プロフィール
宮武徹郎
バブソン大学卒。事業会社の投資部門で主に北米スタートアップ投資に従事。Off Topic株式会社を2021年に立ち上げ、米国を中心に最新テックニュースやスタートアップ、ビジネス情報、カルチャーを解説するポッドキャスト番組「Off Topic」を運営。
草野美木
慶應義塾大学在学中にスタートアップに興味を持ち、オフィス訪問ブログをスタート。その後、新卒でベンチャーキャピタルに入社し、投資活動に携わる。退職後、米国のスタートアップやビジネストレンドを発信するメディア『Off Topic』をスタート。コンテンツ編集・ディレクションを行う。
Off Topicが発信する情報をも「疑ってほしい」
——草野さんの提案によってスタートした『Off Topic』の活動も、5年目を迎えました。2021年春、「Off Topic株式会社」と法人化したことも追い風となって、クリエイターとして上り調子といった印象ですが、活動初期と現在とで変化したことはありますか?
宮武徹郎さん(以下、宮武):扱うトピックは変わってきたと思います。活動を始めたばかりの頃は完全に自分たちの好みで選んでいて、BtoCやメディア、SNSなどの話題が多かった。最近はテックのことを話すにしてもより広い領域で捉えるようにしたり、場合によってはエンタメや政治寄りなものも扱ったりしていますね。
草野美木さん(以下草野):そもそも、世の中の人たちのテックへの関心度が変わってきているのを感じるんです。これまでは面白いスタートアップや伸びている企業の話が人気でしたが、いまはメタバースやChatGPTに関心が向いている。そして、そういったテック関連の知識を持つ人が増えましたよね。だからOff Topicとして取り上げるトピックも変化したというか。
宮武:それに加えて、僕らの「伝え方」が変わったように思います。面白い会社の話をそのまま伝えるのではなく、そのテクノロジーがどれくらいの影響力を持っているのか、それが政治や教育にどう関わっているのかなど、これまで以上に物事を大きな視点で捉えて、リスナーに伝えていかなければいけないと思うようになったんです。
——最近は動画プラットフォームでもショート動画が流行っています。それに対して、お二人のコンテンツは1時間超えするものも少なくありません。なにか狙いがあるのでしょうか?
宮武:おっしゃるように、現在、世の中のコンテンツは「短いもの」と「長いもの」に二極化しています。たとえばYouTubeではショート動画の他に長尺の動画エッセイも流行り始めている。つまりどちらの需要も高まっているんです。アテンション・スパン(ひとつのことに集中できる時間)がどんどん短くなっているなかで、一方で、ショートフォームのコンテンツにはコンテキストが足りないケースが多々あります。なので僕たちはそれを補うようにロングフォームのコンテンツを提供しているんです。
——なるほど。確かに短いコンテンツに詰め込める情報には限りがありますよね。ただ、短く強く断言するコンテンツ、たとえば偏った情報を元に強く言い切るツイートなどはわかりやすくて、広く拡散される印象もあります。それによって社会に分断が生まれていくという弊害もあるようですが……。
草野:Off Topicのコンテンツのなかでも話すんですが、私たちは「私たちのことを盲信せず、疑ってほしい」と思っています。Off Topicはあくまでもひとつの視点を提供しているに過ぎない。それを踏まえた上で、他の価値観や選択肢もあるかもしれないと考えてもらいたいんです。強く断言されると、なんとなく「これを信じればいいんだな」と思ってしまいがちです。その方が楽だったりもしますが、そうではなく、目の前の情報を疑い、確認し、理解しようとするステップが大事だと考えています。
宮武:僕らは毎回、何らかのナラティブ(物語)を伝えたいと思っているんです。それを伝えることによって、自ら考えて、理解しようとする人が増えていくのではないかと思っていて。だから、Off Topicのコンテンツに対して反対意見が出てきても構わないですし、むしろそういうものが出てきてほしいとも思います。
「専門外」に弱いことを自覚する
——まさに特集テーマの「やさしく疑う」ですね。目の前に提示された情報をそのまま受け入れるのではなく、まずは「本当かな?」と疑ってみることがとても大事だと。ここでお聞きしたいのが、そういった「情報の受け取り方」についてです。お二人は発信する側になってみて、情報の受け取り方に変化はありましたか?
