初対面で「ジジイ!」と言い放つ“過剰さ”

永野 今回はせっかく「編集長」というありがたい機会をいただいたんで、あらためて“過剰すぎる”蓮見くんとちゃんと喋ってみたいなと。ヘンな話、テレビだとその場を盛り上げるための「お笑い」に終始しちゃって深い話ができないじゃないですか。だから今日はいろいろ聞かせてください。いや、蓮見くんのことは本当にすごいと思ってて……。

蓮見 永野さんにそう言ってもらえるのはうれしいです。

永野 これですよ、蓮見のすごいところは。「お前すげぇな」と言われても、一瞬も酔いしれた顔をしないでしょ? どんな人間でも「いやいや、そんなことないです」って言って浮かれるもんだけど、蓮見先生はそれがない!

蓮見 むしろそういう褒め言葉は「罠だ!」って警戒しますもん。特に永野さんの場合は(笑)。

永野 そこの慎重さっていうか疑い深さも過剰なんだよね。でもすげぇヤツ出てきたなとはマジで思いましたよ。もともと存在は知ってたんだけど、ちゃんと絡んだのは去年一緒になったライブがはじめてで。あのときは楽しかった。

蓮見 僕は「あぁ、もう永野さんに見つかって嫌われるんだな」って覚悟してました。

永野 それはウソだよ! 俺が絡んでったら一発目に「うるせえよ、ジジイ!」って返したじゃん。あれがウケて、その後も盛り上がったのが、ほんとよかった。

もともと演劇とコント両方やるダウ90000っていう8人組がいるのは聞いてて、最初はお芝居メインの方々がコントにも手を出したのかなって思ってたんですよ。そういうひとたちを何組も見てきたので。ダウもそんな感じなのかなと思って軽く絡みに行ったら、「ジジイ!」って言われて客席も大盛りあがりですよ。

蓮見 僕はずっとお笑いが好きで芸人になりたかったような人間なので、「演劇とコントを両方やります」みたいなひとが、お笑いの文脈で扱いづらいのはわかってたんです。

永野 もともと芸人になりたかったの?

蓮見 子どものころから憧れてました。でも深夜バラエティとか見てるうちに、「ひととして面白くないと、芸人にはなれない」って気づいて、俺はつまんないヤツだから無理だって諦めたんです。それが中学2年生のときで……。

永野 諦めるの早っ! ちょっと待ってくださいよ。普通、中学生でお笑いが好きなヤツって「自分がいちばんおもしろい」って勘違いしません?

蓮見 それは1回もなかったですね。絶対勝てねぇって。

永野 そこの客観性がやっぱりすごいよね。で、お笑いを諦めて、演劇をやってみたと。

蓮見 いや、その後もしばらく未練はあって。かといってがんばるわけでもなく、いったん日本大学の芸術学部映画学科に入って、友だちと演劇サークルを立ち上げました。

お笑い界の主流から外れた永野と蓮見

永野 演劇はどんなものをやってたんですか。

蓮見 大学のときから長尺のコメディを書いてました。芸人として舞台に立たなくても、自分の書いた脚本でひとを笑わせることができる、都合のいいジャンルだなと思って。

永野 人にウケたいって気持ちが一貫してるから、コントと演劇を両立しても無理がないんだ。

蓮見 そうなんですよ、自分のなかでは意外とどっちの表現も同じなんです。これはよく言ってるんですけど、尺が短いのがコントで、長いのが演劇(コメディ)って感じです。

でも結局、在学中になにも成し遂げられないまま卒業しちゃって。就職もしてなかったんで、これはいよいよなにか始めないとヤバいぞってことでダウ90000を立ち上げました。

永野 お笑いの養成所は選択肢になかった?

