館日:水曜(祝日の場合は開館し、翌日休館)・年末年始 

前橋の地に芽吹きはじめた芸術のつぼみ。300年の時を経てアートホテルに生まれ変わった老舗旅館、白井屋ホテル

いまや前橋の最注目スポットとなった、白井屋ホテル。
というのもこのホテル、ジャスパー・モリソン氏をはじめとする世界の名だたるデザイナーやアーティストによって“リデザイン”された、アートホテルなんです。

ジャスパー・モリソン氏がてがけた世界でたったひとつのお部屋。木の箱をイメージしているのだそう。

キーワードは、“リデザイン”。

こちらの白井屋ホテル、なんと創業300年を超える老舗旅館、「白井屋旅館」を元に2020年12月にリニューアルオープンを果たした建物なんです。

ちなみに、白井屋ホテルのアートは室内だけにとどまりません。
まず大通りに面したホテルの正面。どことなくアメリカンなテイストな看板とネオンが飾られていますが、建物の中を真っ直ぐ突っ切ってホテルの裏側へ回ると……。

なんと草木の生えた建物にさまがわり。見た目はほぼ、丘です。

表はグラフィックを中心とするコンセプチュアル・アーティストのローレンス・ウィナー氏の作品を配置し、裏は建築家の藤本壮介氏が新たに設計した建物です。それぞれ「ヘリテージ・タワー」、「グリーン・タワー」と呼ばれ、双方をつなぐ通路は宿泊者でなくとも通り抜けることができる、街に開かれたホテルになっています。

ロビーにも青々しい植物がずらり。白井屋ホテルがここまで緑にあふれているのは、ドイツのコンサルティング会社が提案したフレーズ「Where good things grow.」を前橋出身のコピーライター・糸井重里氏が日本語に置き換えた前橋のビジョン、「めぶく。」にインスピレーションを受けているからなのだそう。

ここまでくると海外からの宿泊客も多そうなホテルですが、なんせ開業はコロナ禍まっただなか。しかも社長の矢村功さんは、未経験でいきなり宿泊業界へ飛び込んだというかなりの強者です。

矢村さんにオープンしてから今までの率直な感想を聞いてみると、「我々はコロナ禍の営業しか知らないので、むしろこれからが伸びしろなんです」とサラッと頼もしいひとことが。遠からずやってくるインバウンド需要を見越して、現在は海外旅行客への対応も進めているのだそうです。

アートの力を得て、今や前橋の希望の星となった新生白井屋ホテル。街のあらたなシンボルとして、次の時代を刻みはじめています。

【白井屋ホテル】
群馬県前橋市本町2-2-15
TEL:027-231-4618