宮武:まず前提として、Off Topicを始めてから圧倒的にインプット量が増えました。アウトプットするために、一日中ずっとインプットしているような感じです。その上で個人的にはニュースメディアへの信頼はだいぶ目減りしてしまいました。
「ゲルマン健忘効果」と呼ばれるものがあるんですが、人は自分の専門領域についての情報における間違いや違和感には気付けるものの、専門外の情報は何故か鵜呑みにしてしまうんです。だからこそ、専門外のこと、僕らであればテック業界以外の情報もすぐには信頼せず、もっと疑っていかなければいけないと思うようになりました。自分では判断できない情報を前にしたら、それについて発信している人の話を聞いたり、主張を探したりしていこうと。
草野:私は普段は宮武さんやスタートアップ界隈、テック界隈の人と話すことが多いので、どうしても情報のソースが似てしまう。なので情報収集するにしても、周囲の人とは違うところから探そうと意識しています。私、図書館や本屋さんが好きで、一度訪れたらすべての棚を見るんです。すると、「トレンドの雑誌で特集されていることが、技術書ではすでに古くなっている」みたいなことがある。そこだけ見ていても、視点によってこうも違うのか、と思います。
宮武:ただ、情報の取捨選択って難しいですよね。ニュースメディアというのはしっかりした組織で作っていますし、ファクトチェックもされているはず。それを疑うのか疑わないのか判断するのは非常に難しい。でも、たとえばアメリカだとニュースメディアは広告っていうビジネスモデルを抱えていて、裏ではお金が動いていることもあるわけなんです。そこで提供される情報はジャーナリズムに基づいたものではなく、視聴者を引き寄せるためのネタだったりする場合もあります。それを踏まえて情報を精査するためには、何度も騙される経験をしないといけないのかな、と思ってしまいます。
草野:情報の正しさを確認するのは、本当に難しいことです。すぐにできることとしたら、「いいな」と思った情報を見つけたとき、必ず反対意見も確認してみることでしょうか。
——ひとつの物事に対して正反対の意見が対立していることもあって、その場合、どちらが本当に正しいのだろう……と途方に暮れてしまうこともあります。
宮武:正反対の意見を比べてみるというよりも、情報に対する意見というのはグラデーションになっているものなので、そこにあるさまざまな要素を確認してみるという考え方ですね。Off Topicは「ニュアンス」という言葉をとても大切にしているんですが、それはつまり、白黒はっきりしていないグラデーションのなかを行き来しながら考えるということ。
よくありがちですが、政治だと右か左のどちらかしか存在しないと言われるじゃないですか。そして「右の人はこうだ!」「左の人はこうだ!」と決めつけられてしまう。それが一番よくないこと。政治に限らず、すべての物事は極端にふたつにわかれているのではなく、その間にグラデーションのような意見があるということをまずは踏まえておいた方がいいでしょうね。
ただ、正反対のふたつの意見を比べるよりも、さまざまな意見に当たる方が大変なんです。なので、やらない人が多い。
草野:だから結局、「私は何を信じたらいいんだろう」と思っちゃうんですよね。
間違いに気付いたとき、自分の意見を変えられるかどうか
——意見にはグラデーションがあり、同じ方向を見ている人でもちょっとずつ違っていたりするわけですよね。でも何故かプラスかマイナスかのように二極化されてしまう。そしてそれが先鋭化すると、対立する両者による論破合戦だと思います。
宮武:ちゃんとしたエビデンスに基づいて自らの考えを主張すること自体は悪いことではありません。そもそも日本にはそういった「議論」の場が少なすぎる。僕はアメリカの高校に通っていたんですが、ほとんどの授業が丸テーブルで行われていました。先生も含めて生徒全員がそこに座り、お互いの顔を見ながら議論し合うのが授業のスタイルだったんです。そういう経験をしていると、自分で立てた仮説に対してエビデンスを見つけてこようとするし、それを踏まえて主張するようになる。それはとても大事なことだと思います。
でも、日本ではそういった機会がないですよね。「論破」という言葉にはネガティブなイメージもあるかもしれませんが、議論をすることはもっと広まってもいいんじゃないかなと思います。