蓮見 いまさらお笑いの学校行くのもな……っていうのはありました。先生に怒られるのもイヤだったし、意外と「お笑いは学んでやるもんじゃない」っていう古めかしい思想を持ってるので。

永野 いや、それは古めっていうより、真実でしょ。お笑いって持って生まれた才能だから。有能と無能の間の、絶望的な差がおもしろいんですよ。別に、居酒屋の席で隣になった気のいい兄ちゃんごときのおもしろ話を、お金払ってまで聞こうとは思わないでしょ。

蓮見 まぁ養成所に行くのって結局仲間を探すためだったりすると思うんで、僕はもうその必要はないのかなと。でもそれ以上に理由として大きかったのは、サークルを立ち上げた人間として、メンバーたちを放っておいて自分だけ離れるのはちがうよなってことでした。アイツらの貴重な学生時代の時間を奪って、僕の活動に付き合わせた責任がある。

メンバーには役者志望が多かったから、演劇公演もちゃんとやるし、ダウやってれば食えるようにする! すぐに売れる! と宣言して、ダウを組むことにしました。

永野 そういうとこの責任感がすごいよね。

蓮見 自分では責任感とは思ってなくて。僕が「芸人」と名乗らずにこの世界にぬるっと入り込むための言い訳がダウ90000だった。そこは持ちつ持たれつですね。僕はいまでも自分のことを芸人だとはあんま思ってないですし。

永野 やっぱ蓮見くんは貪欲で過剰で、すげぇ頑固ですよね。でもそれってギターウルフのセイジさんが言ってたことにも通じるんですよ。バンドっていうのは、ボーカル、ギター、ベース、ドラム……っていろんなメンバーが集まるけど、とんでもないひとりのエゴでやったほうが良いってインタビューで語ってて。

蓮見 へぇー。

永野 バンドは民主的にやるよりも、とんでもなく強烈なエゴを持ったリーダーが引っ張るほうが絶対にいいと。その点、蓮見はやっぱり“過剰”なんですよ。そもそも、ふつうお笑いやりたいって思ったら養成所とか行くんです。それなのに学生時代の仲間を、昔気質の人みたいに大事にしてるし。早くみんなをラクさせようとして、バカみたいな数のコントを書いて、公演もめちゃくちゃ打ってきたでしょ。スポ根ですよ。その意固地さに、熱いものを感じるんですよね。

蓮見 そんなかっこいいもんじゃなくて、早く売れたかっただけなんですよ。やっとダウの活動だけで食えるようにはなったけど、まだ売れてはないですし。はやくお笑いの世界で認められたいっていうだけです。

永野 なるほどね。自分も、お笑いの世界で本流じゃない自覚はずっとあるんですよ。芸人になろうとしたころは、西のダウンタウン、東のウッチャンナンチャンっていう時代で、幼馴染とか高校の同級生と組むのが当たり前だった。でも自分の周りには一緒に芸人やるようなヤツはいなかったし、ひとの人生を背負いたくない。それでずっと一人でやってきたら、テレビに出るまで、すんごい時間がかかったんです。

蓮見 ずっとピンですか?

永野 そうっすね。コンビでやると、自分のお笑いの純度が下がるからイヤなんです。たとえば、ネタ合わせで相手にボケの意図を説明したら、解釈が一個挟まることで、不純物が混じるじゃないですか。自分はそれがどうしても許せない。自分の脳みその中身をダイレクトに客に伝えたいのに、コンビ間で薄めてたらダメじゃんと思ってしまう。

蓮見 永野さん、そこらへん潔癖症なんですね。

永野 まぁでも、結局「ラッセン」っていう純度を下げた、ポップでわかりやすいネタでブレイクするんだけどね(笑)。あの後、バラエティ番組のひな壇に呼ばれるようになって、ピンでこの場所にいつづけるのは無理だと悟りました。他の連中はコンビのノリを持ち込めるでしょ。もっといえば、同期ノリとか、先輩後輩関係とか。「昨日も飲んでました〜」みたいな芸人たちの輪の中で「ラッセン」で売れた俺がひとりでめちゃくちゃ騒いでも「永野くん、それいまいらないから」って言われて終わりなんですよ。

ずっと“ぼっち”の強み

蓮見 やっぱり永野さんってひとりぼっちで闘ってきたからこそ、周りからどう見られるかに対してどんどん敏感になったんだろうなって思うんです。こないだ『しくじり学園放送室』(ABEMA TV)で、アルピー(アルコ&ピース)さんに「俺、別に浮かれてないからね」って言ってたじゃないですか。ブレイクしてても、あの俯瞰の視点、メタ目線を持ってるのが永野さんらしいなって。

永野さんが芸人になった30年前って、主観が強いカリスマになれれば、それだけで勝てたと思うんです。でも現代はそれだけじゃ通用しなくて、引いた目を持って、全体を俯瞰で見れないとダメじゃないですか。その点、永野さんは両方持ってるんですよ。ふつうの視聴者の方には、主観100で「ラッセン」やって腰振ってると思わせながら、ほんとうはあのキャラクターを完全なメタ目線でやれてるのが永野さん。そういう存在ってかなり珍しいと思います。

永野 そこまで言ってくれてうれしいんですけど、「浮かれてない」発言はちょっと後悔してるんですよ。蓮見先生ならわかってくれると思うんですけど、「俺、自分の置かれてる状況わかってるからね」って言っちゃう“つまらなさ”ってあるじゃないですか。「わかってて、やってます」みたいなムーブって、見てても全然たのしくないんですよ。むしろ調子こいてるほうが美しかったなって、いまは思ってますね。

蓮見 たしかに芸人なんて調子こいてみせることで、おもちゃにされて、イジってもらえる。それが“おいしい”っていうのはありますね。

永野 そうそう。ピン芸人ってそこの見極めが難しいんですよ。コンビだったら片方が調子乗って、もう片方が「調子乗んな!」ってツッコめばバランス取れるんだけど。

蓮見 自分から「俺、調子乗ってます」って言うのは、しんどいですね。さっき言ってたひな壇も「こいつ、ヤバいんですよ!」ってエピソードを話してくれる仲間がいるから、座っていられるわけで。よくできたシステムだなぁって思います。

永野 それでうまくやっていける連中に、とやかく言うつもりはないんですよ。ただ、自分はそこにハマれないなっていう状況が長く続いてたから、これくらいのグチは言わせくれよ!って気持ちですね。ひな壇でびっしょり汗かいてる自分に「永野くん、それいまいらない」と言ってきた人間たちは、お笑いのためじゃなくて、自分が快適な空間を守るために言ってたんですから。

これまたトガッたこと言ってるみたいになるけど、お笑いなのに同期で助け合うなんて発想はちがうだろってずっと思ってるんですよ。芸人の世界は才能で闘うもんでしょ。

蓮見 僕はわりとそんなこと思ってないです(笑)。

永野 えっ! ここでハシゴ外されんの!?

蓮見 たしかに芸人の世界は才能だけで評価される場所であってほしいですけど、単純にひとりの人間としては、この業界で生きていくうえで仲のいいひとがいないと困るし、不安だっていうのはわかるので。

永野 だからか! 俺、もうずっと不安なんですよ!

蓮見 だったら同期つくりましょうよ(笑)。

永野 いまさらイヤだよ! たしかに、ひとりで意地張って汗かいて、なんの意味があるんだろうって、ふと虚しくなる日もありますよ。でもね、「お前ら、足湯浸かってんのか?」ってくらい、ぬるい顔してるヤツらを相手に、戦闘態勢で汗かいてる自分の姿を「いいですね」っておもしろがるひとが、いまちゃんと増えてきてるんです。だから俺はこのままいきますよ。

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蓮見さんのことを「貪欲で過剰で、すげぇ頑固」だと評するその言葉は、まるで永野さん自身のことを語っているようでした。

「自分」を貫き通すのが難しい時代に、それでも信念を曲げない“過剰な”ふたり。その初対談は、ここからさらに加速していきます。

後編では、共鳴する永野さんと蓮見さんが、「有名になること」や「舞台裏を見せることの是非」を徹底トーク。そして永野さんの「あまり話したくない」プライベート話まで飛び出します!

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