草野:「論破」はプロレスみたいなもので、エンタメに近いような気がします。私も、議論やディベートの機会は増えた方がいいと思いますね。
宮武:そして重要なのは、自分の意見を変えられるかどうかです。議論した結果、自分が間違っていたとして、それを認めて意見を変える。逆に言うと、どんなに反対のエビデンスを提示されても自分の考えを変えない人は、とても怖いと思います。
草野:たとえ間違っていたとしても、それに気付いたらまた別の選択をすればいいんですよね。
宮武:そうそう。だから正確に言うと、議論をしてしっかり意見を変えられるかどうかが重要ということです。議論の結果、ただお互いを論破しようとして終わるのであれば、あまり意味がないですから。
過去には、地球が宇宙の中心にあって、太陽や月はそのまわりを回っているという説がありましたよね。それに対し、太陽が中心にあると唱えた人は陰謀論者だとされた。でもその陰謀論が実は正しかったわけで、それを認め瞬間に、地動説というイノベーションが起こりました。なので、議論した末に正しい意見を見つけて、自分の考えを柔軟に変えていくのがとても大事なんです。
アイデアは「我が子」ではなく「おもちゃ」
——それは発信する側も受け取る側も、どちらにも通ずることですね。
草野:そうですね。何かを断言してもいいし、素直に受け止めてもいいんですけど、大事なのはそれを臨機応変に変えていくことです。
宮武:『Off Topic』だって言い切っている部分がありますからね。ただ、自分たちとは異なる意見も捉えたり、そういったエビデンスが出てきたら意見を変えたりする。金融業界で働く人たちって、意見を変えやすいんです。彼らはお金というわかりやすくて絶対的な指標がある、自分の意見と異なるエビデンスが出てきたらすぐに意見を変える。だから昨日と今日とでは真逆のことを言っていたりして、とても柔軟だし面白いなと思います。
——いまの情報や価値観、意見を強く信じ続けるのではなく、それらを常に「やさしく疑う」ことで、柔軟に変わっていけるのかもしれません。
宮武:ポッドキャストでも紹介したティムアーバンさんの考え方で、意見を変えられない人たちは、自分のアイデアや意見を「我が子」だと思ってしまっているんですよね。それを「おもちゃ」のように扱えるようになると、より柔軟になれるのかなと思っています。
議論の場に自分の意見・アイデアを出したとき、まるで産まれたての我が子のように扱ってしまうと、大事に大事に、ひたすら守り育てようとしてしまう。そうじゃなくて、みんなでおもちゃのように突っついて転がして、壊れないかどうか検証していくのが理想です。それで壊れてしまったら、もっといいアイデアを生み出せばいい。
そうやって自分の意見をも、やさしく疑っていければと思います。
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「ヒンジレスフレームのメガネを購入したことがあるんです。元々メガネをかけ慣れていないので、つけ心地が楽なモデルを探していたらJINSで見つけて。それと実は、大学生の頃のゼミに、JINSの社長さんが来てくださったんです。JINS PC(現JINS SCREEN)が出たばかりのタイミングだったので興奮しました」(草野)
「昔から生活圏にあったので、JINSのメガネを愛用していました。アプリも入れています。JINSにまつわる思い出でいうと、アメリカ出張中にメガネをうっかり壊したことがあって、サンフランシスコの店舗に駆け込んだことがありました(笑)。あと、実は兄もJINSを使っています」(宮武)
昔からJINSのメガネを愛用されている宮武さん、そして学生の頃にJINSのCEOに会ったことがあるという草野さん。このたび編集長に就任したお二人には、JINSとの不思議な縁がありました。
そんなお二人がこれから数カ月、「やさしく疑う」をテーマに、現代社会にあふれる情報との付き合い方を考えてくれます。それはきっと、メガネをかけたり外したり、ときには敢えて色付きのものをかけたりして、さまざまな解像度で世の中を見つめるということ。そうすることで本当に正しいもの、必要なものを見つけられるのかもしれません。
これからOff Topic編集長が届ける記事を楽しみにお待ちください!